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星を見ていた

作者: マリー
掲載日:2026/04/30

 僕にも君の地獄を見せてほしいと思った。君の目に映ったであろう、最悪でとても綺麗な景色を見て見たかった。君の世界の欠片を少し分けてほしいと思った。

 君はいつ見ても驚くほど強い力をもって、目を背けたくなるほど輝いている。他の星々の光なんて、全部つぶしてしまえるくらいの威力で。

 でもあの日、あの最期の日、君はいつも通りの笑顔を作っているようだったけれど、今にも消えてしまいそうだった。少しだけ、影が見えた。あの瞬間、君が見ていたそれはどんな色をしていたの?君は、心の中でなんて叫んでいたの?その表情に隠された秘密を、君の本当を知りたいと思ってしまったのだ。僕にそんな資格はないと分かっていても、そう願わずにはいられなかった。


 君はいつでも完璧なアイドルだった。そうだったはずだ。誰にも弱みを見せず、甘く可愛いところだけを僕らに見せた。僕はあっという間に君の魔法にかけられてしまって、気付けば僕の瞳は君だけを映すようになっていた。君は僕にとっての桃色うさぎだった。君が纏うピンク色は、世界で一番可憐で美しかった。君がステージに立つと、そこはまるで全ての中心であるように思えた。太陽を嫌い、避ける僕が君の光だけは受け入れることが出来た。君が揺らすスカートに、僕が釘付けになって見とれている間に、随分時間が経ってしまったようだった。一度瞬きをした瞬間、君はこの世のどこにもいなくなってしまっていた。


 終わりは突然訪れた。無機質な通知音が鳴り、ほぼ無意識でスマートフォンを開いた。そこに君というアイドルの死が、感情のないテンプレな言葉でつづられていた。何度眼をこすっても、画面を更新しても、一文字も変わらず、一ミリも動かない。規約違反によるグループ脱退。

 見たことのある文字列だった。君の名前と並んであるところを、一番見たくないと望んでいた文字列だった。僕が絶望という言葉の意味を真に理解したのは、確かにこの時だったと思う。僕は生きる希望だった君を失って、これからの人生に対する期待を捨てた。そして、その時に気づいた。僕は思っていたよりも、君でいっぱいだったのだ。


 君が、愛や恋なんかよりも強烈な光を僕に教えてしまったせいで、僕は一生恋人も出来ず、本当の愛を理解することなく死んでしまうんだよ。

 君だ。君だったんだよ。僕には君しかいなかったんだ。

 君が気づかぬうちに僕にかけた呪いのせいで、僕はこれからもずっとずっと孤独なんだ。どうしようもできない寂しさを抱えたまま生きながらえるくらいなら、もういっそのこと、君とのお別れの余韻に溺れたまま死んでしまった方がいいのかもしれないね。何だかこれが幸福への一番の近道のような気がしてきてしまう。僕はどうしたらいいんだろうか。僕が今味わっている、悲しみも、苦しみも、辛さも全部全部君のせいだ。

 でも、まだ君のことが頭から離れなくて、大好きで堪らないのは、君が最後に残したおまじないなのかな。きっと一生嫌いになれない。僕の幸せを創ったのも全部君だから。


 ずっと君だけを見ていたから、君が自分の苦くて黒いところを隠すために、生クリームといちごをいっぱい乗せて、ぐちゃぐちゃにかき混ぜていたこと知っているよ。必死に重ねた甘ったるさで世界を、そして君自身さえも騙していたんでしょ。僕だけがそれに気づいているんだと信じていたかったんだ。どろどろの毒も君の手にかかると、素敵な隠し味みたいな魅力に変わるんだから君はさすがだね。

 実を言うと、ずっとこんな結末を迎えちゃうんじゃないかって心配な気持ちはあったんだ。だけどそれを言葉にするのは怖かったし、僕自身、急に消えちゃいそうな君だからこそ好きだったのだとも思う。


 君は自分で自身の糸を切ったマリオネット。もうこの箱庭には二度と戻らないんだろう。そう分かりきっていても期待してしまう。君の魔法にまたかけられたいと望んでしまうのだ。

 でも僕は、なんであんなことしたのなんて聞かない。絶対に答えないで。誰にも教えないで、誰にも見つからないで、ずっと僕の心をかき乱しているままでいてほしい。


 よく使う顔文字も、笑い方の癖も、君のことなら全部知っていると勘違いしていたけど、僕はきっと君のことを何も知らない。何も分かってない。君の一番奥の深いところを覗こうとすると、出口のない暗い場所に引きずられそうで勇気が出なかった。日和ってしまった。

 だからもうお別れなんだ。君は前世でも今世でもアイドルをやり切ったんだから、来世でもきっと素敵なアイドルになるんだろうね。君と出会えて、君を大好きになったこと何も後悔してないよ。これまでもこれからも僕の1番は君なんだ。僕が君の1番になれないことすら、望んでいたことのように思えているんだ。君の存在を構成する全部分がとても愛おしいよ。今この瞬間までの僕の全てを余すことなく君にあげよう。

 そしてさよなら。僕のアイディール。


 ひとり暮らしの部屋のベランダで真っ暗な夜空を見上げていたはずだったのだが、もう空が白み始めている。僕は今知ったのだが、君がいなくても夜は明けるらしい。僕は息ができるらしい。

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