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マザーグース風・破滅ざまぁ短編集

獅子と一角獣〜聖女に“普通”を見せたら、王子と司教の息子は民に見捨てられパンを投げられました〜

作者: 本咲 サクラ
掲載日:2026/04/04

 獅子と一角獣、

 王冠かけて戦った。



 武力と権威の象徴。

 王家──「獅子」。


 信仰と魔道の象徴。

 聖教会──「一角獣」。


 どちらも、

 自分こそがこの国の主だと信じている。


 今、その争いは絶頂にあった。



 第一王子と、司教の息子。

 どちらが聖女の伴侶に相応しいか。


 それだけの話を、

 国を、民を巻き込んで争っていた。



 私は、街のパン屋だ。

 そして、転生者だ。


 だから、知っている。


 これは、救いのない争いだ。


 どちらが勝っても、何も残らない。


 削れるのは、

 街の石畳と、

 そこに生きる人々の生活だけ。


 店の窓は割られ、

 物流は止まり、

 子供たちは怯える。


 それでも、彼らは気づかない。


 見ているのは、

 鏡に映った自分のプライドだけだからだ。



 私は、王家と教会が睨み合っている隙に、

 聖女と「普通の友人」になった。


 そして、聖女に見せた。

 彼らが忘れた“普通”の価値を。



 朝焼けの匂い。

 焼きたてのパンとプラムケーキ。

 誰も怒鳴り合わない、静かな朝。



 それだけで、十分だった。

 彼女は、気づいた。


 高貴な二人の瞳の中に、

 「自分」が映っていないことに。

 

 彼らの瞳に映っているのは、

 「聖女を手に入れた自分」という幻だけ。



 そして、決闘の日。


 獅子と一角獣は、

 街の中心で派手にぶつかり合う。


 閃く剣。

 唸る魔導。

 崩れる壁。


 彼らは酔いしれていた。


 これこそが、

 歴史に刻まれる戦いだと。


 だが、街には歓声の一つもなかった。


 あるのは、

 「もういい加減にしろ」という、

 底冷えするような沈黙だけだ。



 そして、

 最初の一つが、宙を舞った。


 売れ残りの、固いパンだった。


 誰かが投げた。


 もう、我慢の限界だったのだ。


 それが合図になり、次が続く。


 また一つ。

 また一つ。



 「やめろ! 私は王子だぞ!」


 「無礼者! 神の罰が下るぞ!」


 叫ぶ彼らに、

 白パンが当たり、

 黒パンが弾ける。



 誰も、もう彼らを敬っていない。


 守るべき民を足蹴にする獅子など。

 祈りを武器に変える一角獣など。


 この街には、必要ない。



 獅子と一角獣は、

 街中追ってやっつけた。


 だが、

 最後にやっつけられたのは、

 その両方だった。



 パンの雨に追われて、

 彼らは街の外へ転がり落ちる。


 泥にまみれた王冠。

 踏みにじられた法衣。


 それを見送って、私はパンを焼く。


 隣では、

 かつて聖女と呼ばれた彼女が、

 子供たちとプラムケーキを分け合いながら笑っている。


 「こちらの生活の方が、

 ずっと『聖なるもの』に近いですわ」



 獅子も、

 一角獣もいない場所で。



 獅子と一角獣、

 王冠かけて戦った。


 ──それで?


 彼らが手に入れたのは、

 誰にも見向きもされない、

 荒野の真ん中の王冠だけ。



 強さは、守るためにある。


 それを、

 自分のために振りかざした瞬間、


 世界は彼らを、

 ただの“邪魔者”として切り捨てた。



 さあ、パンが焼けた。



 争いのない場所では、

 それだけで、十分だ。

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