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コロッケパンチ

作者: 大石次郎
掲載日:2026/03/18

公立は不利だ。税金を強めに使うし、献金できないし選挙で効果無いから邪魔なんだろな、て。


というワケでうちの高校の帰りのスクールバスは去年から1本減らされていて、部活が長引いたり半端な時間に終わると引く程遠い駅まで、延々歩いてくハメになる。


バス利用者だから当然自転車とか原付とか乗ってないし。


「···え? 遠っ。もう2年だけど遠っ!」


ちょっとでも直線稼ごうと狭い路地の階段を降りながらツッコまぜるを得ないわ。


歩きで駅まで帰りたくないから徒歩になるの月に1〜2回なもんで一向に慣れないよね。


うちの高校は高台にある。特に水辺の街でもないんだけど災害時の避難地指定されてる。ピンチの時、徒歩で昇るのしんどくない? て思うけど。


まぁ学費安いしのんびりした校風だから私的にトントンではある。


トントンではあるけど···しんど。


「お〜い、小鷹(こだか)!」


上の方から呼ばれた。私に遅れてこの近道ルートを下りし者だな。知った声だ。振り返ると、特に急ぐでもなくのそのそ降りてくる男子がいた。


吹田(すいた)っ、なに?!」


「別に! いるな、て!」


同じ文系クラスの吹田に生存確認されたわ。


「あっそ!」


そこで会話は途切れ、私達は階段降りたり途中の細道下ったりするのに専念する。


段々、駅の方に降りてゆくわけよ。夕陽が目に染みるわ。


「···」


「···」


はい、うちの学校の徒歩下校名物『同じ徒歩なら距離縮まないよね? が見える化現象』ね。立体になるから。気まずいヤツ。と、


「毛玉が徐々に駅まで攻めてる感じだ!」


そっから切り出せるとなぜ思ったし。


「後頭部凝視すんなっ」


元はちゃんとしたショートカットだったんだけど部活と塾と友達の予定とかなんやかんやで2ヶ月くらい美容院に行きそびれ、今もうウルフカットを越えてワッサ〜ってなってんのよ。


部活の時、ずっとヘアバンドしてるから外してて余計ね。階段とか坂降りてると上昇気流吹きがちだし。


気流、そう。さっきからいい匂いが商店街の方からするんだよね。


揚げ物スメル。


「コロッケの匂いするよね!」


「買う、俺、コロッケっ」


急にカタコト。階段急なとこだな。


「あたしも買おっかな! でもなんか、炭水化物を足したいけどっ、塩分はそうでもないっ」


「部活の後だろ?!」


「ポカリ飲んじゃった!」


「ポカリかー!」


距離あるからなんかIQ低い会話になるわ···そしてしばらくまた無言。


どんどん駅と駅裏商店街に近くなる。


「···」


「···」


長考か? 吹田よ。『よくよく考えたら俺、クラスでそんな小鷹と喋ってもなかったわ』と気付いたか? ずっと見えてるから黙って付いてく感じになるのも気まずかったんだろうけど。


「···」


「···」


···いやっ、長考過ぎるだろ? あたしが耐えられんわっっ。商店街の端っこにもう降りちゃうわ。


「揚げたてコロッケも捨て難いけど! あたし村越(むらこし)ベーカリーでコロッケパン買うわ!」


折衷案。口はコロッケ、お腹は塩分程々のカロリーを求めていた。吹田はお肉屋にコロッケ買いに行くんだろうし、さりげなくここでお別れできる。マストだね。


さらばだ、同じショートカットルートを選びし者よ···


「俺もパン買うかぁ!」


お前も来るんかーい。初志、どした?


というワケで先に階段を降りきった私は待ってるのも変なので、チラ見してからさっさと商店街の村越ベーカリーに向かった。



パン屋の匂いと湿度と室温が好き。小ぢんまりとしたそこそこお客のいる村越ベーカリーの店内で、腹ペコの時の悪癖でトングをカチカチ鳴らしながらパンを選ぶ。


勿論、有言実行でコロッケパンを1つ。さらにウェイトと今日の部活の消費カロリーや肌のコンディションを考慮して『いやダメでしょ?』と理解しつつ、チョココロネもデザートにトレイに乗せちゃったよ。


ヤベェ···パン屋、トラップしかねぇ···等と戦慄してると吹田も遅れて入ってきて手をアルコールポンプで消毒。


「お、いた。チョココロネもいったか? 太るぜ小鷹。アハハ」


「···」


デリカシー! 吹田、デリカシーっ!


くっ、ドリンクは無糖紅茶しとくわ。


「ありがとうございまーす。スタンプね〜」


会計をあたしは口座や手数料の支払い先が分散するの嫌なのとポイントで縛られてるから、スマホの会社の電子マネーでピッと支払い、さらに財布から取り出した紙の『村越カード』にスタンプ捺してもらう。


あと2スタンプで50円引き。


「···」


まだ選んでるな吹田。くるみパン、林檎のシナモンデニッシュ、餡パン、オニオンチーズパン、食パン一斤、て!


「買い過ぎ?! 一斤ってっ、力士か!」


「違う違うっ、さっき連絡取ったら親と妹にも頼まれちゃってさ。俺はくるみパンだけ」


「コロッケはどうした? くるみパンて、森の小人かっ」


「いいだろ別に。一杯乗せてる内にもういいか、てなったんだよ」


「···ふん」


暖簾に腕押しなヤツだよっ。あたしは店を出て、軒下のベンチに座った。まずボトル紅茶を少し飲む。うん、悪くない。残るから今日、風呂上がりにも飲もう。


そして念願のやや冷めたコロッケパンの包装を剥く。柔いけどやや重めのパンに角切りジャガイモと玉ねぎ入りだけど肉入ってないコロッケ。ソース。マスタード。マリネされた申し訳程度のしんなりキャベツ。


小宇宙(コスモ)』。


「完璧だわ」


そしてあたしはこの小宇宙の破壊者なんだわ。


つまり、あ〜〜ん。


「っ!」


ウマーーーーッッ!!! 炭水化物にっ、揚げた炭水化物が挟まれてるんだよっっ。罪深い。罪深いヤツさ! 反対派もいるけどキャベツがいい。アクセント。カレーの福神漬け的なっ。


ふわっ、シャクっ、もふもふもふもふ···


揚げ物のシャクシャクとキャベツの薬味力によってもふもふ感が高まるんだよ。


こんなもふもふしてるの他にはゴールデンレトリバーくらいしかないよ。


いいなぁ。コロッケの中身の芋もホクホクだしね。これも玉ねぎがいい仕事してる。完成された食べ物だよ。


「詰めてくれ」


「んあ?」


出てきた吹田もベンチに座ってきた。詰めはするあたし。


おもむろにくるみパンを千切って食べる吹田。お上品。


「うま」


「吹田家はパン好きなんだ」


「いやたまたま。父、母、妹の分と食パンだからそうでもないし」


「ふーん」


あたしの場合、姉貴に言ったらカレーパンばっかし買ってこさせられるとこだね。ヤツは好物を冷凍してストックする習性があるから。


「···」


吹田、お上品でもパン食べるの早い。先に食べだしたあたしに追い付きつつある。このままでは大体同時に食べ終わるな。と思ってたら実際そうなり、私が紅茶を飲んでコロネの包装を剥きだすと吹田は微糖ミルク無しのボトルコーヒーを飲みだした。


分けないのもさもしいか。


「ほら」


頭を2対後ろの細い方を3くらいに割って後ろを渡す。


「おお、かたじけない」


武士か。


「···」


「···」


2人でもちゃもちゃコロネを齧る。甘っ。濃厚。


「明日、購買のコロッケおごる。あのパサパサのヤツ」


「ん」


60円で売ってる。あれはあれでいいと思う。ああいう栄養も必要。


食べ終わり、紅茶を飲む。デザートは半分になったが、明日のランチにボーナスが入った。良き。


時間を確認すると私の電車まで少しあった。吹田はテンポを落とし、コーヒーを全部ここで飲みきる気配だ。


···吹田、か。


「この間、湯元(ゆもと)達とカラオケ行ったんだ」


「湯元。あー···」


薄い情報だけど湯元は確か1年の時、吹田と同じクラスだった。


「でね! 湯元とかモッちんとかはさ、あ、モッちんってわかる?」


持崎(もちざき)だろ?」


「そう! でねっ、あのドリンクバーでさ。あたしさ。そう、あたし、あの店でマラカス借りてさ、あれさ、傷んでてさ、振ったらボンっ! でクラッシュしてさ、あれ中身知ってる?」


「砂?」


「小石! ぶぁーって散って、結構攻撃力あんだわ。モッちん直撃。痛ぁ?! て、ごめんて。ドリンクバーの周り大惨事。他の客が証言してくれてマラカスを振っただけで炸裂したことはわかってもらえたから弁償しなくて済んだし、モッちんクリーニング代出してもらえた。でも、室外に楽器持ち出しやめて下さい、て注意されて」


「そりゃな。はしゃぎ過ぎ」


「でもさ! 2人がじゃんけんで負けて全員分飲み物持ってくることになったから、応援しようと思ってさ」


「手伝ったら?」


「じゃんけんの意味! でさっ、それで」


おお〜、待て待て、テンション上がり過ぎて話が纏まらんっ。


「···湯元って彼氏いんのかな?」


「?!」


振り向くとさっきまで森の小人だったのにめちゃ男子の顔してる!


「···いない、みたいだけど。じゃ、あたし、電車先だから」


「おう。明日購買のコロッケなっ」


「あーい」


あたしは競歩選手並みの早足で駅舎に向かった。


···不覚っ。十年後も思い出して「んぁっ!」となるくらいの不覚っっ。



で、翌日昼休み。


「はいこれ」


「ああ」


何食わぬ顔の吹田にコロッケ1個もらった。湯元もいたけど、特に何もなく「じゃ」と友達の所に去っていった。


「小鷹、なになに〜?」


見慣れて忘れてたけど結構美人な湯元。


「なにゆえ吹田がお主にコロッケを?」


内輪では時代劇調になりがちなモッちん。


そして2日続けてともなれば『理解度』は増す!


あたしは除菌シートで手を拭き、家から持ってきた食パンとウスターソースとマスタードとスプーンを取り出し、


「これをこうして」


食パンにマスタードを塗り、パサパサの吹田コロッケを乗せ、ソースを掛け、ムギュッと挟む。


「こう!」


思い切り齧ってやったわ。そしてマスタード塗り過ぎたっっ。


「辛!! ごほっごほ」


パンチ効き過ぎだったわ。

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