初陣
あたいは宇佐美ミミ。12歳の小学6年生だ。
うちは貧乏でボロボロのアパートに暮らしてる。
あたいと母ちゃんと弟のケンと妹のハナの一家4人暮らしだ。父ちゃんは借金を残して病死した。悪い友人に借金を押しつけられたんだ。体の弱かった父ちゃんは昼間はスーパー夜は道路工事のバイトで働いて過労死した。
あたいも新聞配達のアルバイトで借金の返済を手伝っている。
ちゃんと返してるからヤクザが乗り込んできたり嫌がらせの張り紙されることはない。
ヤクザがお菓子や缶詰をくれたこともある。ヤクザに同情されるぐらいうちは貧乏なんだ。
働いても働いても我が暮らし楽にならざり。じっと手を見る日々だ。
うちが貧乏だからケンとハナがいじめられないようにあたいはピアスと目つきの悪いウサギが背中に描かれたスカジャンを着ていた。
ヤンキーファッションだ。
小学校では女番長として強気をくじき弱きを助けている。新聞配達で足腰鍛えてるし運動神経は生まれつき良かったからケンカは負け知らずだ。子分と力を合わせて高校生にも勝ったことがある。
暴れん坊のいじめっ子をボコしたら不良の兄がでしゃばってきた流れだ。完全な正当防衛だな。
バイトといじめ撲滅に取り組む日々を送っていたある日、ハナがたちの悪い風邪を引いちまった。
もう3日も熱が下がらずゴホゴホ咳をしている。
夜、布団で寝込んでいるハナをケンと一緒に看病していたが、よくなる気配はまったくない。医者を呼ぶ金も薬を買う金もなかった。母ちゃんは道路工事にバイトで今夜も不在だ。
苦しむハナを見ていると自分のことのように苦しくなる。あたいは覚悟を決めて立ち上がった。
「ちょいと出かけてくるぜ」
「どこに行くの?」
「散歩だよ」
ふすまを開けてたった一畳の自分の部屋に入る。ハンガーにかかったスカジャンを着る。机上のスマホからラインを開く。グループ名は怪盗キッズだ。
時刻は夜8時10分。
「今夜決行だよ」
メッセージを打つ。ポン!と音がする。あたいのアイコンはウサギだ。
オオカミとブタとクマとニワトリのアイコンが反応する。
キンロー「よっしゃぁぁぁ!」
ぷーやん「ほないこか!」
クマどん「りょ〜か〜い!」
コッコ「はいな!」
全員乗り気だ。あたいは机の引き出しからウサギのマスクを取り出してくるくるとまとめてポケットにぎゅっと突っ込んだ。おもちゃのナイフもポケットに入れる。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ハクトは不安げだ。ハナはひどい風邪だし1人にされるのがさびしいのだろう。
「すぐ戻る」
あたいはアパートを出た。向かった先は近所のコンビニだ。
もうみんな集合していた。それぞれ動物のマスクをかぶって武装している。
キンローはメリケンサックを持ち、ぷーやんはフライパンを持ち、クマどんは金属バット、コッコは竹刀を持っている。あたいはおもちゃのナイフだ。
コンビニにはちょうど客がいなかった。あたいはカウンターに足をどかっと乗せて若い女店員におもちゃのナイフを差し向けた。
「姉ちゃん、金だしなッ!」
「きみたちイタズラはだめだよ?」
「出さねえと、子分どもがだまってねえぞ?」
子分たちはそれぞれ武器を構えてみせる。
「わかったわよ。どうせすぐ捕まるんだからね」
女店員はレジからお金を取り出す。カウンターに置かれた札と小銭を子分たちにすばやく配る。ちゃんと数えてない。どんぶり勘定だ。
ピーポーパーポー♩とサイレンが響いてくる。
「サツよッ!」
「はよにげなッ!」
コッコとぷーやんに言われるまでもない。ずらかるぜ。
「バラバラに逃げなッ!」
あたいらはコンビニを飛び出した。
追ってはない。これでハナを医者に見せられる!
あたいはスキップした。足元に花が咲いたように思えた。




