9話
月曜の朝、ケンジはオーロラレッドと並んで、戦隊本部の扉をくぐった。
プラチナ長官の執務室は、白と金を基調とした豪奢な空間。壁にはスポンサー企業のロゴが並び、机の上には“正義の理念”と書かれた分厚い冊子が置かれていた。
「で、何の用? 任務報告ならチャットで済ませて」
プラチナ長官はコーヒーを啜りながら、書類に目を落としたまま言った。
ケンジは一歩前に出た。
「長官、僕たち、話したいことがあります。正義についてです」
長官の手が止まった。
オーロラレッドが続けた。
「最近の任務、スポンサーの意向ばかりで、住民の声を聞く機会がありません。僕たちは、誰のために戦ってるんでしょうか」
「スポンサーのためよ。彼らが資金を出してる。だから、彼らの望む“正義”を演じるのが仕事」
「それは“演技”であって、“正義”じゃないと思います」
ケンジの声は震えていたが、目は真っ直ぐだった。
「僕たち、地域の声を聞きたい。子どもたちと話したい。コンプレックスのように、対話を重視する活動もしたいんです」
長官は鼻で笑った。
「コンプレックス? あんな“ゆるい悪”と比べてどうするの。私たちは“正義の象徴”なのよ。黙ってポーズを決めて、セリフを叫べばいいの」
「それじゃ、僕たちはただの広告塔です。ヒーローじゃない」
オーロラレッドが拳を握った。
「長官、僕たちの声を聞いてください。現場の声を」
長官はしばらく沈黙した。
そして、冷たく言い放った。
「なら、辞めれば? 正義に疑問を持つ者は、正義じゃない」
ケンジは、静かにうなずいた。
「わかりました。僕は、正義を辞めます。ヒーローは辞めません。誰かの声を聞ける存在として、これからも動きます」
オーロラレッドも、ゆっくりとヘルメットを机に置いた。
「僕も、考えます。正義の形を」
二人は背を向け、執務室を後にした。
廊下の窓から差し込む光が、彼らの背中を静かに照らしていた。




