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ブラックな戦隊ヒーロー ケンジの憂鬱  作者: 双鶴


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8/17

8話

 イベントの翌日、ケンジは自由が丘の裏通りを歩いていた。

 昨日の「ヒーローと話そう」は、子どもたちの笑顔に包まれた穏やかな時間だった。

 だが、最後に見た赤いスーツの影――オーロラレッドの姿が、ケンジの胸に重く残っていた。


(あいつ、何を思って来たんだろう)


 その答えは、意外な形で訪れた。

 路地裏のカフェでラテを注文したケンジが席に着くと、向かいにオーロラレッドが立っていた。

 スーツではなく、赤いパーカーにジーンズ。だが、目は戦闘時と同じ鋭さを宿していた。


「……話せるか?」


「もちろん」


 二人は向かい合って座った。

 沈黙が数秒続いた後、オーロラレッドが口を開いた。


「昨日のイベント、見てた。……お前、変わったな」


「変わったっていうか、気づいたんだ。俺たち、誰のために戦ってるのか、わからなくなってた」


「正義のためだろ」


「その“正義”って、誰が決めてる? スポンサー? 長官? 俺たちの声は、どこにある?」


 オーロラレッドは言葉に詰まった。

 ケンジは続けた。


「俺、コンプレックスの会議に出た。彼らは“悪”って言われてるけど、地域の声を聞いてた。俺たちは、聞いてるか?」


「……聞いてない。でも、それが任務だ。俺たちは、命令に従うことで正義を守ってる」


「それ、正義じゃなくて“従属”だよ。俺は、もう従うだけのヒーローにはなりたくない」


 オーロラレッドは拳を握った。

 だが、すぐに力を抜いた。


「……俺も、最近は迷ってた。スポンサーのセリフ、長官の指示、仲間の空気。全部に流されて、何も考えなくなってた」


「だったら、話そう。俺たちの声で、何か変えられるかもしれない」


 ケンジの言葉に、オーロラレッドは静かにうなずいた。


「……プラチナ長官は、黙って従えって言うだろうな」


「それでも、声を出す。俺たちが“ヒーロー”であるなら、まずは誰かの声を聞ける存在であるべきだ」


 その言葉に、オーロラレッドは少しだけ笑った。


「お前、強くなったな。戦闘じゃなく、言葉で」


「ありがとう。でも、まだ怖いよ。戦隊を離れるかもしれないって思うと、足がすくむ」


「俺もだ。でも、話すことから始めよう。まずは、俺たちから」


 二人はラテを飲み干し、立ち上がった。

 その背中には、かつての“正義”とは違う、静かな決意が宿っていた。


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