8話
イベントの翌日、ケンジは自由が丘の裏通りを歩いていた。
昨日の「ヒーローと話そう」は、子どもたちの笑顔に包まれた穏やかな時間だった。
だが、最後に見た赤いスーツの影――オーロラレッドの姿が、ケンジの胸に重く残っていた。
(あいつ、何を思って来たんだろう)
その答えは、意外な形で訪れた。
路地裏のカフェでラテを注文したケンジが席に着くと、向かいにオーロラレッドが立っていた。
スーツではなく、赤いパーカーにジーンズ。だが、目は戦闘時と同じ鋭さを宿していた。
「……話せるか?」
「もちろん」
二人は向かい合って座った。
沈黙が数秒続いた後、オーロラレッドが口を開いた。
「昨日のイベント、見てた。……お前、変わったな」
「変わったっていうか、気づいたんだ。俺たち、誰のために戦ってるのか、わからなくなってた」
「正義のためだろ」
「その“正義”って、誰が決めてる? スポンサー? 長官? 俺たちの声は、どこにある?」
オーロラレッドは言葉に詰まった。
ケンジは続けた。
「俺、コンプレックスの会議に出た。彼らは“悪”って言われてるけど、地域の声を聞いてた。俺たちは、聞いてるか?」
「……聞いてない。でも、それが任務だ。俺たちは、命令に従うことで正義を守ってる」
「それ、正義じゃなくて“従属”だよ。俺は、もう従うだけのヒーローにはなりたくない」
オーロラレッドは拳を握った。
だが、すぐに力を抜いた。
「……俺も、最近は迷ってた。スポンサーのセリフ、長官の指示、仲間の空気。全部に流されて、何も考えなくなってた」
「だったら、話そう。俺たちの声で、何か変えられるかもしれない」
ケンジの言葉に、オーロラレッドは静かにうなずいた。
「……プラチナ長官は、黙って従えって言うだろうな」
「それでも、声を出す。俺たちが“ヒーロー”であるなら、まずは誰かの声を聞ける存在であるべきだ」
その言葉に、オーロラレッドは少しだけ笑った。
「お前、強くなったな。戦闘じゃなく、言葉で」
「ありがとう。でも、まだ怖いよ。戦隊を離れるかもしれないって思うと、足がすくむ」
「俺もだ。でも、話すことから始めよう。まずは、俺たちから」
二人はラテを飲み干し、立ち上がった。
その背中には、かつての“正義”とは違う、静かな決意が宿っていた。




