7話
土曜の午後、自由が丘のコミュニティセンターには、子どもたちの笑い声が響いていた。
コンプレックス主催のイベント「ヒーローと話そう」。
“戦わないヒーロー”として、ケンジはゲストに招かれていた。
スーツは着ていない。
緑のパーカーにジーンズ。胸元には小さな“G”のバッジだけ。
それでも、子どもたちは「オーロラグリーンだ!」と駆け寄ってきた。
「ねえ、どうして悪と戦うの?」
「ヒーローって、疲れないの?」
「コンプレックスって、悪なのに優しいよね?」
ケンジは、質問の嵐に戸惑いながらも、ひとつひとつ丁寧に答えた。
「戦う理由は、昔は“命令されたから”だった。でも今は、“誰かの声を守りたい”って思ってる」
「疲れるよ。でも、話すことで少し楽になるんだ」
「コンプレックスは、悪って言われてるけど、僕よりずっと人の話を聞いてる。それって、すごいことだと思う」
子どもたちは真剣に聞いていた。
その中に、一人だけ黙って座っている少年がいた。
ケンジはそっと隣に座った。
「話したくない日もあるよね。でも、聞くよ。何でも」
少年は小さくうなずいた。
「……学校で、ヒーローごっこするとき、僕は“悪役”ばっかりやらされる。強いって言われるけど、なんか、悲しい」
ケンジは、しばらく黙っていた。
そして、静かに言った。
「僕も、昔は“正義”って言われてた。でも、命令ばかりで、自分の気持ちは誰も聞いてくれなかった。だから、今は“役割”より“気持ち”を大事にしたいと思ってる」
少年は、少しだけ笑った。
「じゃあ、僕も“話せる悪役”になる」
「それ、すごくかっこいいと思うよ」
イベントの終盤、ミナミがケンジに声をかけた。
「今日のあなた、ヒーローだったと思う。肩書きじゃなく、誰かの声を受け止めたから」
ケンジは、静かにうなずいた。
そのとき、会場の外に赤いスーツの影が見えた。
オーロラレッドだった。
彼は遠くからケンジを見つめ、何か言いたげに立ち尽くしていた。
ケンジは、目をそらさずに見返した。
(次は、あいつと話す番かもしれない)




