6話
月曜の夜、ケンジはスーツを脱ぎ、コンプレックスの会議室にいた。
壁には「今週の課題」「地域の声」「対応案」と書かれたホワイトボード。
戦闘員たちはラフな服装で、資料を広げながら議論を交わしていた。
「駅前の喫煙所問題、行政が動かないなら、代替案を提示しよう」
「若者向け店舗の入りづらさ、デザイン提案できるかも」
「高齢者の買い物支援、うちの戦闘員が付き添い役になれるか?」
ケンジは、正義の戦隊では聞いたことのない言葉の数々に、ただ圧倒されていた。
“悪の秘密結社”と呼ばれる組織が、ここまで地域に向き合っているとは思っていなかった。
「ケンジさん、どうですか? 何か気づいたこと、あります?」
ミナミが静かに問いかける。
ケンジは一瞬ためらったが、ゆっくりと口を開いた。
「……俺たち、オーロラ戦隊は“正義”って言われてるけど、実際はスポンサーの指示で動いてるだけです。住民の声を聞いたことなんて、ほとんどない」
会議室が静かになった。
誰もケンジを責めなかった。ただ、真剣に耳を傾けていた。
「昨日の戦闘で、販促怪人を倒しながら“冷え性を撃退!”って叫んだんです。子どもたちは笑ってたけど、俺は……自分が何をしてるのか、わからなくなって」
ミナミはうなずいた。
「それでも、声を出したんですよね。“それが正義なら、俺はもう正義じゃなくていい”って」
「……はい。でも、あれは衝動でした。今は、何が正しいのか、わからないです」
戦闘員の一人が、静かに言った。
「正しいかどうかは、あとで決まることですよ。まずは、声を出すことが大事です」
ケンジは、その言葉に救われた気がした。
正義でも悪でもない場所で、自分の声が受け止められた。
それだけで、少しだけ呼吸が楽になった。
会議の終盤、ミナミが提案した。
「今度、地域の子どもたち向けに“ヒーローと話そう”ってイベントを開こうと思ってるんです。ケンジさん、ゲストで来ませんか?」
「……俺、ヒーローじゃなくなったかもしれませんよ?」
「それでも、子どもたちは“ケンジさん”に会いたいと思うはずです。正義とか悪とかじゃなく、“話せる大人”として」
ケンジは、深く頷いた。
その夜、彼はオーロラ戦隊のスーツをクローゼットにしまい、静かに部屋の灯りを落とした。
(俺は、何者でもない。でも、誰かの声を聞ける存在にはなれるかもしれない)




