4話
土曜の午後、ケンジは私服姿で自由が丘の一角に立っていた。
今日はコンプレックスの活動見学の日。ミナミから「気軽にどうぞ」と言われていたが、戦隊スーツを脱いで敵組織に足を踏み入れることに、少しだけ罪悪感があった。
(俺は、裏切ってるんだろうか…いや、ただ話すだけだ)
コンプレックスの拠点は、カフェを併設した多目的スペースだった。
中に入ると、ラテの香りと柔らかなジャズが流れていた。
戦闘員たちはスーツではなく、パーカーやジーンズ姿で談笑していた。
「ケンジさん、いらっしゃい。今日は“地域の声を聞く会”なんです」
ミナミが笑顔で迎えてくれた。
壁には「不満を語ろう」「モヤモヤを共有しよう」と書かれたポスターが貼られている。
参加者は近隣の住民や商店街の店主たち。戦闘員は聞き役に徹していた。
「最近、駅前の喫煙所が撤去されて困ってるんですよ」
「うちの店、若者が入りづらいって言われてて…」
「行政に言っても動かないから、こういう場がありがたいです」
ケンジは驚いた。
“悪の秘密結社”とされる組織が、地域の声を真剣に聞いていた。
しかも、戦闘員たちはメモを取り、うなずき、時に共感の言葉を返していた。
(俺たち、こんな活動…したことない)
オーロラ戦隊の“地域交流”は、スポンサーのチラシ配りやイベント出演が中心。
住民の声を聞くことはなく、むしろ“正義のイメージ”を押し付ける場だった。
「ケンジさん、どうですか? 違和感あります?」
ミナミが静かに尋ねた。
「……あります。正直、俺たちの方が“悪”っぽい気がしてきました」
「それ、よく言われます。でもね、私たちも完璧じゃない。時には批判されるし、誤解もある。でも、話すことで少しずつ変わっていけると思ってる」
その言葉に、ケンジは深く頷いた。
だが、心の奥には別の感情も芽生えていた。
(この空気、居心地が良すぎる。俺は…甘えてるだけじゃないか?)
その夜、ケンジはオーロラ戦隊のグループチャットを開いた。
オーロラレッドは「明日の戦闘、気合い入れていこう!」と叫び、プラチナ長官は「スポンサーの新商品、必ずセリフに入れてね」と指示していた。
ケンジはスマホを閉じ、静かにため息をついた。
(俺は、どこに向かってるんだろう)




