表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラックな戦隊ヒーロー ケンジの憂鬱  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/17

2話

 熊野神社の境内で、ケンジは足をくじいた。

 石段を駆け上がる途中、オーロラレッドの「正義はスピードだ!」という掛け声に合わせて無理なジャンプをした結果だった。

 戦闘はなんとか終わったが、ケンジは足を引きずりながら駅前のバス停に向かった。


 オーロラピンクは「Uber呼べば?」とスマホを見せてきたが、ヒーロー活動中の個人利用は規則違反だ。

 プラチナ長官に連絡しても「自力で帰って。ヒーローは自立してこそよ」と一蹴された。

 オーロラブラックは無言でスマホをいじり、オーロライエローは「お菓子あるかな」とつぶやき、誰もケンジの足を気にしなかった。


 バス停のベンチに座り、ケンジは足をさすりながら空を見上げた。

 そのとき、1台のタクシーがゆっくりと止まり、窓が開いた。


「おや、オーロラグリーンじゃないか。足、痛めたのかい?」


 運転席には、柔らかな笑みを浮かべた中年男性――タケシがいた。

 かつて悪の秘密結社「ダークネス団」の戦闘員として名を馳せ、隣町・駒沢でその組織を自ら解散させた伝説の人物。

 しかも、敵対していたヒーロー戦隊「サンシャイン」のサンシャインピンクと結ばれたことで、業界では“奇跡の和解”と呼ばれている。


「乗りなよ。業界の先輩として、ちょっと話そうか」


 ケンジは一瞬ためらったが、足の痛みとタケシの穏やかな声に背中を押され、タクシーに乗り込んだ。


 車内は静かだった。

 タケシは運転しながら、ゆっくりと語り始めた。


「昔はね、俺も“悪”って呼ばれてた。ダークネス団の戦闘員として、毎週ヒーローと戦ってたよ。だけど、戦ってるうちに気づいたんだ。正義も悪も、現場の人間はただ働いてるだけだって」


「……」


「サンシャインピンクとは、最初は敵だった。戦闘中に何度もぶつかって、互いに傷だらけになった。でも、ある日、戦闘後に偶然話す機会があってね。彼女も疲れてた。正義のプレッシャーに押し潰されそうだった」


「それで、結ばれたんですか?」


「うん。お互い、戦うより寄り添う方が向いてたんだよ。今じゃ、彼女は保育士。俺は運転手。平和って、案外こんなもんさ」


 ケンジは、車窓から流れる駒沢の街並みを見ながら、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

 タケシの言葉は、どこか懐かしく、そして羨ましかった。


「……俺も、コンプレックスと話してみたいです。敵っていうより、同じ業界の仲間かもしれない」


「いいね。話すことから始まるよ。正義も悪も、まずは人間関係だ。俺たちは“役割”で戦ってるだけ。中身は、みんなただの人間さ」


 タクシーは熊野神社の裏手に到着した。

 ケンジが降りると、タケシは軽く手を振って言った。


「足、無理するなよ。ヒーローも、休んでいいんだ」


 その言葉は、ケンジの心に深く染み込んだ。

 戦隊スーツの中で、ケンジの胸が少しだけ軽くなった気がした。


 その夜、ケンジはコンプレックスの公式サイトをこっそり覗いた。

 「採用情報」「福利厚生」「週休二日制」の文字が、妙に眩しく見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ