15話
日曜の朝、自由が丘の空は曇っていた。
ケンジは、駅前の広場に設置された仮設ブースの前に立っていた。
「ヒーロー連盟・地域応答窓口」――昨日の市民集会の反響を受け、急遽設置された相談所だ。
開始から30分で、すでに十数人が列を作っていた。
高齢者、母親、学生、そして小さな子どもたち。
ケンジは、マイクもスーツも使わず、ただ目線を合わせて話を聞いていた。
「行政に言っても動かない。でも、誰かが聞いてくれるだけで、少し前に進める気がする」
「息子が学校で孤立してて…先生は“様子見ましょう”しか言わないんです」
「ヒーローって、こういうこともできるんですね」
ケンジは、メモを取りながら、必要に応じて地域の支援団体や医療機関に繋いでいく。
“正義”ではなく、“応答”としてのヒーロー。
それは、かつての戦隊活動とはまったく異なるものだった。
一方、オーロラ戦隊本部では、プラチナ長官が激昂していた。
「ケンジの活動が“ヒーロー”として報道されている? ふざけるな! 正義は我々の専売特許だ!」
長官は、スポンサー企業との緊急会議を開き、「AI戦隊による秩序維持キャンペーン」の強化を決定。
同時に、戦隊メンバーに“ケンジとの接触禁止令”を通達した。
だが、その通達は、戦隊内部に静かな波紋を広げた。
オーロライエローは、控室でお菓子を食べながらつぶやいた。
「ケンジ、なんか楽しそうだったな。俺たち、最近“誰かのため”って感じ、ないよな」
オーロラピンクは、鏡の前でメイクを直しながら言った。
「正義って、こんなに窮屈だったっけ? 昔はもっと自由だった気がする」
そして、オーロラブラック――昨日ケンジ側に合流した彼は、戦隊のグループチャットに最後のメッセージを残した。
「俺は、誰かの声に応える方を選ぶ。戦隊を離れる。ありがとう」
そのメッセージに、オーロラレッドが短く返信した。
「俺も、考えてる。正義って何か、もう一度向き合いたい」
その夜、ケンジはサンシャインピンクとタケシと共に、連盟の今後について話し合っていた。
ミナミが資料を広げながら言った。
「メディアが動いてます。“聞くヒーロー”はもう理念じゃない。社会的なモデルになりつつある」
サンシャインピンクは、静かにうなずいた。
「でも、次は“守る”段階に入る。声を拾うだけじゃなく、現場に入って支えること。それが本当のヒーロー活動になる」
ケンジは、深く頷いた。
「わかってます。俺たちは、もう“戦う”じゃなく、“動く”ヒーローになるんです」
その言葉に、タケシが笑った。
「ようやく、時代が追いついてきたな。ケンジ、お前はもう“新しい戦隊”の隊長だよ」




