第二章:小さな会話
先生の授業は、他の先生と少し違っていた。
教科書の文字をただ追うのではなく、時々、自分の体験談を交えながら話す。
「ここ、テストに出るぞ」という時も、声色を少し変えるからすぐにわかった。
気づけば、私は黒板よりも先生の表情を追っていた。
***
ある日の授業後。
授業の片付けをしてる先生に勇気を出して、声をかけた。
「あの…先生」
「ん?どうした?」
顔を上げた先生は、思ったより優しい目をしていた。
「世界史の記述の書き方、わからなくて…」
震える声でそう言いながら、問題集を開く。
記述の書き方は、わかっている。けど、先生と過ごす時間が欲しい。
先生は私の後ろに立ち、覆い被さるように、問題集を持った。
近くで感じた先生の体温に、ますます心臓が暴走する。
「記述だったら…こうやって考えるといいぞ」
問題集を持って実演してくれた。
「わかりました…」
理解できたのかどうかも曖昧なまま、うつむいた。
「本当に〜?」
先生は少し笑って、また片付けに戻った。
----その何気ない笑顔が、胸の奥に残った。
ほんの数分のやりとり。
でも、それは私にとって、初めて「普通に会話できた」という大切な出来事だった。
それからは私は、少しずつ、先生に話しかける理由を探すようになっていた。




