第一章:出会い
【登場人物】
・一ノ瀬 那奈(16)(高校1年生)
内気で人付き合いが苦手。どこか儚げな雰囲気を持つ泉先生に心惹かれる。
世界史の教科係になったことがきっかけに、授業後に先生と話すのが、唯一の楽しみになっている。
・泉 洋喜(28)
社会科教師。めんどくさがり屋で職員室では浮いた存在。
社会科準備室でほとんど過ごしている。慕ってくれている那奈を目で追ってしまう。
入学して数日だというのに、教室にはもうグループができていた。
楽しそうに話す声を横目に、私は机に突っ伏して次の授業が始まるのを待った。
人付き合いは得意じゃない。だから、ただ静かにやり過ごすしかなかった。
ガラリ、と扉が開く。
背の高い男性がゆったりと入ってきた。
上下ジャージ姿。まだ若く見える。
「隣のクラスの先生…」
「名前、なんて言ったっけ…泉、なんとか」
思い出そうとする間に、その人は黒板にチョークを走らせていた。
「泉洋喜です。今日からこのクラスの世界史を担当します」
声は大きすぎず、けれど教室の隅までよく通る。
黒板に書かれた文字は、小さくて、整っていて、見た目とのギャップに少し驚いた。
「真面目そうな人…」
心の中でつぶやく。
その日は、ただそれだけの印象だった。
けれど、授業を重ねるごとに、不思議と心が先生の声に引き寄せられていった。
桜が散り、葉桜に移り変わるように。
気づけば、先生に抱く思いも少しずつ、色を変えていった。




