閑話 門衛隊長ティストルの話 2
彼女が旅立つ朝に、見送りをした
せめて風呂を作ってくれた代金だけでも渡したいと思い
小さな袋に気持ちの金貨を入れて渡そうとした
でも、彼女は断った
代金を受け取れば、作ったお風呂の責任を取らなければいけなくなる
旅を続ける自分には無理な事だ
魔法で作ったものだから、いつ壊れるかもわからない
子供が遊びで作ったもの、ぐらいの気持ちで使ってもらいたい
そう言っていた
彼女の説明に酷く納得した
確かにそうだ
次にここを通る時に、お礼をさせてもらおう
そう言えば
「それまでお風呂が残っていればいいですけどねえ」と言って
いたずらっ子のように笑っていた
賢くて、愛嬌もある
・・・・・もう、完全にファンの気持ちだ
関所から旅立つ彼らに手を振って送り出す
姿が見えなくなるまで手を振った
その日の夜にさっそく、風呂に入る事にした
湯が出るボタンを押すと、ジャバジャバとお湯が出て来る
しかも、その湯が出て来るところがまた不思議だ
ティストル「これは、やはりキマイラだろうか?」
獅子の顔の口からジャバジャバと湯が出る、何とも奇抜な発想だが
小さな頃見た図鑑のキマイラがこんな顔だった気がする
「隊長もそう思います?カッコイイですよね!」
ティストル「ははっ、そうだな」
若い部下には、格好よく見えるようだ
「キマイラもいいけど、ドラゴンとかもいいよな」
「おお、それもいいな」
なんて楽しそうだ
脱衣スペースで服を脱いで、半分ほど溜まった湯に体を沈める
「ああーーーー」思わず声が出る
部下たちも「はあー」とか「ふうー」とか、声が出ている
普段、湯に浸かることは無いので格別だ
これは最高かもしれない・・・・
浄化では落ちない物が、流れでていくようだ
「隊長・・・星まで見えて最高ですね・・・・」
ティストル「ああ、きれいだ」
屋根はあるが、空も見える
木も壁もなければ、もっと解放感があるかもしれないな・・・
「俺は、彼女が女神さまの遣いかと思いましたよ・・・」
「お前もか?俺もだ、ははっ」
ティストル「気持ちはわかる・・・・俺は彼女が作る宗教に入る自信があるな」
「あははっ、隊長!それならここの人間は全員入信するんじゃないですか?」
「俺も入るわ」
ティストル「だよな?・・・・・ここまで生活が変わると、彼女がいう事すべてが正しいような気がしてな」
「実際そうでしたもんね」
彼女が教えてくれた、翌朝から劇的に食事は変わった
朝は焼きたてのパン、ここがもう天と地の差がある
いつもはカチカチのパンをスープに浸けて、かじっていた
焼きたてのパンはいい匂いで、嚙み切れる、しかも美味い、最高だ
あったかいパンに乗せるチーズもいい
昼も、夜も、彼女がくれたスパイスミックスが劇的に味を変えてくれた
塩コショウだけの味じゃない
次に来る物資が楽しみすぎる・・・
早くコメが食いたい
部下たちも楽しみができたのか笑顔が増えた気がする
長年嫌われてきた配属先だが、新しい風が吹いた
この日から、他の人間も料理が出来るように
最初に教えてもらった4人を中心にまわりにも教えて広めていった
向き不向きがあると思う
美味いパンの日があれば、正直イマイチな日もあった
それでもみんなが、自分たちの為に頑張っていた
そして、自分でパンを作る事がはじめての者たちばかりだからか
「俺、母さんにありがとうって言いたい」
「だよな、これをいっつもしてくれてたんだな」
そういう事を言うやつが増えた
俺と一緒だ
家で食べる焼きたてのパンは当たり前だったが
当たり前では無かった
自分で作るようになるまでは気づけなかった
彼女が旅立ってから、初めての物資が届いて
さっそくコメを炊いてみた
一番最初に炊いたコメは下が焦げてしまった
慣れるまでは少しかかりそうだ
それでも、上の方はちゃんと食べれた
教えてもらった通りに肉を焼いたものを乗せるだけでも美味かった
パン以外が食べれる、これも良かった
次回から、半分はコメにしようと決めた
関所の生活しやすさが格段に上がった
はじめは料理を嫌がっていたもの達も、今では楽しんでやっている
特にトリトンは町に帰るたびに新しいメニューを仕入れて帰ってきた
「戦いよりも向いているかもしれません」そう言って笑っていた
1か月が経つ頃に本部から指令が来た
『各、関所の改善のために識者を派遣して欲しい』
彼女が来たあとに、関所が変わっていくのを肌で感じて
本部へ報告と嘆願を書いて送ったのだ
その声が届いた
ここ以外にも関所は何個もあるのだ、同じ境遇の者を助けたい
すぐに4名を選抜して、他の関所へ送る事を決めた
派遣先の関所から代わりの人を送ってもらい、人員交換する
これで、こちらに来る人もここで学べるし
送った先では、知識を教える事もできる
同時に『浄化版』の取入れを強く希望したので
少しずつ他の関所でも普及すると思う
ティストル「これは大事な任務だ、私は君たちを信じている。今後の関所や門衛のためにも、しっかりと知識の普及を頼む!」
「「「「はい!!!」」」」
激励と共に送り出し
代わりに来た者たちには教えてやる
そして、風呂に一緒に入りながら
ある日、突然来た女神の遣いの話をした
カチカチのパンを齧る毎日から救い出し、我々に光を見せてくれた
その名は『ルラ』
こうしてカンリオ国の関所では、『ルラ』を信仰するものが増えた
派遣されていった者たちも、同じように話したからだ
幻の『ショウガ焼き』これを一度は食べてみたい
門衛の中では知らないものはいないだろう
1年後にはティストルは環境改善を成したと認められ
昇進し、町で隊長としての勤務を勧められたが
断わった
「約束があるので」そう言って
次に来た時にお礼をする
それに、もう残り少ないだろう衛兵として働く時間をここで過ごしたい
老後は町でのんびりと暮らそう
そう思っていた
ティストル「ここに再び来てくれるだろうか・・・女神は」
ほぼ毎日、風呂に入って空を見上げる
彼女も見ているだろう空を・・・・
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一方そのころ、ルラ
町で、醤油や大葉を見つけて
テンション爆上げで、大葉料理を量産していた
自分が女神の遣いなんて呼ばれている事も知らずに・・・・
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一方そのころ、ダンスタンス
「んあ?ルラから手紙!?なになに?・・・・・・」
手紙の内容は、元気でやっていますからはじまり
Aランクパーティ『アルラド』になった事
ガロルドという相棒が出来た事、従魔も2匹いて可愛い
今はカンリオに居る事、美味しいご飯をたくさん作っている事
最後に『しょうゆ』をカンリオで見つけたので、ポルモットさんに輸入を頼んでみる事
などが書き綴られていた
「いやいや、元気なのはわかったが、肝心なとこが書いてねえ!その男は何者なんだよ!」
全部なんでもない事のように書いてあるし、ダンジョン踏破の事は触れてもいねえ
これは戻ってきたら説教だな・・・・
しかも、他の手紙が同封されている
宛先がわからないので送って欲しいですって書いてある・・・・
俺は郵便屋じゃねえぞ・・・・
そう思いつつも、書いてある通りの所に渡しにいってやった
幼年学校に、青果店
どっちも「ルラからの手紙だ」っていうと
飛んで喜んでいた
良い関係だったんだな
冒険者ギルドマスターだって名乗ったら、驚いてたけどな
「ギルドマスターを足に使うなんて・・・さすが・・・・」って言ってた
まったくだぜ、もっと言ってやってくれ
学校の先生なんて泣いて喜んでたからな
嫁にも手紙を見せた
「なにこれ?相手の男の事は名前しか書いてないじゃない」
そう俺を睨んできた
いや、俺に言われてもだな・・・・
「でも、楽しそうで良かったわ。しょうゆも買えるようになるかも知れないもんね」
そう言って、手紙を何度も読み返していた
次はいつ手紙を送ってくるんだろうか・・・
帰ってきてもいいんだがな
そう言って、嫁と笑いあった
ありがとござした!




