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終わりと始まり、そして出会い

「お前ほんっと弱いな!!!そんなんでよく俺たちのパーティーにいるよ!」

戦闘が終わるとすぐにそんな罵声が広い荒野に響き渡った。

その声でモンスターが現れるんじゃないの?と言われた本人は考えていた。

「だいたいお前のその目!魔法を使うと若干紫がかるとか普通じゃねぇよ。この世界に紫の瞳を持つ人間なんていないって言うのに…」

一方的に暴言を吐いてくる、このパーティーのリーダーに半ばうんざりしていた当人は、

「普通じゃないと言われても、これが私の目なんでどうしようもないです。」

と反論してみた。

「俺に楯突くってのか?!もういい!お前なんてこのパーティーの足でまといでしかないんだから、金輪際俺たちの前に現れないでくれ。」

そう一方的に言うと、リーダーと他のメンバーは目もくれずに踵を返しスタスタと歩き出した。

ポツンとその場に残された本人はと言うと…

「まぁいっか!私もあんな傲慢で人の助言を聞かない奴らにうんざりしてた所だし、ちょうどいいや。」

と妙にスッキリした表情でいる。

そう、窮屈で、退屈で仕方なかったのだ…

私と自分を呼んでいたこの人物の名前は、エザリア・ハルベルトと言い、黒い髪に魔法を使うと通常水色の瞳が若干紫に色が変わるのである。

それを見られるのが嫌で、本人は実力を本領発揮していないが、彼女は決して弱くは無い。

むしろ先程別れたパーティーのメンバー全員でかかっても、瞬殺されてしまうくらい本当は強いのである。


「さてと!めんどうなヤツらも居なくなったことだし、とりあえず街に戻って、ギルドでパーティ募集してるところないか探そ!」

と意気込んで歩き始めたのはいいのだが…


「あれ?こっち?それともこっちから来たっけ??」

とブツブツ1人呟きながら道を彷徨う。

その間運悪く鉢合わせたモンスター達は、彼女に瞬殺された。

次々襲い来るモンスターを瞬殺していくうちに、どんどん街からは全く違う場所に向かっている。

そう、エザリア・ハルベルトは途方もない方向音痴なのであった!


「なんなの?街に全然たどり着かないんだけど!

ここどこ?!」

と、方向音痴な事を知らない当の本人はどんどん道をはずれていく。

「はぁ、とりあえず歩き疲れたし、暗くなってきたし今日はもう休むとしようかな…」

そう1人つぶやくと、アイテムボックスから野宿セットを取り出す。

モンスターがやって来ても対応出来るが、めんどくさくとりあえず寝たいという気持ちから、結界魔法を周囲にかける。

「念の為にテントの周囲にも結界を張っておくか。」と考え、自分のテントの半径500mの範囲を結界で覆った。

もちろん、一晩中自分の周辺を結界で覆うなどということは普通の冒険者でもそうそう出来るものはいない。

と言うか出会ったことがない。魔力消費量が半端ないからである。なのでエザリアはパーティーから離れるまで、結界を使ったことはなかった。

その結果が、役立たずと捨てられたのだ。


今頃アイツらどうしてるんだろと、うふふと何を想像したのか、笑みを浮かべながらこの日は眠りについた。


「ふぁー…」

大きな欠伸と伸びをして、1人ゆっくり眠れたのか昨日歩いた疲れはどっかへ行ったようだ。

「さてと、冒険者ギルドに登録するためにも街を目指しますか!」

とテントなどをアイテムボックスに収納し、出発の準備を始める。

「どっち行けばいいの??」

左右どちらを見渡しても、見当たるのは森のみである…

「チッ、こんなことならアイツらから地図奪っておくんだった!」

と今頃気づいたエザリアは、まぁでもどうにかなるだろうと道無き獣道を突き進む。

もちろん、出会ったモンスターは当然のように瞬殺していく。

この辺のモンスターであれば、エザリアは魔力を解放せずとも普段の使ってなかった力を使えば難なく倒せる。


「ダメだ…完全に迷った…」

絶望に昏れるエザリアは、仕方なく今日も野宿のセットを取り出し、今日も野宿とする事にした。

幸い、アイテムボックスに食材や調理グッズはもちろん常備していた上、次々と襲ってくれるモンスターのお陰で肉には困らなかった。

まぁモンスターの肉には美味しい、不味いが極端に分かれているが…


テントでゴロンと寝転ぶと、天井を眺めながらポツリと、これでもう何日だっけ?と呟く。

まぁいっか、と気持ちを切り替え寝付くことにした。明日こそは街に辿り着けることを願いながら。


………


夜の静寂の中眠るエザリア出会ったが、いきなりバッと起き上がった。

理由は1つ。周囲に張った結界に堂々と侵入してくるものがいたのである。


「こちらが居ることはもう向こうにはバレてる…

下手に動くより、相手がどう出るか試してみるか。」

などど言うと素早く、戦闘スタイルに着替える。


1歩、1歩確実にこっちに向かってきている敵の気配に思わず気付かぬうちに汗が頬を伝った。


(来る!)

ゴクッと息を飲み、下手に刺激はしないように武器は手に取らずにいた。


パリン!と音がし、闇の中にテントが現れる。

そのテントの中を覗いてきたのは…


何とも言えぬ、美しい銀髪に紫の瞳を持つ男だった。いや、男なら良かった。

その男は何も言わずにただじっとこちらの様子を窺っているかのように、何もしてこない。

(仕掛けるか?)と思ったが、まずは冷静にこの男の正体を突き止めようと、男をじっと見つめてみた。

魔力を探索する為、こちらも魔力を使用したため瞳の色が若干紫に変わった。


エザリアの瞳の色が暗がりではあるが分かった男は、驚きからか目を少し見開き、エザリアの腕をガシッと掴んだ。

(くっ、強い!)

エザリアの瞳による鑑定の結果は、もしこのまま戦えば、恐らく勝てない、ということだった。

だが、見知らぬ男に殺されてたまるかと言う気持ちからキッと睨みつける。

男はその眼差しを受け、美しい顔に微笑みを宿した。

ついつい見惚れてしまいそうな顔に、反則だ…と思いながら、男の反応を待った。

「お前、名前は?」

と美しい男はエザリアに質問を始めた。

すぐ殺されるか、攫われて連れ去られる覚悟を決めていたエザリアはポカンとする。

「どうした?そんな不思議そうな顔をして。

名前を聞いているんだ、な・ま・え!」

と言われ

「エザリア・ハルベルト…です…」

と一応答えてみる。

「エザリア・ハルベルト、エザリア…ブツブツ」

と名前が引っかかったのか、男は何かを考えているようだ。

(逃げるチャンスか?)と一瞬思ったが、腕はしっかり掴まれたままである為、男の反応を待つことにした。

「エザリアとやら、なぜ俺を攻撃して逃げようとしない?お前の力ならそれくらい出来るだろう?」

と怪しげな笑みを浮かべ、挑発してきた。

「はっ、ご冗談を!私があなたから逃げる?そんなこと出来るわけないじゃない。」

と至って冷静に答える。

「なぜそう思う?」

と男は尋ねる。

「お前は実力を隠しているだろう?本当は強いのだろ

?なぜ俺から逃げようとしない?」


……


しばらく静寂の闇の中で沈黙が続く。

(はぁ、これ以上隠すのは無理か…)

と諦めたエザリアから口を開く。

「だって、私が逃げようとしたらあなた、私を殺そうとするでしょう?」

ゴクリと唾を飲み込みながら言葉にしてみた。

「ふっ、俺がお前を殺す?その実力がありながらなぜそう言い切れる?」

と男か言う。

「だって…本当の実力を隠しているのは、私だけじゃないでしょ、あなたもでしょ?」

と言葉にすると、更に強い力で腕を掴まれ、

「ははっ、やはりな!お前は私の本当の力を見抜いていたのか。どこまで見抜いているかは分からないが、面白い、気に入った!」と言うと腕をそのまま引っ張り、エザリアを抱きとめる。

いきなり見知らぬ男に抱きとめられて、戸惑っているエザリアは顔を見あげると、そこには怪しくも美しく微笑んでいる男がいた。

その男の瞳は綺麗な紫色であった。

思わず見とれてしまっていたが、はっと顔を背け

「どういうつもりです?気に入ったって何のことです?」

と男に聞いてみる。

「俺と来れば、その瞳について教えてやるぞ?」

と言われた。

瞳…はっと、慌てて目を隠すが、それをそうはさせるかと、塞がれる。

(しまった…この男の実力を見るために力を使ってしまった。つまり、私の瞳の色が変わることをこの男に知られてしまった!)

と咄嗟の相手の実力を図るために力を使ったことを、ふと思い出したのであった…

(えっ、でも待って。今この人、俺と来ればこの瞳について教えると言った?)

エザリア本人、力を使うと瞳が本来の水色から紫を帯びた色になる理由は知らない。

そしてこの謎の男は、エザリアよりもより美しい紫色の瞳を持っている。

とうするべきか考えていると、別の気配を察知し警戒する。


ガサガサとくらい闇の中を、慌てながらこちらも美しい男の人がやってきた。

「いきなり野営から出ていかれるから探しましたよ!どうしたって言うんですか、ご主様!!!」

と勢いよく紫の瞳の男に向かって言ってのけるや否や、

「あの…僭越ながらこれはどういう状況でしょうか?」

と男をご主人様と言った美しい彼もこの状況に困惑しているようだ。

「失礼ながら、そちらの女性は?」

と従者と思しき男が尋ねると、主はニヤッと笑みを浮かべ、

「こいつを今日から俺の元に置くことにした。」

とあまりにも突拍子のないことを言い出すので、エザリアも突っ込まずにはいられなかった。

「いや、まだ何も言ってないです!てかいい加減離してくださいよ!!!」

と言い彼の腕の中で暴れてみるが、ギュッと抱きしめられ身動きが出来なくなった…

「彼女が何者か分からないのに、ご主人様の元に置くなど私は納得できません!」

と、突然言われたらそうなるよな、と思いながら2人のやり取りを見ていると、

「この女は俺の力を見抜いた。」

とだけ付け足す。

「えっ、ご主人様の力をですか?!」と従者と思われる男が驚きを隠せないようにバッとエザリアの方を見る。

じっと瞳を見つめてき、まだ力を使って時間が経っていないため、僅かに紫がかった瞳の色であった。

「この者は、もしかして?」

と訊ねてくる従者に対して

「かもな、」と淡白に答える。だが、その表情はどことなく嬉しそうというか、楽しそうにエザリアは見えた。


「ちょ、勝手に2人で話を進めないでください!

私は早く街に戻って、ギルドに冒険者登録しに行くんでくから!」

と言って2人の間に割って入ると、2人とも不思議そうな顔をしている。

「街に、ですか?」

と、怪訝な顔をしながら従者の方が訊ねてくる。

「はい。使い物にならないと、パーティーから放り出されたので。」

と正直に答えると、クックックと口を手で押えながら銀髪の美しい男が笑っていた。

「お前の本当の力を分からぬばかりか、放り出すとは余程そいつらの方が使い物にならないではないか。」

「いいか、この近辺にあるのは俺の屋敷くらいで、街まで行こうとしたら歩いて丸3日休み無しで歩き続けなければならないぞ?」

と言ってきた。

確かにエザリアはパーティーから離れてから5日ほど野宿しながら道に迷い続けていた…

「えっ、やっぱそんなに歩かないと街まで行けない?」

途方に暮れてるエザリアを脇目に、

「俺の屋敷に来れば、お前の瞳のことも知れるし、何より暖かいベッドで寝れるぞ?」

ニヤッとこちらの反応を伺うように不敵な笑みを浮かべる。

(…瞳のことはもちろん知りたい。でも…何よりも!何よりも!今欲しいのは!!フカフカのベッド眠りたい…)

と苦悶の表情を男は楽しそうに見ている。

「で、決まったか?もちろん俺は無理強いをしたりしない。お前が望むのであれば俺に着いてこい。」

と美しい男は腕を解き、手を差し伸べた。

なんだか、強引な気がするが嫌な気がしない。何故だろう?と不思議に思いながらも、差し伸べられた手を払う気にはなれなかった。

その手をギュッと握り締めると

「よし、決まりだ。こいつは今日から俺の屋敷に置くことにする。いいな?」

「はぁ…」と軽くため息を吐きながら、主人の言うことに逆らえる訳ではなく、従者は

「では、明日の朝にでも戻りましょう。今日はもう遅いです。えっと、エザリアさんでしたか?今日は我々の野営場所にてご一緒願えますか?」

とエザリアに伺いたてる。

なんだか新鮮な対応に対してどうしていいか戸惑いながら、

「はい、こちらこそよろしくお願いします…」

とおずおずと言った。


こうしてエザリアの新たな行き先?が半ば強引にも決められたのであった。


(……どうして…どうしてこうなるのー!!!)

と夜中に野営場所に連れてこられたのはいいものの、なぜか連れてきた男は一緒のテントで、横になりエザリアを抱いたまま眠りについたのだ。

(いやいや、待て待て。落ち着け、エザリア。この人は私を逃がさないために、こうしているだけかもしれないし…)

と自分で自分に言い聞かせるようにして、眠れぬ夜をパーティーを離れて初めて体験したのであった。

横に眠る男はと言うと、ぐっすりと眠りについている。誰とも分からないエザリアを抱きながら。


朝になってもエザリアを連れてきた当人に起きる気配が全くない。

心配になったエザリアは体勢を変えて、顔を見てみると…

朝から眩しいくらい爽やかな微笑みを宿しながら、エザリアを見つめていた。

もちろん回された腕は簡単には解けないぐらいギュッと抱きしめられている。

「お、起きてたんですか?!」

と朝から強烈な攻撃力のある微笑みを向けられ、そんなことに慣れてないエザリアは視線を逸らしながら、ドギマギと反応する。

その反応が気に入ったのか、男はまだ眠い…とか、言いよりきつく抱きしめながら、もう一度寝ようとする。

(いやいや、その爽やか微笑みで眠くないのは分かってますよ??)

とエザリアは思い、腕から何とか逃れようと足掻くが、足掻けば足掻くほど腕がキツく締められる気がしていた。

そうこうしていると、テントの入口が開き朝の日差しと共に、昨日の従者がしっかり身なりを整えた状態で主人を起こしに来た。

この状況を見ても尚且つ、冷静で特に慌てることなく主人に声掛けをするところを見ると、この男にとってはその辺の女を連れ帰って抱きしめて寝るということは普通のことなんだろうか?と考えていると、

「なんだ、お前か…」

と先程までの爽やか微笑みはどこへ行った?!と言うくらい不機嫌な態度にエザリアは混乱してしまう。

「もう朝ですよ、起きてください。ご主人様!」

と従者は声を掛ける。

「嫌だ、もう少しこうしている…」と当のご主人様はエザリアを再び強く抱き締め、眠りにつこうとする。

「早く屋敷に戻らないと、皆心配しますよ!早く身支度を整えてください。

それにご主人様はぐっすりお休みになられたようですが、エザリア様はそうではないようですよ?」

と従者に言われると男は、ガバッと起き上がりエザリアの顔をよく見る。

「昨晩は眠れなかったのか?」と心配そうな顔を向けられ、どんな顔をしても美しい顔は変わらないんだなーとエザリアは思いながらも、

「まぁ、こんな風にずっと抱きしめられていたら寝れたもんじゃありません。」

とフィっと顔を背けて言うと、

「なんだ、俺に手を出されるんじゃないかとドキドキして待ってたとか?可愛いところもあるもんだな。」

と茶化してきた。

「そりゃ!こんな風にずっと抱きしめられていたら、誰だって安心して眠れませんよ!あなたは慣れてらっしゃるみたいですけどね!」

と負けずと嫌味で返すと…

「主がこんな風にぐっすり寝られているのを、私はお仕えして初めて見ましたよ。」

と従者が耳打ちして来た。

「聞こえてるぞ。要らないことを言うな、ルドベフト。」

とジロっと邪魔だと言わんばかりに睨みつける。

そういった対応に慣れているのか、気にせんとばかりに

「申し遅れてました。私ルドベフト・サスベルと申します。お気軽にルドベフトとお呼びください、エザリア様。」

ニコッと笑顔で挨拶をすると、主はようやく起きる気になったのか、体を起こす。

「さっ、朝食の用意は出来ておりますので、早く身支度して出てきてください。」

と言ってルドベフトと名乗る従者は出ていった。


ルドベフトがいなくなると、仕方ないと言った具合で男は立ち上がり、いきなり服を脱ごうとする。

それを見てしまったエザリアは慌てて、

「ちょ、いきなり何脱ごうとしてるんですか!」

「いや、着替えようと思って…」

などと言い合っているが、なぜエザリアが頑なにこうも言うのかと言うと、

「魔法で着替えれますよね?!」

とエザリアが言う。

「まさかそんな魔法使えないとか言うんじゃないですよね?あれだけの魔力を持っていながら…」

と言いエザリアは、しまった、と言う顔をする。

「なんだ、あの一瞬でそこまで分かったのか?やはりお前はいいな。」

「お前じゃなくて、エザリア!です。ご主人様!!!」

と妙にご機嫌なそのご主人様とやらに言った。

するとふと今更名乗ってなかったことに気づいたのか、その男はエザリアの手を取ると

「これは失礼。俺としたことがまだ名乗ってなかったな。俺の名前はガイ・アスクレウスだ。改めてよろしく。」

と名乗ると、エザリアの手にチュッと挨拶のキスをする。

「な、なにをするんです!いきなり!!!」

エザリアは顔を真っ赤にして、手を振りほどきそっぽを向く。

「ふふっ、その反応を見るとパーティーに居たと言え、男に慣れてるようでは無いな?」

安心した…とボソッとエザリアには聞こえないように付け足した。

「まぁいい、ルドベフトが待っているだろうし早く着替えるとするか。俺としてはこのままここで着替えてエザリア、の反応を見るのも楽しそうでいいんだけどなー…」

などと言い、エザリアの方をチラっと見る。

真っ赤になってるエザリアはエザリア、と強調されて呼ばれたことには気づかずに、

「いいから早く着替えてください!」

と自分は魔法で、自分の装備に服装を変えた。

「そこは一緒に着替えるとこじゃないの?」

と真顔で言ってきたガイを思いっきり、魔法でぶっ飛ばしたい衝動に駆られながらも、ぐっと堪え早く着替えるように催促する。


「おーい、エザリアさーん。まだ目瞑ってるの?

安心して、もう着替えたから。それともまだ目を瞑ってるってことは、今度は唇にキスして欲しいとか

?」

気づくと着替え終わっていたガイにからかわれながら、腰に手をまわされルベルトの元へと連れていかれる。

(だから、こういうことサラッとするのやめてもらえる?!こっちの心臓のことも考えて欲しいよ…)

と思いながら、嫌ではないエザリアであった。

ご機嫌なご主人様がテントから姿を現すと、ようやく来てくれましたか、と軽くため息を付きながらルベルトは朝食をそれぞれに配膳していく。

簡易的な朝食であったが、それでも柔らかいパンに温かいスープ、オマケに果物まで付いてきた。

エザリアが果物に目を輝かせていると、それを見たガイが、

「なんだ、果物が好きなのか?屋敷に付いたらもっとご馳走を用意してやるぞ。」

と優しく声をかけ、頭をポンポンと叩く。

主の普段は全く見せないその様子を、微笑ましく眺めているルベルトであった。

(良かったですね!ご主人様!!!)

と冷静な表情とは裏腹に、内心ではガッツポーズをしていたのであった。

他愛ない会話をしながら朝食を食べ終えると、ルドベフトは片付けと、出発の用意をする。

「あの…」

とおずおずとガイに話しかけるエザリア。

「ん?どうかした?」

「ここからお屋敷までどれくらいの距離なんですか?」

と、2人きりの空気に耐えられないのか話しかける。

「そうだな、馬で1時間あれば着くか?」

距離を目算しながらガイは答える。

「馬で1時間?!えっと、ガイ様はなぜこのような森に従者と2人きり?で来られてたんですか?」

昨日からずっと素朴に疑問に思ってたことをふと聞いてみた。

「あぁ、確かに俺とルベルトの2人だな。ま、目的は周辺の調査を兼ねてちょっと気になることがあったんでね。あと俺のことは様なしで、ガイと読んでいいぞ。」

ニッと笑いかけながら言う。

きっと様を付けられたくなかったのであろう…

そうとも知らないエザリアは呼び慣れるためか、ガイ、ガイ…とブツブツと繰り返してる。

「あの、ガ、ガイ…周辺の調査は分かるのですが、気になることってなんだったんです?」

ガイと呼び慣れていないエザリアは、顔を赤くしながら呼び慣れないその名前を呼び質問した。

「おっ、さっそくガイと読んでくれたか♪もうちょいかかると思ったんだけどなー。気になること?内緒♡それはもう解決したからいいんだよ。」

ガイと呼ばれ嬉しそうに微笑みながら、エザリアの質問は軽くはぐらかす。


そんな会話をしていると朝食の片付けと、出発の用意を終えたルベルトが馬を2頭連れてやってきた。

1頭は漆黒の毛並みに綺麗な長い尾を持っ馬と、もう1頭はよく見かける茶色い毛並みのでも決して安くはないと高貴さを持ち合わせている。

「黒いうまの方がご主人様の馬でして、こっちの茶色い毛並みの方は私の乗ってきた馬です。」

馬を見て目を輝かせるエザリアにルドベフトが紹介する。

「馬が好きなのか?」

横からガイがエザリアの様子を見ながら質問してくる。

「はい!馬なんて、私のいたパーティではとても買えませんでしたから。いつか乗ってみたいと思ってたんです。撫でてみても大丈夫ですか?」

「そいつは人を選ぶから、慎重に行けよ。でないと噛まれたり、蹴られたりするからな。」

そう警告されても、触りたい衝動を抑えきれないエザリアは漆黒の馬の瞳をじっと見つめ、

「怖くないよー、大丈夫キミに危害を加えるつもりはないから。ただ、ちょっと触らせて貰えないかな

?」

人間に話しかけるかのように、丁寧に優しい声音で声をかけ、エザリアはそっと頭を撫でようと正面からいこうとすると

「ちょっと待ってください、エザリア様。目を見て話すのはいい心がけですが、初めて触るのにいきなり正面からいくのはあまりオススメはしません。出来れば顔の横から手を伸ばし、頭や背中を撫でるのがいいでしょう。」

とエザリアに触れる注意点を指摘を条件反射でしてしまったが、すぐにしまった…とルベルトは思った。恐る恐る主の方を見ると、俺が言いたかったのに、と腕を組みながら無言でアピールしてきてる。

(大変申し訳ありませんでした。)

ルベルトは心の中で謝り、エザリアにバレないように軽く頭を下げる。

そんなやり取りに全く気づいていないエザリアはと言うと、初めて馬を触れるという緊張と喜びでドキドキウキウキしている様子だ。

「えっと、ルベルトさん。側面からいったらいいんですよね?」

と当の本人たちは別のやり取りをしているので、恐らく聞こえていないがエザリアは確認しながら馬に触れようと手を差し伸べる。

まずは手のひらを鼻の近くに持っていき、匂いを嗅がせることで敵意のないことを示す。その最中も優しい瞳でじっと漆黒の馬の瞳を見つめる。

馬はエザリアの手のひらに鼻を近ずけ、匂いを嗅ぐ。その際にも馬はエザリアのことを観察しているのか、見つめてくる瞳をじっと見ている。

「私はあなたの敵ではありませんよ。少し触らせてもらってもいいですか?」

と伺いを立てながら手をまず背中に軽く乗せ、優しく撫でてみる。

敵意がないとはんだんしてくれたのか、暴れたりする様子を見せない馬に少し安堵し、エザリアは背中を優しく撫で、次に頭を撫でてみる。

すると馬は気持ちよさそうに目を細め、頭をエザリアが撫でやすいように少し傾ける。

「ふふっ、いい子。」

微笑みかけながら撫で続ける様子を、何やら軽く衝撃を受けているような様子で見ているガイとルベルトであった…

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