心霊写真の鑑定 -中-
『俺はここにいる』
もしそう伝えたがっているとすれば、自分の身体を見つけてほしいあまり、生きた人間を巻き込んでしまう可能性がある。その場合、早急に男を祓わなければならない。
依頼主から聞いた情報を元に、ある同業者に確認すると、すでにその山にいた霊たちは祓われているという。写真が撮られた数週間後に、霊が祓われたという時系列だ。なら山岳部の彼らに危険が及ぶことはない。
これで依頼である『この男が危険か否か』は判明した。だからこれ以上調べる必要はない──のだが、猫宮は気になることがあった。
最後の確証を得るために不慣れなSNSを開く。猫の広告や指名手配のニュース、天気予報などを誤って表示しつつも、画面を操作していく。ある男とある山をクロス検索すると、予想していた内容が数件ヒットした。どれも閲覧数が辛うじての二桁台であることから、依頼主含め彼らは見つけられなかったのかもしれない。
『とある山で心霊写真』
『遭難した男』
そして、──『フォトボム』
フォトボムとは、他人の写真に写り込もうとするイタズラのことである。
もうお分かりだろう。
怪奇現象や超常現象とされるもののタネは、案外取るに足らないものである。
「『俺が幽霊になってみた』ぁ〜?!」
依頼主に見せた男の投稿内容だ。男の正体はフォトボマーだった。自身のSNSのフォロワーを増やすために試行錯誤した結果、心霊写真の霊として写ることを思いついたらしい。いわゆる売名行為だ。つまり心霊写真と思われていたものは、
「偽物……!?」
いつの間にやら隣のテーブル席にいる女性が、猫宮の視界に入る。席に着いたばかりなのか、テーブルはがらんどうだ。
依頼主はその女性に気づく様子もなく声を荒げていた。客入りが少ない店内に声が響く。彼女を含め周りの迷惑になることを猫宮は懸念し、声を抑えるようにたしなめる。
偽物であると判断した根拠をひとつずつ挙げていく。
第一に、被写体が人間なら霊感に関わらず写って見えて当然。
第二に、山岳部の彼らはその山に初めて訪れた。ある程度下調べをしていたとしても、知名度の低いフォトボマー男の存在までは知らなかった可能性が大いにある。
第三に、男はわずかに端の方に写っていた。よく見なければ分からないような写り方だ。まだ下山が控えていた彼らは、さしてじっくりと写真を見なかったのだろう。下山後に改めてゆっくりと確認したから見つけられたと思われる。
第四に、山での遭難は残念ながら珍しいことではない。初心者向けと言われる高〇山でも、遭難事故が毎年七十件前後発生している。
第五に、霊にしては生きた人間と大差ない見た目である。個体差はあれど、死亡時の肉体の状態になっているか、身体が全体的に薄くなっているのがほとんど。不健康には見えるが、男にはもはや、健康的な生者との差がなかった。
第六に、周辺に岩や背の高い草花があった。腰ほどの高さであれば、大人一人が隠れるには十分だ。そこで待ち伏せておき、全員が自身に背を向けたところを狙うこともできただろう。撮影用いたたのが三脚でなければ、撮影者によってその場で気づけたかもしれない。
最後に、男は生きた人間のフォトボマーである。霊として写真に映り込み話題になることを目的としていることが、男のSNSに載っている。自白と同等の証拠能力があるだろう。
「つまり、そもそもこの男は霊ではないから、呪い等の心配はない」
根拠の提示を終えると、脱力した依頼主が何か言いたげな顔で猫宮をじっと見つめた。筋の通った話のはずだが、何かおかしい点でもあったのだろうか。そう尋ねれば、彼も心霊写真ではないと納得いる様子だった。では何が問題なのか。
「猫宮さんってお祓い屋さんですよね」
「はい。そうですが」
基本的に、霊を専門とするのが霊媒師や坊主であるのに対し、祓い屋は妖を専門とするのだが、今回は説明を割愛する。
オカルト側の人間が、積極的に否定する根拠を挙げ連ねたことに、違和感を覚えたらしい。否定したいのではなく、男が本物の霊ではなかったからこそ、否定せざる終えなかっただけだ。
猫宮はくどくどと語ったわけだが実の所、本当の根拠は──「勘」だ。
具体的に述べると、写真を見た瞬間に猫宮には、男が生きた人間だと分かった。猫宮の感覚は他者から理解を得ることが難しいゆえに、そう見えたから、そう感じたからと伝える訳にもいかず、相手が納得できるように説明する必要があったのだ。もっともらしいことを列挙して、依頼主を納得させた。
ただし、猫宮は探偵ではない。先の話はどれも可能性の話に過ぎないと指摘されれば、それまでだった。
それよりも猫宮には、ずっと気になってたことがある。それは、「本物が多い」ということだった。
覚えているだろうか。
『写真が撮られた数週間後に、霊が祓われたという時系列だ』
『依頼主から聞いた情報を元に、ある同業者に確認すると、すでにその山にいた霊たちは祓われているという』
──霊たちは──。
猫宮にはずっと写真に写った霊が見えていたのである。生者と死者を合わせて十人以上。だから始めに写真を見たとき、依頼主がどの霊のことを指しているのかが分からず、視線を彷徨わせていた。
本物の霊の方はというと、堂々とカメラの前を横切っていたり、ダブルピースをしていたりと、隠れる気すらない。ひとりは五人の横に並び、六人目かのように振る舞っている始末。念のため言っておくが、害のある類ではない上に既に祓われているため、危険性は皆無だ。
猫宮には、霊も妖もあらゆるものが見えすぎるあまり、探して欲しいものが何か分からない。
これが心霊写真の鑑定依頼に、不向きな理由だ。
そして、それ以降の鑑定は酷いものだった。
★猫宮さんの質問コーナー★
Q1)殺人事件が起きても、猫宮さんならすぐ解決できちゃうー?
A1)被害者の証言は得られるだろうな。ただ、死人から聞きましたって言っても、俺がとち狂ってると思われてお終いだ。
Q2)探偵にならないのー?
A2)無理だなー。それっぽいことしか言えないぜ?
Q3)写真だと見えないヒトには見えないし、絵だとそれがホントにいるか分からないんだねー?
A3)絵っていうと……孔雀の絵描きのことか。そうだな。そうそう都合の良いようにはできてないらしい。




