番外編
「素敵なウエディング姿だね」
王太子は、魂が抜けたかのように虚ろな顔をしているユリーティアに話しかけた。
ユリーティアは、「西教室に行く」と言って、帰ってきた時にはもうこんな状態だったらしい。誰も何故そんな状態になってしまったのかは分からなかったが、植物状態になってしまったユリーティアを、彼女の両親は簡単に捨てた。
そしてそれを哀れにおもい、ユリーティアを引き取り、こうして日がな世話を焼いているのが王太子だ。彼は、ユリーティアに対して罪悪感を抱いていた。
自分がちゃんと彼女に向き合っていたら、こうならなかったのでは、と考えてならないからだ。
何故かサファイアのネックレスだけは離さないユリーティアに、話しかける。
「覚えている? あそこにいるのはメアリー嬢だよ」
一瞬、ユリーティアの体がピクリと動いた。その小さな動きに、王太子は泣きたそうにクシャリと顔を歪める。
ユリーティアを愛しているかと聞かれても、王太子はまだ曖昧にしか答えられない。
だけど、幸せを掴んだメアリーを、とても羨ましく思う。どうか、これからは健やかに生きてほしい。
そして自分自身も。ユリーティアを愛していきたいと思っていた。
「もう、僕達はこの丘を超えることは許されないけど、ただ眺めるだけなら許されるよね? だって、あんなにあそこは綺麗だ……」
すー、と目から涙が零れ落ちた。
「君を突き放した僕の行動は、きっと間違えていたんだろうね」
いつもユリーティアを支えてきたメアリーも、少々方法はあれだったが王太子を愛していたユリーティアも、きっと正しい愛の形だったのだろう。
「僕も、いつか」
間違ってないと、言える愛が欲しい。
涙を拭いて、王太子は車椅子を押しその場を去った。
それから王太子は、生涯ユリーティアの車椅子を押し続けた。跡継ぎなどは妹に託し、王太子はユリーティアに誠実であり続けた。
その様子を見ていた、メイドは言う。
「ユリーティア様も、何処か綻んだ顔をしていて、王太子殿下の目も優しくって、まるで、長年連れ添った夫婦を見ているようです」
それからまた少し経って、ユリーティアが亡くなり、その後を追うように王太子も亡くなり、二人は今は同じ墓で眠っている。
王太子とユリーティアの命日の日は、その墓にある夫婦が花を手向けに来ているらしい。
終わり
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