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蔵の中のゆりか

 そして、ついに運命の5月25日がやって来ました。この日こそは、あの魔法博士が平野ゆりかさんを拐かすと予告して来た日なのです。

 幸い、25日は日曜日でした。ゆりかさんだけではなく、ゆりかさんの弟の一郎くんも、また、少年探偵団の少年団員たちも、全員が学校は休みだったのです。さらには、ゆりかさんのご両親も、この日ばかりは、外に出かけないで、自宅で待機していました。そう、やがて、襲ってくるであろう魔法博士を迎え撃つには、まさに、もってこいの日だったのです。

 この日は、早朝から、少年探偵団の護衛チームは、平野邸にとお邪魔させてもらっていました。あの恐るべし魔法博士は、今日であれば、いつ襲撃してくるかも分からないからです。

 今回、平野宅に配備された探偵団員は、全部で5名でした。まずは、団長のコバヤシくん。それから、ゆりかさんと仲良しの宮田ユウ子さん。あとは、井上くん、ノロちゃん、木村くんの3人です。このうち、最後の木村くんは、妹のミドリちゃんがゆりかさんと同じ音楽教室に通っていたと言う点で、まんざら、ゆりかさんとも無関係な間柄でもなかったので、この度の5人の精鋭の一人にと選ばれる事となったのです。

 彼らが平野邸にと集まった時、魔法博士の方は、まだ行動を開始してはいなかったようでした。だから、少年探偵団も、先手を打って、護衛の為の最後の準備ができた訳なのです。

「やあ、皆、待たせちゃって、ごめん。よおし、じゃあ、さっそく、打ち合わせ通りに、ゆりかさんを守る為の計画を始めるとするか」と、平野邸に到着したコバヤシ団長が言いました。

 実は、この日は、コバヤシくんは、探偵団のメンバーの中では、一人だけ別行動を取り、少し遅れてから、平野邸へは顔を出したのでした。で、他の4人のメンバーは、全員が揃って、一台の車に乗って、朝早くに、この平野邸にとやって来ていたのです。そう、探偵活動に当たって、こんな移動用の車がきちんと用意されているのも、珍しい話なのでもあります。

 その送迎の車は、連れてきた団員たちが外に降りても、すぐには帰ろうとはしませんでした。コバヤシくんが、やや時間が過ぎてから、やっと平野邸に現われると、それを確認してから、ほぼ入れ違いで、ようやく動き出したのです。車は、いずこかにと走り去ってしまいました。恐らくは、探偵事務所へと戻ったのでしょう。

 そして、一方で、例の平野邸の庭にある蔵でも、新たな動きがあったのです。コバヤシくん達少年探偵団は、ゴソゴソと、この蔵の中へ誰かを連れ込んだようなのであります。その作業が済みますと、彼ら少年探偵団は、少し離れた場所から、あからさまに隠れて、この蔵のことを見張り始めたのでした。

 すると、この蔵からは、時たま、美しいバイオリンのメロディが聞こえて来たりもしたのでした。

 そうなのです。どうやら、少年探偵団は、この蔵の中に、ゆりかさんを引き籠らせたみたいなのでした。以前、コバヤシくんは、この蔵を巨大なネズミとり器にしてしまう、と話していました。つまり、ゆりかさんは、魔法博士をおびき寄せる目的の餌にされてしまったと言う事なのでしょう。だけど、彼女をそんな危険な目に合わせても良かったのでしょうか。

「本当に、魔法博士の奴は現われて、この蔵の中に忍び込むのかな」隠れて、蔵を監視していたノロちゃんが、そんな事を呟きました。

「引っ掛からなきゃ、それでもいいんだ。代わりに、ゆりかさんを魔法博士の魔の手から守り抜けた事になるんだからね」ノロちゃんの隣にいたコバヤシ団長は、余裕で、そんな事を言うのでした。

 どうやら、少年探偵団のアイディアとしては、ゆりかさんの事を、一日中、あの蔵の中へ閉じ込めておく予定みたいなのです。その蔵の守りの強固さに舌を巻いて、魔法博士が襲ってこなければ、それでも少年探偵団の作戦勝ちとなります。逆に、魔法博士が強引に蔵を攻略して、ゆりかさんを誘拐しようとしたならば、その場合も、何らかの撃退する為の手段をきちんと講じていたのでしょう。

 さて、蔵の中にいたのは、一人ではありませんでした。ゆりかさん一人では心細くて、不安だろうと配慮したのか、彼女の弟の一郎くんも、姉に付き添って、この蔵の中には一緒に閉じ篭っていたみたいなのです。さらに、丸一日、この中にいても不自由しないように、食べるものとか、テレビなども、蔵の中には用意されていたようでした。全ては抜かりがなく、この計画には、平野さんの両親の承諾も、きちんと取っていた訳なのであります。

 やがて、昼近くになると、ここ平野邸には、警察からの援軍も駆けつけてくれました。前にも話しましたように、中村警部が特別に派遣してくれたお巡りさんです。それは、佐藤さんと言う制服警官でした。彼が、少年探偵団とは別に、単独で、平野邸の周りをさりげなく警護してくれる事になったのであります。制服を着ていて、はっきりと警察だと分かる人物が周囲の巡回をしてくれると言うのは、とっても頼もしくて、心強い話なのです。

 こうして、なかなか魔法博士が仕掛けてこない中、時間はいよいよ午後へと移行し、3時も過ぎた頃合いとなりました。そして、それは、だいたい3時20分ぐらいの時です。

「おい、君たち、大変だよ、大変だ!ユーフォーを目撃したよ!」

 そんな事を口走りながら、とても動揺した様子で、近所に住んでいる北村さんと言う青年が、平野邸へと押しかけて来たのでした。彼は、普段から超常現象やら都市伝説などにハマっている、変わり者の青年なのです。

 そのような北村さんが、平野邸の中に押し入るなり、隠れていたコバヤシくん達のそばへと、わざわざ走り寄って来たのでした。いやはや、これでは、せっかくの隠れた護衛も台無しなのです。だけど、北村さんにしても、ユーフォーの目撃情報なんて面白いニュースは、真っ先に子供たちに伝えたかったのかも知れません。

「ユーフォーって、空飛ぶ円盤の事ですか?それって、見間違いじゃありませんか?」大事な隠密の行動を邪魔されてしまったコバヤシくんが、不機嫌そうに、北村さんに言い返しました。

「そんな事はないよ。この目でハッキリ見たんだ。しかも、そのユーフォーだけど、近くに着陸したようなんだ。ほら、近所の原っぱに一本スギがあるだろう。どうやら、その木の上に何かが降りたらしいんだ」コバヤシくんの意見も構わずに、北村さんは、そのように言い張り続けるのでした。

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