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博覧会の怪盗

 結成式が終わると、少年探偵団のメンバーが解散してしまう前に、アケチ探偵は、探偵団の子供たちに、一つの課題を出しておく事にしたのだった。すなわち、探偵の宿題である。

「君たちも、この頃、あちこちに怪しい黄金仮面が出没している、との話は聞いた事があるだろう?この怪人の正体については、今のところ、いっさいが不明だ。全くの謎なのさ。そこでだ。君たちにも、ぜひ、黄金仮面探しに挑戦してもらいたいんだ。もちろん、危険を犯すような事まではしなくてもいいよ。黄金仮面を見たと言う目撃情報を集めてくれるだけでもいいんだ。きっと、この作業を行なう事で、探偵としての観察力や聞き取りの能力の訓練にもなるだろう。ぜひ、頑張って、この活動に挑んでみてくれたまえ」

 尊敬するアケチ探偵からの直々の提案なのだから、当然、探偵団の少年たちは、この指令を喜んで了解して、それから、事務所から帰っていったのだった。きっと、彼ら団員たちは、さっそく今日からでも、黄金仮面探しを始めたに違いあるまい。

 アケチ探偵にしても、黄金仮面なんて、たわいもない都市伝説だ、とタカをくくっていたからこそ、このような命令を探偵団員たちに与えたのだと思われる。

 しかし、黄金仮面は、果たして、本当に、ただの根も葉もない噂話だったのだろうか。もしかして、我々は、事実を大きく見誤っていたのではないのか。そして、間もなく、人々は、その件で思い知らされる事になったのである。

 時を同じくして、大トーキョー・シティのウエノ公園では、かつてない大規模な世紀博覧会が開かれていた。この博覧会は、連日、多くの見物客で賑わっていたのだった。

 この博覧会のテーマは「現代」である。今のこの時代を象徴するような物ばかりを展示したり、見世物にしていたのだ。何しろ、ここ10年ほどの間の科学の進歩は目覚ましいものがあった。衛星通信やAIコンピューターなどが広く一般社会にも普及して、最近のたった3年ほどで、庶民の普段の生活さえもが、まるで別物のように変わってしまったのである。誰もが携帯電話スマホを使いこなし、無人飛行装置ドローンが当たり前のように空を飛び回るようになった。恐らくは、たった5年前の人間であっても、この生活スタイルの変貌ぶりを見たら、驚いただけではなく、その生活そのものに、ついていけなかった事であろう。

 だからこそ、この度のウエノ公園の世紀博覧会は、展示する品物も沢山あり、現在の最先端を知る上でも、皆が楽しめるような内容となったのだった。

 この博覧会で紹介されていたものは、別に、科学技術ばかりではなかった。近年の時事的なものを展覧しているコーナーだって、きちんと開設されていたのである。

 その時事ネタの会場ブースに置かれていた展示物の一つに、「シマの女王」と名付けられた国産の大真珠があった。これは、最近、ミエ県で発見された突然変異の巨大真珠であり、形も美しいし、重さも300グレーン以上ある、二つと無い希少品なのだ。もちろん、普通の宝石としても相当な価値があったのだが、これを、持ち主の好意によって、この博覧会でも飾れる事となったのだった。まさに、現代を象徴する奇跡の宝石なのだ。

 何しろ、ダイヤやゴールドにも匹敵するような宝物である。この博覧会の会場内でも、この大真珠の周辺には、特に厳重な警備が敷かれたのだった。もっとも、警備以外にも、この博覧会自体がかなりの人ゴミだったので、仮にこの真珠を盗むようなコソ泥が現われたとしても、簡単には外へは逃げられなかったかも知れないのだが。

 さて、ちょっとしたトラブルにより、この大真珠のそばにあった展示品の一つが取り替えられる事となった。その展示物と言うのが、かの感染病災害パンデミックを象徴するようなシロモノである白い仮面を被った人間のマネキンなのであった。見物客による不慮の出来事だったらしいのだが、ある時、押された客がこのマネキンにぶつかってしまい、床に倒れたマネキンが露骨に壊れてしまったのだ。

 破損したマネキンを飾り続けるのは見苦しいし、この程度の展示物マネキンなら、すぐ代わりも用意できるであろう。そんな次第で、直ちに、新しい仮面マネキンが取り寄せられる事になったのだった。

 ところが、そこで何かの手違いがあったらしく、新たに届いた仮面マネキンと言うのが、なんと、白い仮面ではなく、黄金仮面をつけたマネキンだったのである!しかも、服装も、一般的ポピュラーな黄金仮面の定番とされていたオーヴァコートであったし。

 これには、会場の担当者も、初めはさすがに戸惑ったようなのだが、よくよく考えてみれば、黄金仮面だって、現代ならではの都市伝説には違いないのである。そんな訳で、この会場の担当者が多少はユーモアも解せる人物だった事もあって、別の白仮面のマネキンが届くまでは、ひとまずは、この黄金仮面マネキンを展示物として飾っておく事が決まったのだった。いわば、期間限定の特別展示物という訳である。

 だが、この判断は、あまりにも軽率だったのかも知れない。会場の従業員たちは、新たに設置された黄金仮面マネキンのことを、どうせ、すぐに返却してしまうと思って、ろくに検分もせず、触りもしなかった。また、このマネキンを運んできた業者についても、特に気に掛けたりもしなかったのである。まさか、それらに恐るべき悪意が隠されていたとも知らずに!

 実は、この黄金仮面マネキンが運び込まれた日、この博覧会には、親日で有名な某国の王族が、お忍びで見物に訪れる事になっていた。この王族は VIP 待遇だったので、博覧会の主催者の方も色々と配慮しており、この人物が訪れるブースに関しては、事前に人払いを行ない、この王族がストレスなく見物して回れるようにと、多くの調整が行なわれていたのであった。

 かの大真珠を拝見する為に、この王族が時事ネタの会場へと訪ねる予定時刻が近づいていた。すると、時事ネタの会場では、少し前の時間から一般客の立ち入り禁止が始まり、短時間ながらも、いっぺんに、会場内に誰もいない状態が出来てしまったのだった。警備員すら、その場からは居なくなっていた。彼らも、会場ブースの前にまで来ている王族の出迎えに行ってしまったからである。一見、時事ネタ会場ブース屋内ホールは、完全な無人となってしまったのだ。

 そして、その瞬間を待っていた人物がいたのだった。

 会場の中では、あの黄金仮面のマネキンが、突如、ゆっくりと動き出した。そして、この黄金仮面は、自分の展示台の上から、ぴょんと床の上に飛び降りたのである。

 そうなのだ。この黄金仮面は、マネキンなどではなかった。生きた人間だったのである。生身の人間が、ずっとマネキンのフリをしていただけだったのだ。にしても、その事に誰にも気付かれぬように、ずっと動かないでいただなんて、この怪人の演技力や忍耐も大したものなのである。

 黄金仮面の怪人は、ためらわず、大真珠のそばに歩み寄った。もともと、こいつの目的は、この大真珠だったのである。今ならば、そばに見物客も警備員もないし、大真珠も盗み放題なのだ。

 黄金仮面は、大真珠の上に被せてあったガラスケースに手をかけた。このケースは、普段から簡単に取り外せるように出来ていて、係の者の立会いのもとだったら、一般客でも大真珠を触ってもいい、という展示ルールになっていたのである。皮肉にも、その寛大な展示方法が、今や、完全に裏目に出てしまったのだった。

 ガラスケースが取り除かれ、ついに黄金仮面の手が、ケース内にあった大真珠にと触れた。

 だが、そこで、この黄金仮面も知らなかった警備装置が発動したのであった。

 黄金仮面が、台座の上から大真珠を持ち上げた途端、あたりには、激しい警報ブザーが鳴り響いたのである!

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