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少年探偵団誕生

 その日は、ミナト区リュウド町にある、アケチコゴロウ探偵の新事務所で、大事な結成式が行われていた。

 参加者は、まずは、事務所の主人であるアケチ探偵と、その第一の助手のコバヤシ青年だ。その二人の他に、さらに、10人の少年が事務所の書斎にと集まっていたのだった。

 この10人の少年は、年齢は、だいたい、小学六年生から中学一年生ぐらいである。彼らは、アケチ探偵とコバヤシ青年の前に、ズラリと整列して、礼儀正しく、立っていた。そして、彼らこそが、このたびの結成式の重要な主役だったのだ。

「では、これより、アケチ少年探偵団の結成式を始めます」と、部屋のはじの方に立っていたコバヤシが、すました顔で宣言した。

 そうなのだ。実は、ここに揃っていた少年たちと言うのは、名探偵のアケチに憧れ、彼のように成りたいと思って、弟子入りを希望して、集まってきた子供たちだったのである。

 元はと言えば、アケチとコバヤシのコンビが、怪盗ニジュウ面相の凶行を防いだのが、全ての事の始まりだった。ある時、アケチたちは、羽柴家の家宝であるロマノフ王家の宝冠のダイヤモンドを、ニジュウ面相の魔の手から、鮮やかに死守したみせた。この活躍ぶりを、羽柴家の次男である小学生の壮二が、一部始終を見物していたのである。

 こうして、壮二少年は、アケチたちのカッコ良さにすっかり感心して、憧れるようになってしまったのだった。彼の熱意は、自分の胸の内だけではとどまらず、学校の友達にも、アケチの素晴らしさを自慢しまくる事となった。すると、思いがけず話が盛り上がり、今度は、壮二の友人たちも、探偵職に強い興味を抱くようになったのだった。

 いつの間にか、彼らの間では、アケチ先生の助手にしてもらおうと言う事で、意見がまとまっていた。アケチのかの名助手のコバヤシヨシオだって、もともとは少年時代からアケチに従事していて、今の優秀な片腕の座にと収まっているのである。自分たちだって、未来のコバヤシ二世、三世に採用してもらえるのではないか、と考えた訳だ。

 彼らは、さっそく、アケチの探偵事務所の方へ押しかけてみた。それから、アケチへと入門を希望する旨を話したのである。

 アケチが、意外と話の分かる人物だった。また、非常にタイミングが良い事に、彼の探偵事務所も引越ししたばかりで、一軒の洋館が丸ごと住居兼用の事務所となって、以前の事務所よりも広くなっていた。今まで以上に事業拡張をするユトリもあったのだ。

 そこで、アケチが提案したアイディアと言うのが、彼ら探偵助手を志願する少年たちを一堂に集めて、子供向けの探偵教室を開こう、と言うものなのだった。それでも、弟子入り希望の少年たちは大喜びであった。かくて、今日の、このアケチ少年探偵団の発足にと至ったのである。

 もっとも、子供向けの探偵教室と言っても、決して遊び半分のものではないのだ。かの名探偵アケチが指導する探偵学校なのだから、事務所の外へ出て、実践も行なうだろうし、アケチとしても、いろいろな計画を考えていたのである。何よりも、探偵業をこよなく愛するアケチとしては、将来の優秀な探偵候補を自分の手で育てられると言う事が、実はワクワクしていたようなのであった。

「次に、団員による宣誓を行ないます。団員代表、桂正一くん。前に出てください」進行役のコバヤシ青年が、すみやかに告げた。

 すると、整列していた少年の一人、中学一年生の桂正一が、きびきびと前方に歩み出たのだった。彼は、今回の探偵団結成のきっかけとなった羽柴壮二のいとこであり、このメンバーの中では、もっとも体格の良い少年なのだ。

 桂少年は、目前の椅子に座っていたアケチと対峙すると、暗記していた宣誓文を力強く暗唱したのだった。

「我々アケチ少年探偵団は、正義と人間愛の精神にのっとり、親や大人たちに心配をかけない範囲で、勇気と諦めない気持ちをもって、アケチ先生の立派な弟子として、探偵の仕事に従事する事をここに誓います!」

 少年たちは、いっせいに、わあっと拍手をしたのだった。この場にいる、どの少年もが、桂正一の言葉を、心から噛み締めているのである。

「続いて、アケチ先生より激励の言葉をどうぞ」コバヤシが言った。

 アケチは、少年たちに笑顔を見せて、語り始めたのだった。

「諸君、我が少年探偵団への入団おめでとう。探偵という仕事は、必ずしもカッコいい事ばかりではなく、地味な作業もあれば、辛い時だって、有るかもしれない。でも、仕事をやり遂げて、依頼者に満足していただけた場合は、そんな苦労だって吹っ飛んでしまうほどの喜びがあるものなんだ。君たちは、これから、そんな素晴らしい未来の名探偵を目指して、ぜひ、僕の探偵団で沢山の事を学び、切磋琢磨していただきたい」

 アケチの言葉が終わると、再び、少年たちの割れるような拍手が室内に広がったのであった。

「それでは、少年探偵団の団員証を、全員に配りたいと思います」コバヤシが告げた。

 彼は、少年たちの正面にと立った。すると、少年たちは、一人一人が順に前へ出て、コバヤシの手から、直々に、そのアイテムを受け取っていったのだった。

 それは、小さな金属製のバッジであった。表面には、デザインされた「BD」の文字が刻まれている。この「BD」とは、Boy Detectives の略であり、すなわち少年探偵団のことなのだ。まさに、これこそは、探偵を目指す少年たちにとっては、憧れのアイテムなのである。

「いやあ、懐かしいなあ。ぼくもね、アケチ先生に入門したばかりの頃は、これと同じようなバッジを常備していて、探偵活動で役立てたものなんだよ。これは、ただのバッジじゃないんだ。探偵業に役立つ、いろいろな使い道があるんだよ。君たちにも、それらを徐々に教えてあげるね」コバヤシも、愉快そうに、少年たちに、そのように語ったのだった。

「今日のところは、支給品はそのバッジのみだけど、いずれは、少年探偵団向けの探偵七つ道具も揃えてあげようと考えている。楽しみに待っているといいよ」アケチも、そう言葉を付け加えたのであった。

 そのあと、アケチは、コバヤシの方に顔を向けた。

「コバヤシくん。この少年探偵団の団長は、君にお願いするよ。普段は、この子たちの指導と教育は、君に任せるから、しっかり頼んだよ」

「分かりました、先生。安心して、ぼくに任せてください。この子たちを、必ずや、立派な豆探偵に育ててみせます。いいえ、この子たちだけではなく、今後も入団してくる新団員たちの事も、全て、ぼくが、責任を持って、お引き受けします」コバヤシも、とても張り切っている様子なのだった。彼も、自分のおとうと弟子がいっぱい出来たものだから、けっこう嬉しかったらしい。

 そして、少年たちも、キラキラした目でコバヤシの方を眺めており、どうやら、コバヤシが団長を務めることに異存はないようなのであった。

「少年探偵団、ばんざーい!」感きわまった少年の一人が、思わず、声を出した。

 すると、その掛け声につられて、他の少年たちも、つい叫び出したのだった。

「探偵団、ばんざーい!」「アケチ探偵、ばんざーい!」「コバヤシ団長、ばんざーい!」

 こうして、少年探偵団の結成式も、大いに盛り上がった空気の中で、終了しかけていたのであった。

 その矢先、この書斎の外から、駆けてくる足音が聞こえてきた。とても軽い靴音である。

 続けざま、書斎のドアが、勢いよく開いたのだった。そこには、一人の可愛い女の子が立っていた。歳は10歳ぐらいだ。急いで、ここに走って来たらしく、少し息を切らしているのである。彼女は、とても怒っている様子で、ふくれた表情なのだった。

「もう!タンテイ団の結成式は今日だったのね!なんで、あたしに教えてくれなかったの!」彼女は、開口一番、そう怒鳴ったのである。

 アケチもコバヤシも、その少女を見て、やや困惑した態度になったのだった。

「マユミちゃん。この少年探偵団は、遊びじゃないんだよ。君を入団させる事はできないんだ。こないだも、そう説明したよね?」コバヤシが、うろたえながら、その少女に話し掛けた。

 この少女の名前は、花崎マユミ。実は、アケチ探偵の二番めの助手である玉村フミヨの姪っ子なのだ。そのような繋がりもあって、マユミは、アケチやコバヤシとも、以前から顔見知りなのであった。そして、アケチらにとっては困った事に、このマユミも探偵職にたいへんな憧れを持っていたのである。

「そんな説明、分かんないわよ!あたしだって、将来はカッコいい女探偵になりたいのよ!それなのに、どうして、あたしはタンテイ団に入れてもらえないのさ!」マユミも、その可愛い顔で、とってもキツく言い返すのだった。

「だから、探偵という仕事は、すごく危険なんだよ。さすがに女の子には、まだ任せる事はできないよ。それに、マユミちゃんは、まだ四年生だろう?この探偵団の規則で、最低年齢は小学五年生からと決めているんだ。その点でも、マユミちゃんは、入団資格に達してないんだよ」

「そんなの、ヨシオ兄ちゃんが勝手に決めたルールじゃない。あたしは納得しないもん。あたしも、絶対に、このタンテイ団に入るんだ!」

 がんとして、自分の意志を曲げようとしないマユミに、コバヤシも、すっかり困り果てていた。

 その時、アケチが助け舟を出してくれたのだった。

「少年探偵団の規律を守らない事は、今後の探偵団の精神のたるみも招きかねない。でも、マユミちゃんも、こんなに熱心なんだから、その気持ちに少しは応えてあげたい気もするな。そこで、僕からの提案なんだけど、皆、どうだろうかね?マユミちゃんは、普通の団員ではなく、客員か顧問として、この少年探偵団に参加させてあげようと思うのだが」

「コモンって、なあに?女王さまみたいなもの?」肝心のマユミが、よく分かってないようなのであった。

「う〜ん。そんなものかな」と、アケチが苦笑いした。

「分かった!じゃあ、あたし、それでもいい!あたし、このタンテイ団の女王さまよ!タンテイ団の中では一番偉いんだから!」マユミは、腰に手を当てて、すっかり、ご満悦になったのだった。

 もっとも、本人がそれで満足してくれたのであったら、それも悪くはないのである。コバヤシたちにしても、「女王さまに危ない事はさせられません」と言って、マユミを探偵の活動から外す口実にも出来るのだ。アケチも、もともと、そのつもりで、マユミに客員か顧問の役職をあてがう気だったのであろう。

 とにかく、多少の予定外はあったものの、こうして、アケチ少年探偵団は正式に結成され、その活躍がいよいよ始まる事となったのだった。

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