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金色の怪談

 その年、世界に、50年か100年に一度という、大きな災厄が降りかかった。さる国より悪性の伝染病が広まったのである。それは、世界の全土で大流行したのだった。いわゆる、パンデミック(感染爆発)と呼ばれるモノだ。

 この伝染病にかかって、あちこちの国の人間が大量に死んでいった。当然、我が国・日本にも、この伝染病は上陸したのだが、さいわい、その頃には、この伝染病の特徴はだいぶ解明されていた。

 この伝染病は、飛沫感染のみで、主に、粘膜を通して感染するのだった。よって、体の各部位の粘膜さえ塞いでしまえば、かなりのパーセンテージで、この病気の感染は防止できるのである。顔ならば、目と鼻、口などをガッチリと隠してしまえば、まず、この伝染病にかかる心配はないのだ。

 こうして、世間では、外出時に、仮面を被る事が推奨されるようになったのだった。口だけ布マスクで覆うのは不安が残るので、いっその事、顔そのものを仮面で隠してしまえば良い、と皆は考えたのだ。

 間もなく、この伝染病対策用の専門の仮面も売られるようになり、その仮面は爆発的に売れる事となった。結果的に、あたり一面、その仮面を被った人間だらけの状態になってしまったのである。

 その仮面は、実用性を重視して、なおかつ、低コストを目指したものだから、実に質素な出来であった。真っ白なプラスチックの仮面で、両目の覗き穴と、口をイメージした溝しか、付いていないのである。まさに、能面のような仮面なのであった。せめてもの感情を見せようと言う配慮で、口の部分の溝は、三日月状にしていたので、むしろ、それは思いっ切りアヤシイ笑い仮面となってしまったのである。

 それでも、手軽に入手できるものだから、誰もが、まずは、この仮面を購入して、そして、装着した。かくて、外を出歩く人々の顔は、老若男女、この不気味な仮面で統一されてしまったのだ。例えば、大通りを行く、大勢の歩行者の顔が、全て、この仮面ばかりだった光景などは、まさに悪夢のような壮観さなのであった。

 しかし、やがては、伝染病の方も、静かに収束していった。すると、ようやく、徐々に、この仮面をつける人口も減りだして、社会は、ゆっくりと、皆が顔を出している、以前の情景へと戻っていったのだった。

 だが、大多数の人間がこの仮面を被っていた頃から、その奇妙な噂は、少しずつ、広まり始めていた。

 それは、白い仮面を被っている大衆の中に、時々、黄金の仮面を装着した謎の人物も混ざっている、と言うものなのだ。俗に言う都市伝説フォークロアである。

 この都市伝説が、意外にも、伝染病に対する不安を反映する形で、世間に広く受け入れられたらしく、根強く、人々の間で語り継がれていったのだった。とうとう、伝染病対策で仮面を被る者がまるで居なくなってからも、こちらの黄金仮面の噂話だけは、しぶとく生き残る事となったのである。

 そもそも、都市伝説と言うものは、形を変え、どんどんと話が大げさになっていくものだ。この黄金仮面の都市伝説とても例外ではなく、各地で、さまざまな黄金仮面の有名な目撃談が生まれる事となったのだった。

 ある時は、ギンザの古物商の前で、オーヴァコート姿の黄金仮面が、古物商のショウウインドウの中をじっと眺めていたと言う。また、別の目撃例では、黄金仮面は、交通事故の直後の現場に現われた。洋服姿の黄金仮面は、地面に倒れていた事故の被害者を見下ろしながら、その三日月の口に血を滴らせていたと言われている。ある老人が自宅の窓から目にした黄金仮面は、顔だけではなく、その全身も黄金の鎧に包まれていたとの話なのであった。

 何にせよ、これらの話は、いずれも都市伝説なのだ。実話かどうかも怪しい話ばかりなのである。黄金仮面なんてものが本当に存在したのかどうかも疑わしかったし、もちろん、その実際の被害届なんてものも、どこの警察にも出されてはいなかったのだった。人々は、ただ面白おかしく、気味の悪い黄金仮面の怪談を皆で伝え合って、楽しんでいただけに過ぎなかったのである。

 でも、果たして、本当にそれだけで済んだのであろうか。確かに、妖怪のごとき黄金仮面は、実在はしていなかったのかも知れない。だが、この黄金仮面の都市伝説を利用して、悪い事を企む人間が出てこないとまでは、決して言い切れはしなかったのだ。

 そして、その懸念は、いずれ、現実のものとなったのである。

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