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「勝利の為に全力すらも出せぬのか、ハッ、勇者なぞ甘過ぎて話にならぬ!」
フィアは、フィルリークが上空より自分に向け降下の勢いを乗せ威力を増した聖剣による突き攻撃の軌道を読み、それからずれる様に斜め上方に跳躍し、背中の翼を使い飛翔しフィルリークの上を取った。
フィルリークの攻撃はフィアに対し外れ、地面に向け突き刺さる。
その時に生じた衝撃で、地面が抉られ小規模のクレーターが発生した。
ギャラリー達からすればフィルリークの攻撃は、フィアに当たらなかったが十分に魅せられる攻撃であったのか、歓喜の声を上げ盛り上がっている者が多い。
目の前に自国の王女がいる中で、対戦相手が人間であるフィルリークの攻撃に対して歓喜の声を上げ盛り上がった彼等は、力さえあれば種族関係無く認めると言う素直な一面を持っているのかもしれない。
フィルリークが、地面に突き刺ささる剣を即座に引き抜き、自分の上方で滞空するフィアを見上げる。
「うるせぇ! 人間って奴はお前達魔族みたいに自分本位じゃねぇだけだ!」
フィアに侮辱されたフィルリークは怒りの色をあらわにし、滞空するフィア目掛け地面を蹴ろうと身構える。
「フンッ、ならばその様な事言う余裕を奪ってやろうじゃないか!」
フィアは鋭い眼光でフィルリークを睨みつけると、手のひらを天に向けながら右手を突き上げ、魔力を集中させる。
バチバチバチ、と音を鳴らしながら黒い光を放つ雷の球体がフィアの手の平上方に産み出され、フィアの魔力が注がれる度その大きさを増していく。
その魔法を見たハーデスが、ギャラリー達に向け指示を出しギャラリー達を避難させた。
恐らく、これからフィアが放つ魔法は周囲一帯に大きな損害を与える事になるからであろう。
「来いよ、アンタの大技受け切ってやるぜ」
フィルリークは、精神を集中させ聖熱力を剣に集めフィアの魔法の完成に備え待ち構えた。
「ハッ、強がっていられるのも今の内よ! 漆黒雷破撃、覚悟なさい!」
フィアは、右手の平の上で直径5m程の大きさとなった漆黒の雷球をフィルリーク目掛け放った。
「上等じゃねぇか! 俺の力見せてやるぜ! 聖熱飛鳥破ッ!」
フィルリークは、聖剣をフィアが滞空している方向へと振り抜くと、聖剣の先からフィアが放つ漆黒雷破撃目掛け鳥の形をした巨大な白いオーラが放れた。
「白い光!? だからどうしたと言うのよ!」
フィルリークが放った白いオーラを放つ技が、魔族である自分が苦手とする聖属性であると判断したフィアが一瞬日和って見せる。
「うおおおおおおお! 食らいやがれえええええ!」
フィルリークは気合を込め、自らが放った技に更なるエネルギーを注入する。
「チィッ! 人間の癖に生意気いなっ!」
フィアもまた、自らが放った漆黒雷破撃に更なる魔力を注入し、その威力を増大させる。
お互いが放った大技は、空中でぶつかり合うと周囲に轟音を巻き起こすと共に白い光と黒い光が物凄い速さで交互に点灯し、光の海へといざなった。
フィルリークが瞬きをした瞬間、技がぶつかった際に生じた衝撃波が辺り一帯を襲い、中庭に植えられていた鑑賞用の樹木エリア諸共吹き飛ばし、周囲を荒れ果てた地へと変貌させる。
ハーデスの指示により避難していたギャラリー達は、二人の技と技のぶつかり合いに感激し、大きな歓声を上げる。
「俺の技を相殺させるとはやるじゃねぇか」
フィルリークとフィアの大技がぶつかり発生した衝撃波を地上でモロに受けたフィルリークが、肩で大きく息をしながら片膝を付き聖剣で今にも倒れそうな身体を必死に支えている。
今の衝撃で、防具に守られていない身体の部分からは無数の傷が生じており、ところどころ赤い血がにじみ出ており、フィルリークは相当なダメージを受けている様だ。
「キサマ、私とて同じ言葉を返させて貰うぞ」
フィアもまたフィルリークと同じく全身に無数の傷を受け、紫色の血がにじみ出している。
フィルリークの扱う聖属性が、魔族であるフィアが苦手である属性である為彼が受けた傷よりも深く出血量も多い。
今の攻防の結果、滞空している力さえ失ったのか、フィアはゆっくりと地面へ舞い降りた。
地上に降り立ち改めて身構えたフィアであるが、フィルリークと同じく肩で大きな息をしその構えは深く沈んでいる。
「ボロボロの癖に良く言うぜ」
フィルリークはゆっくりと立ち上がると聖剣を放棄し、自らの拳に聖なるオーラを纏わせる。
「貴様、私を愚弄するつもりか、これは決闘だぞ」
武器を放棄したフィルリークにフィアは、怒りの意を示す。
「そうさ、決闘だ。決闘であって殺し合いじゃねぇ。いいや、わりぃが聖剣ぶん回すだけの余裕がねぇんだ、アンタだって最早飛ぶ余力はねぇんだろ」
フィルリークは嘘を付いていない。
先日ディベロスとの戦いで使い切った聖熱力は完全に回復しておらず、先の攻撃を行った事で今のフィルリークには聖剣レーベンヴォールを用いて攻撃を行うだけの聖熱力は残っていない。
フィルリークは、すぅ、と深呼吸をし身構える。
先に仕掛けたのはフィアだ。