第九十一話 立ちはだかる強敵
シェンがメノウとショーナと対峙している丁度その頃。
青龍型の魔物はミザールと灰色の少女が交戦していた。
数年前、かつての東ザリィールでのメノウとの戦いで受けた傷はほぼ修復されている。
紋様による強化があるとはいえ、今の青龍型の魔物には修復できなかったらしき部分も確認できる。
その部分と紋様を考慮すると、恐らく数年前とそれほど戦闘能力は変わっていないだろう。
「オレサマから行かせてもらうぜ!」
「あ、ちょっと!?もう少し慎重に…」
その声と共に、青龍型の魔物の目の前に飛び出すミザール。
彼が顔をしかめて上半身を起こすと、目の前に青龍型の魔物の紅く鋭い眼が光る。
鋭い牙を覗かせて低く唸り、鼻の穴から鼻息が飛び、ミザールのにおいを嗅いでいる。
襲われるかもしれない、しかしこれは逆に攻めるチャンスでもある。
そう考えた彼は速攻で攻撃に転じた。
「『強化水壁』!」
以前、魔法学校に通うミサから教えてもらった魔法、『強化水壁』を放つ。
ただ放つのではない、青龍型の魔物の口の中にだ。
強化水壁は魔力を込めれば込めるほど強度、大きさを増大させることが出来る。
自身の持つ魔力を可能な限り使い、強化水壁を巨大化させたのだ。
「おお…!これは…」
それを見た灰色の少女が驚嘆の声を上げる。
彼女も、まさかミザールがここまで役に立つとは思わなかったのだろう。
青龍型の魔物は今、口に巨大な水の玉を咥え、顎が外れかけた状態となっている。
想定外の出来事に暴れまわり、水の玉を割ろうと辺りの物にデタラメに攻撃を仕掛けている。
しかし、それでもそれは割れない。
以外とミザールの魔力が強力だったようだ。
「まさかキミがここまでやるとは…」
「あ?これくらい軽いもんだぜ」
水の玉を割るため、デタラメに暴れまわる青龍型の魔物。
木をなぎ倒し、岩を砕き、この場から離れた滝壺にまで移動していった。
先ほどのミザールの魔法で倒したわけでは無い、あくまで戦意を少し削いだ程度だ。
「追うぞ!」
「やだよ」
「来てください!」
「えー」
滝壺の近くへと移動した青龍型の魔物を追う二人。
尖った岩に何度も水の玉をぶつけたらしく、既にそれは割られていた。
ミザールの強化水壁の魔力の作用により、少し口の部分に傷を負っているものの致命傷と呼べるものでは無い。
むしろ、それにより怒りを呼び覚ましてしまったようだった。
攻撃に出る青龍型の魔物。
衝撃波を口から放ちつつ、距離を詰め近距離の格闘戦へと移行する。
「あの青龍型の魔物、すごい強いな…」
衝撃波による攻撃を全て避け、肩で息をしながらミザールが言った。
ふざけた態度ではあるが、常人ならば先ほどの攻撃など避けられるはずもない。
青龍型の魔物の放った尾での攻撃も、意識してか無意識か、受け身を取ることでダメージを最低限に減らしていた。
少なくとも騎士団所属というのは伊達ではないようだ。
「…ミザール、キミの剣を貸してくれないか?」
「やだよ、自分の刀を使えよ」
確かにミザールのいうとおり、灰色の少女自身も刀を所持している。
以前、東ザリィールの海洋上でシェンと交戦した際に使用した物だ。
背中に背負った東洋の刀、彼女はその刀の名を『六光姫狐』と呼んでいた。
「この刀は今は使えない」
「何でだよ」
「今はその時では無いんです」
「はぁ!?」
「この刀には『真の持ち主』がいるので…」
「なに言ってんだよこんな時に!意味わかんねぇよ!自分勝手なヤツだな」
ミザールは知らないが、彼女は以前に六光姫狐を使用して戦っていたことがある。
言葉に込めた意図は少々違うものの、確かに彼女が六光姫狐を使用しないというのは不自然だ。
しかしその疑問に対し彼女はこう答えた。
「いずれわかりますよ」
「なんだこいつ」
「…借りるぞ!」
ミザールの隙を突き、彼が背中の斜め掛けの鞘にかけた剣を奪い取る灰色の少女。
一瞬の出来事に対応できず、彼はただ戸惑うばかり。
「せい!」
ミザールの剣を使い、灰色の少女が青龍型の魔物へと攻撃を放つ。
青龍型の魔物の全身に仕込まれた刃の鎧、その僅かな隙間を突き内部に的確に攻撃を仕掛ける灰色の少女。
魔物の弱点は内部への攻撃、これは全てのの魔物に共通することだ。
その攻撃で右足が自重に耐えられなくなり、青龍型の魔物が膝をつく。
「ずあッ!」
さらに攻撃を仕掛けようと灰色の少女が一歩前へと出る。
しかしそのまま攻撃を受ける青龍型の魔物では無い。
尻尾を鞭のようにしならせ、彼女に叩きつけた。
ミザールの剣で受け流す灰色の少女。
しかし、あまりにも強力な衝撃で剣は弾き飛ばされてしまった。
それを受け止めるミザール。
「俺の剣がぁ!」
「片足と腕を失ってもまだ動けるのか」
失った部位など気にも留めず、攻撃を続ける青龍型の魔物。
二人を噛み砕こうと突進を仕掛けた。
「はッ!」
その声と共に灰色の少女は攻撃を回避、空へと舞い上がった。
例え弱点が分からなくとも、それならばゴリ押しで倒せばよい。
灰色の少女の風を纏った手刀が、青龍型の魔物の首を断ち切った。
さすがに軽く切断、というわけにはいかなかったらしく不快な金切り音が辺りに響き渡った。
「す、すげぇ…」
その光景を見たミザールが呟いた。
さすがの青龍型の魔物も、首を失えば戦うことはできない。
万が一を考え、灰色の少女は頭部装甲を手刀で貫き、内部の神経を引き千切る。
先ほどのミザールの強化水壁の魔法を受けた時の青龍型の魔物の動きは明らかに異常な物だった。
魔物は胴体に弱点となる心臓部を持つが、それに次いで重要な器官が頭にあった。
「あれほど頭部を気にしていれば、大体想像はつきますよ」
先ほどの異常な行動は頭部に起きた異常を排除するための物だったのだ。
それを見た灰色の少女は頭部に重要な器官があることを見抜いていた。
神経を引き千切られた青龍型の魔物はその場に崩れ落ちた。
「所詮は再生体、倒すだけならば簡単。だが…」
引き千切り、握りつぶした神経を見つめながら言った。
倒したことは喜ばしいことだが、何か腑に堕ちぬようだ…
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一方、メノウとショーナはシェンと戦っていた。
かつてのシェンはあくまでの魔物を操り戦うだけの者。
もちろん元四聖獣士である以上、身体能力は高かったのだろうが。
しかし、今の彼は違う。
「とりゃっ!」
「うお!?」
シェンの拳をギリギリで避けるショーナ。
その拳が背後にあった木に直撃、衝撃と共に一撃でへし折られた。
「あんなもの受けたら身体が粉々になっちまうぞ…」
「じゃあ避け続けてみろよ!」
「ショーナ、どけ!」
シェンの背後からメノウが攻撃を放った。
先ほどの幻影光龍壊は既に見切られた技、この状況で使用しても通用するかどうかは分からない。
それならば…
「『幻影光龍壊 弐壊冥』!」
「な…しまった!?」
通常の幻影光龍壊よりも威力は高いが、隙が大きいこの技。
ショーナが注意をひきつけていたおかげで発動することが出来たのだ。
後ろから放たれたそれはシェンの身体と右腕の一部を抉り取った。
それを受け、力なくその場に倒れるシェンの身体。
断末魔も上げる暇も無く、無言で崩れ落ちた。
「やったか、メノウ?」
「ああ。さすがにこれを喰らえば無事では済まないじゃろう」
かつてオオバとの最終決戦の際に使用したこの技。
その時は魔竜と化したオオバの身体を貫くほどの威力を見せた、
ショーナが近くにいたため多少威力は抑えたものの、それでも幻影光龍壊の数倍の威力。
無事なわけが無い。
「悪く思うな、仕方が無いのじゃ」
そう言い残しその場から去ろうとする二人。
しかしその時、驚くべきことが起きた。
「今のは効いたよ…」
攻撃を受け絶命したかに思えたシェン、しかし彼は立ち上がって見せた。
失った身体の一部と右腕は魔力によって修復。
傷も回復している。
「弐壊冥を受けて立ち上がるじゃと!?」
「この刻印のおかげで結構頑丈になってるんだよ」
「…厄介じゃのう」
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