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最高級の最下級少女  作者: 剣竜
第五章 復活の魔王軍…!?
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第八十九話 伝えたかった言葉


「なにを考えているんじゃ…全く…」


怒りながらキャンプ地に戻ってきたメノウ。

川で少し冷えたのか、真っ先にたき火の火にあたった。

片手にいつものローブとベールを持ち、服の代わりに腰布と上にはサラシを巻いている。

ついでに洗濯でもしてきたのだろうか。


「オレサマはただ脅かそうとしただけだよ」


「それはそれでダメじゃ」


火にあたった後、ミザールにそう言うメノウ。

今の彼女は、いつも身に纏っているローブとベールを外した状態。

腰布とサラシという、あまり普段は見ぬ恰好に少し妙な感覚を覚えるショーナ。


「なんかいつもと違う格好だとなんか変な感じだなぁ」


「そうかのう。…ワシをもう寝るわ」


「じゃあおやすみー」


「おやすみん」


そう言ってテントの中に入って行くメノウ。

ミザールも別のテントへと入って行った。

今夜はショーナがたき火の番をする番だ。

あらかじめ集めておいた薪を火にくべていった…




「…はぁ」




眠気を殺したき火を見つめるショーナ。

数十分、一時間、二時間。

段々と時間が経過していく。

何か起こるわけでもなく、淡々と時間は過ぎて行った。

メノウとミザールは完全に寝てしまったようだ。


「そういえば、あの日もこんな感じだったなぁ…」


ふと彼は、昔のことを思い出した。

それは初めてメノウと出会ったあの日から少し経った日のこと。

当時敵対していたミーナがメノウと戦ったあの日の夜だった。


「俺はあの時から何か変われたのか…?」


あの時のショーナは、生まれた村を捨てて一人で旅をしていた。

孤独は慣れていた、少なくとも彼はそう思っていた。

しかしあの日、メノウがいなかっただけでふと不安な思いに駆られた。

たった一日、メノウと顔を合せなかっただけで。


「アイツに守られるだけじゃない、守る『俺』になりたい。そう思っていたのに…」


少なくとも今のショーナは『メノウに守られている』存在。

彼女を守ることなどできはしない。


ショーナにとってメノウは単なる仲間。

友達だと思っていた。

いや、彼女が南ザリィールを去ったあの日からそう思い込もうとしていた。

そう思い続け、メノウに心を寄せぬようにしていた。

しかし、数年ぶりに彼女と再会しその考えも揺らぎ始めた。


「メノウ…」


彼女に今の自分の想いを伝えるべきか否か。

この長い夜の中に、その答えを見出そうとするショーナ。

と、その時…


「ん…?」


妙な気配を感じるショーナ。

動物では無い、殺気も何も持たぬ者の気配だ。

魔王軍の残党の刺客でもなさそうだ。


「誰かいるのか?」


「ああ、ここにいる」


ショーナの呼び声に合わせるように、木の影から一人の少女が現れた。

それはあの灰色の少女だった。

以前、メノウと戦っていた魔獣を一撃で下したあの『灰色の少女』だった。

全身を灰色の布とマントで覆い、素顔もよく見えない。

その佇まいから恐らく少女と思われるが…


「お前は誰だ…?」


「本名は名乗れません」


そう言ってテントの方に視線を移す灰色の少女。

なにやら訳ありのようらしく、それ以上の詮索はやめておくことにした。


「少なくとも敵では無いみたいだな、それくらいはわかるよ」


「…ありがとうございます」


「ミザールとメノウ、起こそうか?」


「いや、寝かせておいてください」


「じ、じゃあなんか食うか?南ザリィール軍から貰った保存食くらいしか無いけど」


食料袋から魚の酢漬けの缶詰を取り出し、彼女にわたすショーナ。

布で顔は隠れているが、少し嬉しそうな仕草をした後、彼女はそれを受け取った。

たき火を中心に、ショーナの対面に座る『灰色の』。


「ありがとう」


「で、アンタは何をしに来たんだ」


「魔王軍の残党に動きがあって、それを伝えに来たました」


それを聞き、それまでの態度から一変、険しい表情になるショーナ。

以前メノウの言っていた謎の組織、魔王軍の残党。

その情報を彼女は伝えに来たというのだ。


「『青き龍』…」


「…どういう意味だ?」


「彼女に伝えればわかります」


そう言ってテントの方へと再び視線を移す『灰色の』。

メノウならばこの意味が分かるということか。

先ほどショーナから貰った缶詰を食べながら、彼女はさらに話を続ける。


「人斬りのミサキも奴らの仲間…」


「以前シークマントでメノウと戦ったやつか」


「そうだ。そして最後に一つ。敵は『魔王軍の残党』だけではありません」


「どういうことだ?」


意味深な言葉を呟く『灰色の』。

気が付くと既に日が昇り始めていた。

山の間から太陽が昇り始めている。


「魔王軍の残党と結託する『もう一つの勢力』…」


「な、なんだよそれ!そんなの聞いてないぞ!」


「…私にもまだ全容は分からない」


「けど…それは確実に存在しているのか」


「そうでなければいくら魔王軍の残党と言えど、この国の中でここまで自由には動けない…」


缶をその場に置き、立ち上がる『灰色の』。

一陣の風が吹き抜け、彼女が身に纏っている布がマントのように靡く。


「もう行くことにするよ」


「え…!?」


「先ほどの伝言を彼女に伝えてくれ、必ずだ」


「ちょ、待てよ!」


「そう遠くない未来、再び会うことになる」


「えッ…」


マントを翻す『灰色の』。

たった一瞬、その刹那にこの場から彼女は姿を消した。


「『灰色の』、ヤツは一体何者なんだ…」


あまりにも唐突な出来事に、ショーナは目の前で起こった一連の出来事が、現実なのかが分からなくなってきた。

しかし、たき火の前に置かれた酢漬けの空き缶と包装紙がそれを現実であると証明している。

謎の少女『灰色の』、彼女はいったい何者なのか…?

と、そこへ…


「お主も気になるか、ショーナ?」


「メノウ!?起きていたのか」


テントの中から顔を出すメノウ。

どうやら先ほどの会話を聞いていたらしい。

ローブとベールは干している途中であるため、今の彼女はそれを身に纏ってはいない。

腰布と、緩めたサラシのみというラフな格好をしていた。


「何者かの気配がしたから起きてみたら…」


『灰色の』も気配を可能な限り消していたらしく、メノウも会話の途中でようやく眠りから覚めたらしい。

途中からではあるが、ショーナと『灰色の』の会話は聞いていたという。


「あやつと出会うのはこれで二度目じゃ」


「二度目?」


「北ザリィールで一度な…」


その時は単に姿を見せただけで会話はしなかった。

しかし彼女が敵では無いことは分かる。

メノウを助け、魔王軍の残党の情報をショーナに提供した。

そして先ほどの会話の際に、彼女が見せた自然な仕草。

どこか不思議な気配の中に親しみと優しさを隠し持っている。

確証はないがそんな気がしたのだ。


「いや、もっと前に…?」


「前?」


「な、何でもない。気のせいじゃな…」


そう言いつつ、汲んでおいた水で顔を洗うメノウ。

昇った朝日がその水面を輝かせる。

早朝の森の中、辺りは静寂に包まれている。

今なら邪魔をする者はいない。


「め、メノウ!話があるんだ…」


最初はメノウのことを単なる仲間、友達だと思っていた。

しかし、彼女と南ザリィールで別れたあの日、そうではないと気付いた。

そしてそれから数年間、再開するまでずっと彼女のことを想い続けた。

友達としてでは無くい、もっと別の存在として彼女のことを…


「ワシも話したいことが…」


「あっ」


「あっ」


メノウも何やら話したいことがあったようだ。

二人の声が被ってしまい、少しきまずい空気になってしまった。

赤めた顔を少し逸らし、照れくさそうにメノウが言った。


「…川で水浴びしてくる」


そう言ってさっさとその場を去ろうとするメノウ。

ショーナがそれを止めようと言葉を荒げる。


「ま、待ってくれ。今すぐに…」


「ならばお主も一緒に来い、ショーナ」


「えっ…」


ショーナの手を引きながら、川へと向かうメノウ。

キャンプ地から少し離れた場所にある川へ、彼を導く。

川の水面を昇る朝日が輝かせる。

ショーナに対し、川を背に立つメノウが言った。


「一緒に入るか?」


「あ…いいよ」


「ほう」


腰布とさらしを脱ぎながらメノウが言った。

さっさとそれらを脱ぎ捨てると、近くの平らな岩の上に置いた。

一糸纏わぬ姿となった彼女の髪が風に靡いた。


「風が気持ちいいのぅ~」


「…あ、ああ。そうだな」


「なんじゃ、ワシの裸でも見れて嬉しいか?」


「そ、そんなんじゃねぇよ!」


「ハハァ…」


誰もいない川に乾いた笑いが響き渡る。

その後しばらくの沈黙が二人を包む。

少し時間が経った後、ショーナが再び切り出した。


「め、メノウから話していいぜ。なんか話したいことあったんだろ?」


「いいのか?」


「あぁ、いいよ」


本当は一刻も早く彼女に本当の気持ちを伝えたかった。

しかしここに来て一瞬躊躇した。

自身の話を先送りにしてしまったのだ。

少し深めの川に身を浮かべながら、メノウが語りだした。


「…ショーナは何故、ワシがこの森にいたと思う?」


「俺と初めて会った時か?」


「そうじゃ」


メノウが何故、この森にいたのか。

今までショーナはそのことについて深く考えることは無かった。

改めて指摘されると、確かに不思議なことだ。


「…わからない」


「今から全てを話す。いつかお主には話さないといけないとは思っていた」


「…一体なにを」


「これから話すことは冗談でもなんでも無い。それをわかってほしい」


「わかった」


いつになく真剣な表情をする彼女に圧倒されるショーナ。

しかし身体は川にぷかぷかと浮いたまま。

そのギャップが少し可笑しくもあった。


「ワシはこの時代の人間では無い。数千年前、古代遺跡に封印された存在じゃ」


数千年前、この地に存在していた帝国に起きた戦乱。

帝国が滅亡し、領地が森へと変わってもメノウだけはこの地に残り続けた。

ドラゴンの四肢とその魂、血をその身に宿す彼女は不老不死にも近い存在となっていた。

死ぬことも出来ず、遺跡となったに引きこもり続けたのだった。


「数百年ほどはこの森にいたが、いろいろあってな。その後はワシ自身をこの地に封印したのじゃ」


とても長い間、遺跡で眠り続けたメノウ。

理由は分からないが、封印が解け彼女は目覚めた。

そしてショーナと出会った。


「ワシの持つこの異常なまでの強大な力、これはこの身体に宿るドラゴンの力そのものなのじゃ」


「俺はてっきりメノウは異能の力を持つ者たち(イレギュラーズ)だと思っていたが」


「まぁ、『人間』ではないのぅ…」


かつて東ザリィールでの旅の果てにカツミに語ったメノウの真実。

滅多に話さぬことだが、ショーナにも本当のことを知ってほしかったという気持ちがメノウにはあった。

本当ならばもっと早く伝えたかった。

数年前の南ザリィールの旅の時点で話すべきだったのかもしれない。


「…まぁ、たとえ何だろうとお前はお前。メノウはメノウだよ」


「そう言ってくれるか」


「当たり前だろ」


「ショーナ…」


頬を赤らめ嬉しそうな表情を見せるメノウ。

川の水面から顔を出す、平らな石の上へと腰をかけた。

続いて彼女はショーナに言った。


「と、ところでお主も言いたいことがあったのではないか?」


「あ、ああ…」


彼がメノウに言いたかったこと。

その心に秘めた本当の気持ちを彼女へと伝える言葉。

勇気を出し、その言葉をメノウに送る。


「メノウ、実は俺…」


「あ…」


「お前のこと…その…さ」


そこまで言いかけたショーナ。

しかしその言葉はそこで途切れた。

彼の顔面にメノウの投げた川魚が激突したからだった。


「ははは、お主が真面目なことを言おうとするなど数百年はやいわ」


「め~の~う~…」


「魚でも食ってろ!今日の朝食じゃ」


「テントに戻るからな!これ調理しておくぞ」


「美味くしておけよ」


「ああ、わかったよ!」


「ははは…」


笑い飛ばしながらそう言うメノウ。

真面目な話を茶化されたショーナは怒ってテントの方へと戻って行ってしまった。

その場に一人残されたメノウ。

川から上がり、腰布を巻きながら一人呟いた。


「ショーナ()ワシに悲しい思いをさせようというのか…

ダメなんじゃよ。それは…」


先ほどまでとは打って変わり、哀しみの顔を川の水面にうつしながらメノウが言った…


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今後もこの作品をよろしくお願いします。

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