第八十八話 森の中の修行
大会開始までの約一か月、メノウはショーナに修行を付けることとなった。
場所はかつて二人が初めて出会った場所、『古代遺跡の森』だ。
普段は南ザリィール軍により閉鎖されているものの、今回だけは特別に入れることになった。
「着いたぜ、英雄さんよ」
「ありがとうな、テリー」
「ありがとうございます、テリーさん」
禁断の森付近の軍の駐屯地にて、メノウとショーナが言った。
二人が話しているのはあのテリーだった。
かつて南ザリィール陸軍として戦い、反乱を起こした男だ。
黒騎士ガイヤと交戦するも、その剣技で一蹴されていたが…
「俺たち軍は大々的には動けないからな、お前たちにできることはこれくらいしか無いんだ」
「いえ、これだけしていただければ十分です」
「ああ、食料もたくさんもらえたしのぅ」
テリーの直属の部隊がこの付近で演習を行う予定があったため、それに便乗してこの地まで運んでもらったというわけだ。
そのため、僅か三日でシークマントからこの地へ来ることが出来た。
途中で縮地法を利用できたこともこれほどの時間短縮につながったと言える。
「それにしても、何故この場所で修行を?」
「まぁ、いろいろあるのじゃよ」
「いろいろ…ねぇ…」
テリーの問い掛けを軽く流しながら、彼から貰った食料を降ろしていくメノウ達。
干し肉や瓶詰、その他諸々が数日分となる。
当然それだけでは一か月分には到底足りないため、残りは現地調達ということになる。
「ほれ、ショーナ」
「瓶詰の野菜に固パン、塩…っと」
「干し肉に乾燥豆…ん?」
食料品を乗せた荷馬車の奥に、何やら見慣れぬ荷物があることに気付いたメノウ。
それを開けてみると…
「よっす!」
「…お、お前さんは」
そこに入っていたのは、シークマントに置いて来たはずのミザールだった。
こっそりと荷物に紛れてここまで追跡してきたらしい。
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メノウによる古代遺跡の森での修行を続けるショーナ。
そしてそれにこっそりとついて来たミザール。
既に修業は二週間目に入っていた。
日が暮れかけ、本日の特訓も終わりに近づいていた。
「投げるぞーショーナー!」
「ああ、頼む!」
「これが終わったら今日の修行は終わりじゃー」
丸太をショーナに投げ続けるメノウ。
一本だけでは無い、何本も間髪入れず連続して投げていく。
直撃すれば骨折は免れないだろう。
「けっ、あんな特訓何の意味があるんだよ」
一方、もいできた果実を食べながらそれを横目に見るミザール。
彼女は剣術の練習をしていた。
新たな技を開発中らしい。
「あんなの続けたらいつか死ぬぞ、バカみたいだ」
「バカでいいよ!死なねぇからな」
メノウの投げつけた丸太を蹴り飛ばすショーナ。
さらに別の一本は衝撃波ではね飛ばし、別の丸太を真空波で切り裂く。
これらの技は、かつてメノウが西ザリィールで出会った少女カツミが使用していたもののコピー技。
ある程度コツを掴めば比較的簡単に会得でき、威力も高い。
ショーナがこの数年の間に東洋武術を学んでいたため、基礎的な部分が既にできていたからこそできた技だ。
「強化水壁!」
そして次に飛んできたものを強化水壁で同時に防ぐ。
強化水壁は基礎的な魔法の一つ。
これもメノウと別れた後、彼が自力で身に着けた魔法の一つだ。
その程度の魔法であるが、ショーナはさらにこの魔法に工夫を加えている。
「割れた強化水壁の破片が硬質化し、攻撃者に襲い掛かる!」
「おお、丸太が粉々になった」
基本的に防御にしか使えぬ魔法である強化水壁を攻撃に転用させている。
強化水壁に特殊な魔法を同時に仕組むことにより、攻防一体の技と化している。
彼のオリジナル魔法ではなく、ある程度魔法を使い慣れた物ならば誰でも使える。
しかし、ショーナの年齢で使える者はなかなかいないだろう。
「よーし、そろそろ終わるか」
「ありがとう、メノウ」
「気にするな、お前さんには強くなってもらわんと困るからな」
彼には何としても予選を突破してもらわなければならない。
それくらいの力が無ければ、大会に乱入してきた魔王軍の残党のメンバーと戦うことは不可能だろう。
「終わったか!二人とも!」
「ああ。少し休んだら食事にしよう」
嬉しそうな声を上げるミザール、そしてそれを鼻と喉を鳴らして笑うメノウ。
軽く休んだ後、森で採取した食料ともらった保存食で今夜の食事を作ることに。
干し肉と野草とキノコで作ったスープ、固パン、木の実のグラッセ。
全て現地調達の材料と保存食で作った物だが、品ぞろえはなかなかのものだ。
「酒は今は飲むわけにはいかんからな…」
グラッセに使用した酒の瓶をしまいながらメノウが呟いた。
魚を釣って酒蒸しというのも考えたが、甘いものを食べたくなったためこちらに変更したらしい。
「やっと食えるぜ。お前は魔法で調理とかできないのかよ?」
「そんなことはできん。逆に聞くがミザール、お前さんはできるのか」
「丸焼きならオレサマの得意料理だぜー」
「なんじゃと」
「はいはい、二人とも落ち着けって」
険悪なムードになったメノウとミザール、二人の少女を仲裁するショーナ。
確かにこのまま言い争っていても意味は無い。
そのまま食事をすることに。
「ここに来る前はメノウが料理上手なんて知らなかったな」
「ショーナ、お主と一緒に旅した時は殆ど店で買った物で済ましていたからのう」
「最近覚えたのか?」
「デザートはそうじゃな」
メノウが木の実のグラッセを片手に言った。
北ザリィールでの生活に余裕が出来た際に、調理本を読んで研究したらしい。
「メノウってなんでもできるんだなぁ」
「へへへ、もっと褒めろ!」
「こんな料理なら、俺は毎にちぃ…」
「このキノコうめぇ!」
二人の会話を遮るように、ミザールは木のスプーンを忙しなく動かして、キノコスープを口に運ぶ。
勢いよくキノコスープを口に運んだため、飲み込んだ後に具を喉を詰まらせ咽る。
「げふっ」
「うるさい!ちょっと黙ってろ」
「ゲフッ!」
メノウがミザールの背中に手刀を喰らわせた。
おかげで喉を詰まらせていた原因であるキノコが彼の口から飛び出した。
一応助けてくれたとはいえ、明らかに悪意のある方法に、ミザールは怒りを隠せない。
「おい!何やってるんだよ!バカかお前!」
「助けてやったじゃろう?」
「うるせぇ!」
「それは己じゃ!喰らえ!」
そう言いながら料理に使った木の実の皮の絞り汁をミザールの眼にかけるメノウ。
悶えながら眼を抑えるミザールを横目に喉で笑う。
「うわぁ~!眼がぁ~」
「この木の実はすごく沁みるんじゃ。川行ってくる」
いつの間にか自分の分の料理を完食していたらしく、彼女はその場を去って行った。
近くの川で水浴びでもする気なのだろう。
珍しくメノウの怒り顔を見たショーナはそれを止めることが出来なかった。
「眼がぁ~」
「だ、大丈夫か?」
「くっそ~覚えてろよアイツ!いつか仕返ししてやるからな!」
「やめとけよ、そんなこと」
「アイツ川へ行くって言ってたな…」
そう言ってその場からゆっくりと立ち上がるミザール。
物音を立てぬように、メノウの向かった川の方へと歩いて行く。
片手には捕まえた蛇を掴んでいる。
「この蛇を投げ込んでやる。ちょっとおどかしてきてやるぜ」
数分後、メノウの魔法でボロボロにされたミザールが戻ってきた。
フラフラとした足取りで木の幹に寄りかかった。
「くそー…あいつ…」
「そりゃそうなるよ」
ショーナが怒りながら叫んだ。
最初は驚くミザールだったが、それを見てあることを察したようだ。
「お前、ひょっとしてあいつのことが好…」
「り、木の実!」
「アーッ!また眼に汁がぁ!?」
「だ、黙ってろよ…!」
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