第八十七話 逃亡狐と再会の少年
消えたミサキを追うも、既に人混みに紛れてしまったのかその姿を見つけることはできなかった。
「あたしは憲兵隊に連絡入れておくよ」
「わるいな、ミーナ」
憲兵隊に連絡をいれミサキの捜索を依頼することに。
以前のミサキの事件のこともあり、快く協力してくれた。
また、数日前に街の古美術商の店から刀が一本盗まれるという事件があったそうだ。
恐らくこれもミサキの仕業だろう。
「で、あのミサキってヤツはどんな奴なんだ?」
「数年前この街で人斬りを働いていた女じゃ」
「人斬り…」
「その時はショーナとミーナの二人は不在じゃったな」
以前の事件の際は憲兵隊の力を借り、カツミと共に戦うことによりミサキを倒すことが出来た。
しかしあの戦いはミサキを何の遮蔽物も無い場所におびき寄せ、半ば不意打ちに近い形での勝利であった。
「俺達は確かその頃は王都に行ってたんだよ」
「あたしは仕事、ショーナは勉強のためだったか」
ここにいる四人のうち、あの事件に詳しいのはメノウしかいない。
ミザールは別地区の住人であるため当然知らない。
ショーナとミーナは一般に公開された程度の知識しか持っていない、そのため説明できるのはメノウだけなのだ。
「ミサキは強い。あの幻術はかなり厄介じゃ」
「そんなに強いのかい?ミサキは」
「強い。もっとも、性格にやや難ありじゃがな…」
先ほどの戦いでメノウはある『違和感』を感じていた。
記憶の中にある数年前の彼女と、先ほどのミサキ。
その二人の持つ力があまりにも違いすぎるのだ。
「(刀の一振りで刀身が砕けるなど聞いたことも無いぞ…)」
以前のミサキは幻術と剣術の複合技を使う剣士だった。
素の力の無さを幻術とスピード、技巧で補っているのだろう。
しかし先ほどのミサキは違った。
刀の一振りが刀身を砕き、巨大な真空波を発生させるほどの力を得ていたのだ。
「(強大な力…?)」
ここにきてメノウは以前の洗脳されたスート達のことを思い出した。
彼らはアニスから強大な力を与えられ、メノウと対峙した。
「(まさか…ミサキも…?)」
ザリィール刑務所に収監されていたミサキが何故、この地にいたのか。
魔王軍の残党が手をまわしていたのならばすべて説明がつく。
しかしミサキは操られているような素振りは見せなかった。
単純に力のみを与えられたのか…?
「おい、メノウ。どうしたんだよ。急に黙り込んで」
様子を心配したショーナの声により、我に返ったメノウ。
「あ、ああ。ちょっとな…」
「なんだよ、考え事か?」
「そ、そう言えばショーナ、お主は幻術師の女と戦ったことがあったな?」
「あ、ああ。C基地のサヨアだな」
ショーナもかつての南ザリィールでの旅の際、幻術師の女サヨアと出会い、幻術にかけられたことがあった。
彼とミーナにわかりやすくするため、ミサキとサヨアの両者を比べて話すことにした。
ミザールにはどう説明するか迷ったが、意外なことに彼は魔法や幻術の方面には強いらしい。
「ミザール、お前さんは魔法や幻術には詳しいのか?」
「ああ、ケイトと一緒に習ったことがあるから原理や一通りの知識ならある。幻術もな」
「なら話しやすいな」
サヨアの幻術はただ単に相手を惑わすだけの技。
一方のミサキはそれに加え、攻撃手段へと幻術を転用している。
そして剣技による斬撃。
サヨアよりも数倍厄介といっていいだろう。
「以前の時はワシの連れのカツミが戦ったのじゃが…」
かつての戦いでは、その時メノウとと行動を共にしていた少女、カツミがミサキと戦った。
かなりの実力者である彼女がミサキ相手には、一対一では手も足も出なかったほど。
その原因はやはりミサキの操る幻術だろう。
「そのカツミってヤツも相当な手慣れみたいだね」
「ああ、かなり強い」
かつての戦いでメノウがほぼ一方的にミサキに勝てたのも、魔法耐性があったからだ。
魔法や幻術に耐性を持つメノウには斬撃のみしか意味を成さなかったため、以前の戦いでも勝利できた。
しかし他の者が戦うならば、かなりきつい戦いとなるだろう。
「ミサキの戦法はわかるか?」
「ああ、幻術で惑わせその隙に相手を斬る。一撃必殺の剣技じゃな」
「あとで憲兵隊に保存されている資料をみてみるといいかもしれんのぅ」
「まぁ話を聞くだけじゃわからないこともあるしな…」
ミザールの質問に答えていくメノウ。
これ以上は質問責めになる、そう考えたメノウは話題を切り替えることにした。
「それにしてもミザール、よく考えたらその年で騎士団所属ってのも凄いことだぞ」
僅か十五歳で騎士団に所属するというのはかなりのレアケースであると言える。
さらにサフィーネ、エメラト姫からの信頼も厚いとなると、彼の実力は見た目からは想像もつかない、凄まじいものなのだろう。
「まぁ、オレサマにかかれば騎士くらい軽いものだぜ。討伐大会だってこんな任務なければ出場してかるく優勝してやるっていうのにな」
以前も言っていたが、ミザールはどうやら討伐大会に参加したかったようだ。
優勝とまではいかなくても、上位まで行けば自分の実力を示すことも出来る。
彼の性格ならば参加しない理由も無いだろう。
「討伐大会か、そう言えばショーナは出場するんだよな」
「ああ、腕試しにな」
「なんじゃと!?」
ショーナが討伐大会に参加すると聞き、血相を変えた顔で驚くメノウ。
「な、なんだよいきなり。驚くだろ」
ショーナは討伐大会に魔王軍の残党の者が介入してくるとは知らない。
ミーナも同じだ。
そして先ほどのミサキの件もある。
メノウとしては彼を危険に巻き込みたくはないというのが本音。
しかし…
「(ここで止めても聞かないじゃろうな)」
今、メノウの前にいるのはかつての臆病な少年では無い。
凛々しく成長した一人の戦士。
止めたところで討伐大会への出場を取り下げることはないだろう。
「今度の討伐大会、ちょっと訳ありでな…」
メノウはショーナとミーナに魔王軍の残党のことを、そして彼らが何をしようとしているのかを話した。
この二人は単なる迎えの者であるため、本来ならばこんなことを知る権利は無い。
魔王軍の残党自体、ジルバードとミザール、メノウ達のみに知らされた任務でもある。
しかしショーナ達はメノウの大切な友であり、かつての仲間でもある。
どうしても話さずにはいられなかった。
「…魔王の手先共に狙われるかもしれない。それでも出るのか?」
「ああ、その程度の障害で出場を取り下げる俺じゃないさ」
「ショーナ、お主ならばそう言うと思ったわ」
彼の信念を曲げるわけにはいかない。
しかし、このまま出場してみすみす魔王軍の残党の者にやられる訳にもいかない。
いや、それ以前に予選で敗退というのも考えられるが…
「ショーナ…」
「なんだ?」
「今度の大会、勝ちたいか?」
大会という形式上、魔王軍の残党のメンバーが試合中に何かをしてきた場合、外野であるメノウとミザールだけでは最悪の事態を防げない可能性もある。
今、メノウの考えられる最善の策、それは…
「何としてでもお主には南ザリィール予選を勝ち抜いてもらう必要がある。そのためには…」
大会まではあと一か月ほどの期間がある。
メノウの策、それはショーナに南ザリィール予選を突破できる程の力を与えること。
「いったい何を…?」
「一緒に修行、するか?」
たとえ魔王軍の残党が襲ってきたとしてもショーナがそれを撃退できるほどの力を持てば問題ない。
予選を突破すればその後の警護などもやりやすくなるだろう。
今の彼ならば、ちょっとしたきっかけを与えてやるだけでその力を得るのも難しくはなさそうだ。
「あ、ああ!喜んでやらせてもらうぜ!」
「修行の場所はお前さんと初めて出会った『あの場所』じゃ」
感想、誤字指摘、ブクマなどいただけると嬉しいです。
また、この小説が気になった方は☆☆☆☆☆で応援していただけると嬉しいです!
今後もこの作品をよろしくお願いします。




