第八十四話 阻止せよ、魔王復活を!
修道女の姿を借り皆の前に現れた少女。
それこそが王女サフィーネ姫だった。
そう遠くない未来、この国を背負うことになるであろうその少女。
まだどこか幼さを残しながらも威厳に満ち溢れたその姿。
肩までのミディアムヘアと黄金色のカールが、教会内に舞い込んだ一陣の風に靡いた。
「ええ、私が王都セインツブーストの王女、『サフィーネ』です。スート達から話は聞きました」
「みなさん。ここからは姫とこのわたし、ジルバードが全てをお話しいたします」
「俺も聞かないといけないのか!俺は関係ないだろジルバード!」
「大人しく聞きなさい、ミザール。ザリィール帝国騎士団の名に懸けて」
「チッ!わかったよ。それを言われちゃ仕方ないな」
ミザールが教会の椅子に大股で座り込む。
それに合わせメノウ達も空いている椅子へと腰を掛ける。
「皆に問います。貴方たちは何故ここに集められたのですか?」
「そんなこと、魔王軍の残党に関わりのある、あった者だからだろう?」
「メノウちゃんは魔王軍の残党に狙われた、そして私たちは…」
「言うなアズサ!思い出したくもねぇ!」
ウェーダーとアズサが苦虫を噛み潰したような表情で言った。
みすみす敵の手に堕ち、メノウを襲ったことなど思い出したくも無いのだろう。
「貴女の言うとおりです。しかしそれ以外にも理由はあります」
「理由?なんだよ?」
「気付きませんか?何故サフィーネ姫がわざわざこのような場所を面会の舞台に選んだかを」
「…あ!」
王女ともあろうものがこのような廃墟で人を待っているなど、普通に考えればありえないことだ。
城の謁見の間や、そうでなくてもそれにふさわしい場所はいくらでもある。
このような場所でわざわざ変装して待つなどありえないことだ。
「…正直なところ、城にはもう信じられる人間がいないのです」
「魔王軍の残党は一般人に化け、この人間社会に紛れているといいます。信用の置く者しか身の回りに置けないというのが現状…」
仮に城で謁見をした場合、魔王軍の残党の手の物にそれを聞かれる恐れがある。
そうでなくともその最中に襲撃をかけられぬとも限らない。
逆に城から離れたこの場所ならば、誰にも聞かれることは無い、ということだ。
サフィーネ姫が城を抜け出し、城下町にお忍びで遊びに行くというのは親衛隊の間では有名な話。
魔王軍の残党の尖兵も当然そのことは知っているだろう。
少し長めの外出をサフィーネがしても、いつもの『お忍び』とみなされ、敵に問題視されることは無い。
「ジルバードとスートは信用が置ける私の部下です」
「そしてミザールとケイトの潔白はこのジルバードが保証する」
「俺とアズサは一度操られて元に戻ったからいいってか?」
「…ならばワシはどうなんじゃ?信用のおける理由など何もないぞ」
メノウが言った。
確かに彼女の言うことも正論だ。
しかしそれに対しサフィーネはこう言い放った。
「貴女がこれまで成し遂げた奇跡、それを知るからこそよ」
「ほう」
「南ザリィールの黒騎士ガイヤとの戦い、西ザリィールでのディオンハルコス教団キリカ支部の壊滅、東ザリィールでの死の商人、大羽との決戦…挙げればきりがないわ」
「そこまで調べているとは…」
「ここにいる者は私が絶対の信用を置く者。それは揺るがない事実です」
サフィーネが皆に言った。
それを聞き黙って頷く一行。
「魔王軍の残党の目指す魔王復活まであと数年、それは絶対に阻止しなければなりません!そのためには皆さんの力が必要なのです!」
数年後に蘇るという魔王軍、それを止めるためメノウ達はこの場に呼ばれた。
古びた教会にて王女サフィーネと謁見、その話を聞かされた。
ここまでの話の流れに対し異論を述べる者はいなかった。
しかし…
「協力といっても、まず俺たちは何をすればいいんだ?」
ウェーダーが言った。
ただ漠然と協力を求められても、相手は全容も掴めぬ集団。
まず何をすればいいのかが分からなければ、行動のしようが無い。
「そうですね、まずはそちらから話さなければなりません」
「ああ、頼むぜ王女サマ」
「恐らく、現在の魔王軍の残党は強力な力を持つ『兵力』が圧倒的に不足している状態です」
「何故そう言いきれる?」
「三百年前に魔王とともに戦った魔族たちはいずれも『一騎当千の力を持つ者』と記録には残っています…」
もしそのような者達が現在も魔王軍の残党に残っているとしたらこのように裏で暗躍したりなどしない。
仮に残っていたとするならば、王族や権力者などを次々と暗殺し国を掌握。
魔王復活の時をゆっくりと待つ、ということも簡単にできてしまうだろう。
「…そんな奴らが沢山いるわけがないってか」
「そうです」
これをよく表しているのが、以前のメノウとアニスの出会いだろう。
あの戦いでアニスは操ったスート達と魔物を使ってメノウを始末しようとした。
魔王軍の実力者を大勢集め闇討ちすれば、多大な被害は出るであろうが彼女を始末することは難しくは無い。
それをしなかったのは単純な『人員不足』が原因だろう。
所詮は残党、ということか。
「話は変わりますが、皆さんは『討伐大会』をご存知ですか?」
サフィーネの言った『討伐大会』、それは魔王封印祭と同時に開催される催しである。
三百年前に魔王を倒したザリィール王国の勇者たちを称えるための祭りが起源とされている。
あれから百年間、国名はザリィール王国からザリィール帝国へと変わり時代も変わった。
しかし、封印祭と同じく毎年開催されている。
封印祭はパレードや演劇、その他様々な出し物が披露される祭り。
そして討伐祭は…
「討伐大会ってあれだろ?毎年やってる武術大会」
「正解です、ミザール」
「へへ…、確か半年後に封印祭と一緒にやるんだよな」
ミザールの言うとおり、魔王討伐大会とは封印祭と共に行われる武術大会だ。
東西南北のザリィールで一か月おきに予選を行い出場者を選出。
王都セインツブーストで行われる本戦の優勝者には莫大な賞金と名誉が与えられる。
「はい、数か月の予選期間を置いてね…」
「で、その討伐大会がどうしたんだよ。全く関係ないぞ」
「ミザール、人員不足な時にあなたならどうしますか?」
「そりゃあ足りない分は別に集めるに決まってるだろ。オレサマを舐めるな」
「強い人をたくさん集めたいなら?」
「強い奴がたくさんいるところへ…あッ!」
彼が言った『強い奴がたくさんいるところ』、つまりそれが討伐祭ということになる。
サフィーネの話によると、既に出場予定の武術家が数名襲われていたらしい。
「魔王軍の残党たちの狙いは恐らく討伐大会を利用しての人員補給と邪魔者の抹殺でしょう」
仲間になりそうな者は魔王軍の残党へ引き入れ、それを拒否した物は以前のスート達の様に操る。
あるいは障害にならぬように抹殺する、それが狙いだとサフィーネは推理した。
もっとも、以前のスート達に行われた洗脳行為自体がそこまで大々的に使用できるとは考えにくい。
となれば、ただ単に魔王軍の残党への引き入れか抹殺の二択となるだろう。
「私の願い、それは魔王討伐大会を無事に成功させること。そのためにあなた方の力を借りたいのです」
今年行われる討伐祭は魔王軍の残党の介入が必ずある。
それを防ぐため、サフィーネは信用のおける者達をここに集めたのだ。
魔王討伐大会と魔王封印祭は国の威信をかけた催し、中止する訳にはいかない。
「よし、そうとわかればこの俺が討伐大会で優勝して…」
「アホか、お前さんは」
ミザールの言葉に対し、メノウが冷たく言い放った。
それを聞き一瞬ミザールの眼がさざ波のように揺れた。
しかしすぐさまメノウに反論をぶつけた。
「なんでだよ!」
「普通に考えて、お前さんが出場して何かメリットがあるのか?」
「そ、それは…」
言葉に詰まるミザール。
サフィーネは二人の会話が終わったのを確認すると、会話を再開した。
「私の頼みは討伐大会を成功させること。出場者のボディガードを依頼したいのです」
「ボディガードか…」
「ええ。もし可能であれば襲撃してきた魔王軍の残党の者達を捕えていただければ…」
「そこから芋づる式に一網打尽にできるってか」
「はい。討伐祭と並行して行われる封印祭の方でも何か仕掛けてくるかもしれません」
「そちらは心配ありません、サフィーネ姫。このわたし、ジルバードの所属するザリィール帝国親衛隊が命に代えても封印祭を成功させます」
「ありがとう、たのもしいわ」
その言葉を受け、サフィーネを軽く一礼するジルバード。
事のあらましを説明され、各々がそれぞれの思いを巡らせる。
と、そこへ…
「伝書鳩?」
教会に入ってきたのは、一匹の伝書鳩だった。
周囲に気付かれぬよう、魔法でカラスに偽装されている。
「あら、エメラトのじゃない。どうしたの?」
「お、エメラトからか」
伝書鳩の主はミザールとケイトの友人であり、サフィーネの妹。
王女エメラト姫からだった。
何やら急ぎの連絡のようだが…
『討伐大会の最初の予選が行われる地区が決まった』
伝書鳩の持って来た手紙にはそう書かれていた。
東西南北の地区でそれぞれ一か月おきに行われる討伐大会の予選。
その予選が開催される最初の地区が決まったという。
『南ザリィールのシークマントから、一か月後に開かれる』
一か月後の南ザリィールで第一回目の予選が行われ、その後、一か月おきに東、北、西でも行われる。
国の威信をかけて行われる封印祭と討伐大会。
魔王軍の残党たちの介入を、メノウ達は阻止しなければならないのだ…
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