第八十一話 目指せ王都!
敵か味方か、『ソイツ』は唐突に表れた。
走る犬の魔物の前に突如現れた一人の小柄な人物。
全身を灰色の布とマントで覆い、素顔も見えない。
その佇まいから恐らく少女であると思われるが、真相は分からない。
『ジャマダァ!』
「…ツ!」
すれ違い様に攻撃を放とうとした犬の魔物。
しかしソイツは一撃でそれを下し、攻撃を放った犬の魔物ごと斬撃波で両断した。
『ガッ…ガガ…!』
「斬撃波…!?」
かつてカツミやヤマカワが使っていた技に似ている。
メノウがその人物へと近づいて行く。
犬の魔物を倒したのは何者か、それを確かめるために。
既に魔力は消え失せ、犬の魔物の姿は元の麦藁でできた人形に戻っていた。
「真っ二つじゃ…」
両断された麦藁でできた人形を拾い上げたメノウ。
そしてその謎の人物とついに対峙する。
「……」
全身を灰色の布とマントで覆った謎の人物。
背はあまり高くは無く、体格も良くは無い。
ちょうど『数年前に別れたときのカツミ』と同じくらいだろう。
「……」
「お前さんは一体…?」
不思議とメノウはこの人物に対しては警戒をしなかった。
敵では無い、そう何かが教えてくれているようだった。
歩み寄ろうとメノウが足を進めた。
「…!」
その時、身に纏った灰色のマントを翻しその少女はその場を去って行った。
たった一瞬の出来事だった。
「(誰なんじゃ…でも…)」
メノウはその少女を『知っている』ような気がした。
たんに知り合いと雰囲気が似ているだけなのか、それとも…?
「…そ、それよりスート達を起こさないとな!」
魔王軍の残党の二人、アリスとヤクモ、そしてその使い魔である犬の魔物を一旦退けたメノウ。
しかし、今の段階では何が起こっているのかまるで分らない。
現在メノウに必要なモノ、それは情報だ。
操られていたスート達三人に、何があったのかを聞くことにした。
「まずお前さんたちに何があったのか教えてくれ」
目が覚めた三人にそう言うメノウ。
遺跡の跡で話を聞くことになった。
幸い三人とも大きな外傷も、後遺症も無かった。
「そう言われても…私、記憶が曖昧で…」
「俺もだ…自分が何をしていたのかも思い出せん…」
アズサとウェーダーが頭を抱えながら言った。
この様子では仮に思い出したとしてもそこまで詳しいことは分からないだろう。
「それよりもメノウちゃん、あんまり成長してないみたいだけど…」
「数年前に西ザリィールで会った時と…ほとんど変わってねぇな…」
「確かに…変よね…」
「あ~頭痛ぇ…気のせいか?」
「数年じゃぞ、そう変わらんわ」
「そうかな…?そうかも…」
竜の力を持っているメノウは歳をとることは無い。
メノウが『そう変わらん』とはっきりと断言したことで二人は追及を止めた。
話題を戻し、唯一冷静さを保っているスートに何があったのかを尋ねることに。
「スート、お前さんは?」
「…まさか魔王軍の残党の駒として使われてしまったとは」
「魔王軍の残党について何か知っておるのか?」
「ん…」
メノウの言葉を聞き、一瞬言葉を詰まらせるスート。
何か話したくない理由があるのだろう。
しかし少し考え込んだ後、ついに口を開いた。
「…隠していても仕方がありません」
「と、いうと?」
「実は以前から、私は王女から直々の命を受け魔王軍の残党について調査をしていました」
「王女から?」
「ええ…」
このザリィール帝国の王女は『サフィーネ』姫。
そして妹のエメラト姫。
スートはその姉の方の王女、サフィーネから命を受け魔王軍の残党を調査していたという。
「内密の調査だったのであまり言いたくは無かったのですか…」
かつてザリィール全土を戦乱の渦に巻き込んだという魔王。
魔王軍の残党とはその魔王を狂信する者達のことだ。
かつて魔王が率いていたという軍の生き残りや、その思想に共感した者たちが集まってできた集団。
所属するメンバーたちの内、実力の高い者たちは何らかの特殊な力を持っている。
「国はずっと彼らを秘密裏に監視していましたが、数年前までは特に動きはありませんでした」
「動きが無かった…?」
「今考えてみると、恐らく察知されぬよう極秘に動いていたのでしょうね…」
しかし、近年になりその活動が徐々に顕著になってきた。
ザリィールの人間に化け、今日まで魔王復活に貢献してきた彼らが行動を開始したのだ。
あと数年で魔王が封印され三百年になる。
何としてでもそれに間に合うようにしなければならない。
そうなればもはや手段を選んでいられない、ということだろう。
「たとえ魔王復活の活動が公になったとしても、その結果復活させることが出来れば彼ら魔王軍の残党の勝利です」
スートが言った。
魔王が復活したら、この世界は闇に包まれるという。
伝承であるため漠然としたことしかわからないが、少なくともザリィールの民にとっての脅威となることには違いない。
それを阻止すべく、スートや他のザリィール帝国所属の一部の者達は動いていたのだ。
「魔王軍の残党について有力な情報を持つ者がいると聞いて会いに行った辺りで私の記憶が消えています…」
「そこで奴らに操られたというわけか」
「恐らくそうです」
それを聞き、アズサとウェーダーも自身の操られる直前のことを思い出したようだ。
アズサは店に来た客の相手をしていた途中。
そして、ウェーダーは盗賊と戦い、それを連行している途中に。
恐らく、その『客』と『盗賊』がそれぞれ魔王軍の残党の手の者だったのだろう。
「相手が何者か見抜けなかったなんて。忍者失格ね…」
「いいようにされてしまったとは、面目ない…」
魔王軍の残党は主要メンバーこそ少ないが、それら全員がザリィール全土に散っている。
恐らくこれからも様々な手をつかい魔王復活を狙ってくるだろう。
そして、メノウの命も…
「しかしなぜメノウさんは狙われたのでしょうか?」
「それは…」
メノウは先ほどアリスが言ったことを思い出した。
しかし、それだけが理由というわけではないだろう。
今のメノウの身体には、魔王の力と記憶の一部を受け継いだ『魔竜オオバ』の力がある。
恐らく彼らの狙いは、メノウの持つこの力だ。
「(大羽め、もしやこれを狙って…?)」
死に際の大羽が、何故最後にメノウへ力を与えたのか。
その狙いは恐らくメノウを魔王軍の残党との戦いへと巻き込むため。
彼の狙いが魔王軍の残党の勝利なのか、それともメノウの勝利なのか…
消えてしまった今となってはもはやそれもわからない。
「ワシが奴らの計画にジャマなんじゃろう。腕に自信のある者は仲間にするか殺す、ということじゃないのか?」
あまり複雑なことをスート達に話しても理解されない。
そう思ったメノウは簡単にその話を流した。
例えどれだけ柔軟な頭を持つ者でも、ドラゴンの話をされていきなり理解できるものはいないだろう。
「…恐らくはそうでしょうね」
「詳しくは分からんがのぅ」
メノウの言葉をそのまま受け止め納得するスート。
「魔王復活まであと数年。こちらも手段は選んでいられません」
「と、言うと?」
「メノウさん…いや、ここにいる皆さんには私と共に来てほしい場所があります」
その言葉を聞き、メノウだけでは無くアズサとウェーダーも目を丸くして驚く。
「え?」
「私たちも?」
「そうです、王都にいる王女の下へと…」
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