第七十六話 遠い世界の物語
メノウの最後の攻撃を受け、その場に崩れ落ちるオオバ。
『幻影炎龍壊』を受けた右腹には大きな風穴が空いている。
カツミの『疾風虎狼殺』を受けた左腕は既に消失、合成魔獣の爆発と多数の連続攻撃を受けたオオバ。
もはや彼に戦う力は残されていなかった。
ドラゴンの身体から魔力が徐々に抜けはじめ、やがて元の人間の姿へと戻って行った。
「そうか…私の負けか…」
その場に横たわりなから、虚ろな顔で夜空を見上げるオオバ。
人間体に戻ったとはいえ、その体はドラゴンの時と同様左腕を失い、痛々しい傷が残っている。
「ああ、お前さんの負けじゃよ」
倒れているオオバにメノウが言った。
もう自身に戦う力が残っていないことを悟った彼はおとなしくその声を受け入れた。
「だが、君たちもギリギリのようだな…」
「そうじゃ、さっきの合成魔獣に魔力を全部使ってしまったからのぅ」
「さっきの攻撃が外れていたらアンタの勝ちだっ…」
「カツミ…?」
「う…メノ…」
そう言いかけ、カツミはその場に倒れた。
先ほどの攻撃を当てるため精神力をよほど使ったのだろう。
かなりの疲労が見えた。
そのカツミの言葉を聞き、オオバは軽く笑みを浮かべる。
自分が勝利したもしもの未来でも想像したのだろうか。
もっとも実際に勝利したのはメノウとカツミ。
オオバは敗者でしかないのだが。
「お前さんはワシと同じ帝国の生まれ、それは間違いないな?」
「ああ。帝国滅亡から数千年。まさか同胞に倒されることになるとは思いもしなかった…」
「その力を、お前さんはどこで手に入れた?」
「知りたいか…?」
「当然じゃ、だから聞いておる」
メノウの顔を見てこれ以上黙っていても無駄だとオオバは悟った。
口を割らせる魔法である、『クリアセオリー』をメノウは使用できる。
今の傷ついた身体ではその魔法に抵抗することも出来ない。
オオバはそう考えたのだ。
「…『時空の塔』だ」
『ザリィール』と『遠い世界』を繋ぐといわれている塔、それが『時空の塔』だ。
もっともそれは単なる伝説に過ぎない。
実際は、北ザリィールの最果ての地に存在する、いつ造られたのかもわからぬ謎の建造物。
現在では国から立ち入ることを禁じられている、禁断の遺跡と化している。
「ザリィールと遠い世界を繋ぐといわれる遺跡、そこで私は竜をも超える力を手に入れた…」
数十年前、オオバがその旅の果てにたどり着いた最後の場所。
それが時空の塔だった。
「今から約数百年前、その場所に『魔王の力』を持つ者が封印された」
約数百年前に封印された魔王の力。
オオバは、時空の塔に封印されていたその力を手に入れていたのだ。
もっとも、彼が訪れた際にはその力は消失しており、『魔力の残り香』と『魔王の記憶の一部』のようなものがあっただけだった。
だが、元来強力な力を持つドラゴンである彼にとってそれは飛躍的な能力上昇に繋がった。
魔力の残り香を使い、自身の能力を最大限に引き出し、残されていた記憶をもとに時空の塔の謎を解読した。
「あの塔はかつて遠い世界と繋がっていた。それは間違いない…」
オオバの口から語られた『時空の塔』の真実。
だがその半分以上はメノウにとってどうでもいいことだった。
あくまで彼女は、オオバがどうやってその力を得たのか、それを知りたかっただけ。
「ならばもう一つ聞くぞ。何故お前さんは、人間の悪いもの達に手を貸したのじゃ?」
オオバの所有する会社は、表向きは貿易業だがその裏では兵器の密輸と製造を行っている。
そこで作られた兵器は、多数の被害を出している。
それだけでは無い。
帝国の国外に輸出された兵器は世界の各地で紛争の道具として使われている。
それは海を越えた地にあるテルーブ王国でも…
「帝国に仕えるドラゴンは高潔な幻獣。なぜお前さんは…」
「君は世界を知らなさすぎる…」
「え…」
唐突に言われた言葉に困惑するメノウ。
「私は長らくドラゴンとして人間の世界を見てきた」
帝国滅亡後、オオバは世界中を放浪した。
ドラゴンは人間よりも遥かに長い時を生きる。
そんな中で彼は、多くの人間同士の醜い争いを見てきた。
帝国の滅亡とそれらが重なり、やがて彼はこの世界に価値を見いだせなくなった。
「人は些細なきっかけで争う。僅かに自分たちと異なる者がいるとそれを排除しようとする」
その言葉を聞き、メノウの脳裏にツッツの姿が思い浮かぶ。
異能者である彼女は、もしそれが周囲に知れ渡ったらどうやって生きていくのか。
これまでのような生活は送れない、迫害されながら逃げるように旅を続けるしかないのか…
「君にも心当たりがあるだろう?」
「そ、それは…」
「私と、私のつ…」
そこまで言いかけたその時、メノウ達のいる城が大きく揺れ始めた。
地震などでは無い、この建物そのものが崩れかけているのだ。
合成魔獣とメノウの戦いで城の壁と支柱を複数破壊。
そしてオオバとの戦いではカツミの斬撃やオオバ自身の攻撃で、城に多大な被害を与えた。
むしろ、戦いの途中に崩壊しなかった方が奇跡ともいえる。
「建物が…!」
何とか脱出すべく倒れていたカツミを背負い、辺りを見回すメノウ。
魔法を使えば飛行はできるが今はそんな魔力すらない。
もし使ったとしても硬度を維持できず、浮遊している途中で落下してしまうだろう。
「揺れが…大きくなっ…!?」
今メノウ達の立っている城の屋上全体にヒビが入った。
その半分が崩れ落ちはじめた。
「うっ…」
倒れていたオオバのもとにもそのヒビが手を伸ばしてきた。。
もはや彼に自力で動く力はほとんど残っていない。
静かに崩壊をはじめ、彼の身体も城の残骸と共に落下していった…
「…!」
「お前さんには…聞きたいことがまだあるんじゃ!」
崩れゆく残骸と共に落下していくオオバの右腕をメノウが掴んだ。
倒れたカツミを背負っているメノウは、体力、魔力共に限界に近い。
両腕で彼の腕をつかむも、一歩間違えれば共に落下しかねない。
「だから助けた…か…」
「ああそうじゃ!だから今は死ぬな!」
「この状況で私と君のお友達を助けつつ、生還する。そんなことが本当にできるとでも思っているのか?」
「…やってみる」
「私から見れば、やはり君はまだまだ子供だよ…」
軽く笑みを浮かべたオオバはメノウの手を強く握りしめた。
それと共に、二人の体が紅い光に包まれる。
死にかけのオオバの中に残されていた魔力がメノウの中に流れ込んでくる。
「いったい何を…」
「数千年後の世界でかつての同胞に出会えたことを感謝するよ…」
「オオバ!」
「最後に行っておく…ヤツは生きている……」
そう言い残し、オオバはメノウの手を振りほどいた。
彼の身体は城の残骸と共に落下していき、闇の中へと消えていった。
「待て!オオバああああぁぁぁッッッ!」
メノウの声がむなしくその場に響き渡る。
既に限界が来たのか、それと同時に彼女の立っていた床も砕け始めた。
と、その時…
「掴まって!」
「ザクラ!?なぜ…」
「はやく!」
かつて敵として対峙した、朱雀を駆る四聖獣士、ザクラが崩れるその瞬間その場に飛来。
一瞬の内にメノウとカツミを朱雀に掴ませ、その場から離脱した。
それと共に戦いの舞台となっていた城は完全に崩壊。
瓦礫の山と化した。
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