第七十一話 東の皇
メノウの拳がハーザットを貫いた。
そのまま彼女は、無言で彼の身体から拳を引き抜いた。
ハーザットの赤い鮮血がメノウの身に返り血となって降り注ぐ。
「こッ…こ…わ…が…っ」
ハーザットは肺を含む内臓をもを破壊され、もはや喋ることすら出来ぬ体になっていた。
だからといって憐れみも感じず、嬢も一切かけたりはしない。
メノウは彼の身体を、積まれた瓦礫の山から叩き落とした。
「じゃあの」
ハーザットの身体の骨が砕ける音と共に、メノウも瓦礫の山を下りた。
そして、それとほぼ同時に、カツミと戦っていたツッツの身体にある異変が起き始めた。
それは戦っている当人であるカツミから見てもわかるような大きな異変。
「(身体が…思ったようにうごか…ない…!?)」
「ツッツの動きが鈍くなってきた…!」
ツッツ自身のイメージする動きと実際の身体の動きが徐々にズレていった。
最初は僅かなほころびだったが、少しづつその動きの誤差が広がっていく。
ハーザットの再起不能により、何らかの不具合が生じたのだろう。
思考や身体に刻まれた彼の呪縛が、解かれようとしている。
これを見逃すカツミでは無かった。
「これだ!」
動揺するツッツに向けて衝撃波を放つ。
破壊力自体は無いが、その衝撃で彼女の身体が吹き飛ばされる。
彼女のとばされたその先には…
「メノウ!今ならイケるぞ!」
「おう!」
その先にいたのはメノウ。
今の彼女には、カツミが何のためにツッツを吹き飛ばしたのかが手に取るようにわかる。
カツミの衝撃波で飛ばされたツッツを、メノウが受け止めた。
予想外の衝撃に一瞬ぐらつくも、何とか踏みとどまる。
「あの時、お前さんを守れなくて悪かった…ツッツ…」
「え…?」
「すまん…」
そう言うと、メノウは先ほどは失敗したクリアセオリーをツッツに放った。
ハーザットの呪縛が消えた今、もはや効かない道理はない。
クリアセオリーを受けたツッツはその場に倒れ、気を失った。
「やったか!?メノウ?」
「ああ。やってやったわ…あのハーザットとかいうヤツものぅ…」
「あいつか…」
「西ザリィールでの大型肉食恐竜型の魔物との戦いを思い出して、もしやと思ってヤツを倒してみたが…」
ハーザットを倒せば呪縛が消える、メノウがこの考えに至ったのには理由があった。
それは西ザリィールでの名も無き追跡者、そして大型肉食恐竜型の魔物との戦いにヒントがある。
あの時の戦いにおいて大型肉食恐竜型の魔物は非常に好戦的な性格になっていた。
理由は簡単、大型肉食恐竜型の魔物は追跡者の男が操っていたからだ。
「大型肉食恐竜型の魔物…あの時のか!?」
「ハーザットはの魔物を操るのと同じ方法で、ツッツも操っていたんじゃろうな…」
「あの野郎…!」
「カツミ、こんな時にあれなんじゃが…」
「な、なんだ?」
「頼みがある」
気絶したツッツをカツミに渡したメノウ。。
身体だけでは無く、恐らく精神にも傷が残っているはず。
すぐに病院にツッツを連れて行って欲しい。
そう彼女は言った。
「…何故あたしだけに任せる?お前はどうするんだ」
カツミは知っていた。
メノウは全てを自分で背負い込む癖があることを。
重要時には仲間を突き離し、自分一人で解決しようと尽力する。
西ザリィールから旅に出る際もそうだった。
そして、それ以前にもそんなことがあったのだろうことは容易に想像できた。
「ワシにはまだやるべきことがある」
「オオバか…」
「ああ、ヤツには聞きたいことが山ほどあるからのう」
何故、オオバは竜の巫女の伝説を何故彼は知っていたのか。
メノウのいた遺跡を調べたとシェンは言っていた。
『学者さんががんばって解読したんだよ。大変だったって』
以前シェンはそう言っていたが、それが本当だとはとても思えない。
古代に使用されていた言語は、現代に残るどの言語とも異なる文法が使用されている。
いくら学者といえど、そう簡単に解析できるものではない。
「…わかった。ツッツのことはあたしに任せろ」
「…また貸しを作ってしまったな。何回目じゃ、これで?」
「さぁな。いいよ、そんなことは」
今更メノウの考えを曲げることはできない。
たとえ強硬手段をとったとしてもそれは同じだろう。
出来ればカツミもメノウと共に進みたい。
だが、今はそれができない。
救い出したツッツの安全を確保までは…
「じゃあ、とりあえず街の病院に行ってくるぜ」
「ありがとうな…カツミ…」
そう言ってツッツを、乗ってきた船に乗せるカツミ。
陸の港町の病院に送り届けるという。
去り際に一言、彼女は言った。
「死ぬなよ、メノウ…」
ツッツとカツミを乗せた船は静かに海原を渡って行く。
それを少し眺めたあと、メノウは一人その場を後にした。
--------------------
この島で最も大きな建物。
それは島のちょうど中心にあった。
先ほどメノウとカツミが怪しいと睨んだ城だ。
「あの採石場の時と同じじゃな…」
そう行って城の中へと入って行く。
あの時と同じく、人の気配も何もない。
広いフロアに吹き抜けの天井。
恐らく、所有者であるオオバの趣味なのだろう。
状況は違えど、あの採石場での戦いを思い出す。
唯一、あの時と違う点を上げるとすれば、それはただ一つ。
メノウには今、共に戦う仲間がいないということだろう。
「…いくかのう」
誰もいない城のエントランスにメノウの足音だけが響く。
それ以外の音すらしない完全な静寂。
城の中は薄暗い青色に染まっていた。
警戒しつつ、上のフロアへの階段を探すべく辺りを見回す。
と、そんな中、メノウはあるものに気付いた。
「ん…?」
エントランスの隅にある椅子。
そこに一瞬、人の気配を感じた。
殺気などではなく、ただ純粋に人の気配を感じただけだ。
観葉植物の影にいたその人物に近づこうとしたメノウ。
ふと、足音を立ててしまった。
「ん…?」
それに気づいたのかその人物は、持っていたカップをテーブルに静かに置いた。
そこにいたのは、ビジネスマン風の東洋人の男。
中々の身体に程よい肉付き、鋭く深く黒い瞳。
「ついにここまで来たか、『竜の力』を持つ少女よ…」
その言葉を聞き、動きが止まるメノウ。
そこにいたのは紛れもない、東ザリィールの軍閥長、オオバだった。
古代遺跡の謎を解き、竜の伝承をも知る男…
「てっきり最上階で待ち構えていると思っていたんじゃがの」
「これは妙なことを言う。自分の城のどこにいても勝手だろう?」
そう言ってオオバは、テーブルに置いたカップを再び手に取り、残っていた飲み物を喉に流し込む。
敵対者であるメノウが目の前にいるというのに、この男は殺気も何も感じさせない。
この男が何を考えているのか、メノウには分からなかった。
「…お前さんに尋ねたいことがある。山ほどな」
「遠路はるばる来てまですることは尋ね事か。『人生』はもっと有意義に使うべきだと私は言いたいがね…」
「…話すのか、話さないのか。答えろ」
いつにも無く、真剣な顔つきで言うメノウ。
しかしそんなメノウを前にしても、オオバは一切動じることは無かった。
顔に笑みを浮かべつつも、その眼の奥は笑ってなどいない。
「話すさ。君が今、知りたいことなら何でもね…」
「何でも…」
「私は全てを知っている。キミのいた遺跡のことも、『何者なのか』もね…」
「…ッ!」
それを聞き、メノウの表情が厳しいものに変わる。
今までメノウは、自身の過去を誰にも話したことは無かった。
彼女にとってそれは、思い出したくも無い忌むべき過去。
「…ッ!?」
ショーナやカツミ、その他の誰にも語ったことは無い。
その誰にも語らなかった自身の過去を、この男は知っているというのか。
「メノウ、私もキミと同じ存在だよ」
「同じ…じゃと…?」
「ふふ。出来ればもっと話していたいが、そうはいかないようだ…」
オオバのその声と共に、城の壁が大きく崩れ始める。
巨大な『何か』が、城の外から壁に攻撃を加えたのだ。
突然の出来事に戸惑いつつも、攻撃をしたその者を確認するために外へと出るメノウ。
「なんじゃ、コイツは…?」
そこにいたのは、巨大な魔物の姿だった。
これまでにメノウが出会った魔物たちとも、既存の生物をモチーフとしたものとも違う。
全くの異形の姿をした『何か』だ。
「合成魔獣だよ」
メノウの前に現れた巨大な『合成魔獣』だ。
強いて言うならば、その姿は異国の幻獣『キマイラ』に少し似ている。
後脚と後翼は青龍型の魔物の物を、前脚と頭部は白虎型の魔物のものだ。
そして全身の装甲は玄武型の魔物、前脚の爪と前翼、頭部の装飾は朱雀型の魔物のものと同じ。
どの部位も、これまでメノウが出会ってきたの魔物のもの。
しかし、その全ての部位が以前戦ったの魔物のものよりも数倍はスケールアップされている。
「合成魔獣…じゃと…!?」
の魔物とは既存の生物が魔力により変化した存在。
そのため、必ず生物の姿をしているのだ。
しかし今目の前にいる合成魔獣はその枠組みに当てはまらない。
もはやこの異形の『合成魔獣』を魔物と呼んでいいのかすらわからない。
「魔獣は『遠き王』が生み出した存在、だが私はその王の力すら超越することが出来る!」
感想、誤字指摘、ブクマなどいただけると嬉しいです。
また、この小説が気になった方は応援していただけると嬉しいです!
今後もこの作品をよろしくお願いします。




