第五十八話 白き虎
採石場の死闘を勝ち抜いたのはメノウだった。
囚われのツッツを救い出すことに成功した。
戦いの影響で半壊状態となった採石場を後にし、その場から逃げるように立ち去る三人。
少し離れた位置にある道を歩きながら、これからのことを考える。
ツッツを救い出した今、彼女たちがこの地にいる必要も無い。
面倒事に巻き込まれる前に早々に立ち去るのが良いだろう。
「カツミ、お前さんはどうするのじゃ?」
「あたしか?」
「そうじゃ」
「約束しただろ、ずっと一緒にいてくれるって」
「ふふふ、そうじゃの」
「…なんか今の喋り方、あのうさんくさいヤツに似てるなぁ」
「そうかのぉ…?」
そんな会話を続けながら、街まで乗せて行ってくれそうな車を探す。
しかしここは荒野のど真ん中を通る一本の道路。
採石場の関係者以外はほとんど通らない。
来るときは人の多いナンバークォーツで探したため、商人の男をすぐに見つけることが出来た。
しかしこの状況で見つけるのは難しい。
結局、しばらく会話を続けながら歩くことになった。
「そう言えばツッツ、お前さんは捕まっている間、どうしていたのじゃ?」
大型肉食恐竜型の魔物を操っていた追跡者や、朱雀のザクラはツッツを『異能の力を持つ者たち』の素質があると言っていた。
もしそれが本当ならば、ここでツッツを手放すとはどうも思えない。
ツッツが捕まっている間、なにをしていたかを知ることができればなんらかの敵の意図が掴めるはずだ。
「それが…僕にもよくわからなくて…」
ツッツによると、病院のような施設で検査を受けた後は採石場に監禁されていたという。
その検査も特に変わったことはしていない。
それ以外は特に何かをされたわけでもなかった。
「アイツらの勘違いってことは考えられないか?きっと異能の力を持つ者たちと間違えて捕まえちまっただけさ」
「僕もそう思います、だって僕にそんな特別な力なんてないですし…」
「メノウもそう思うよな?」
カツミが言った。
確かにそうならば辻褄は一応あう。
メノウ達をこの地に呼んだのはツッツを引き取らせるため。
シェンとの戦いはただ単に彼自身の暴走。
そう解釈すればすべてが解決する。
だが、とてもそうとは考えられなかった。
それにメノウは先ほどのシェンとの戦いの最中でツッツの言葉を聞いていた。
『メノウさん、動かないで!』
あのツッツの叫びが無ければメノウは大怪我、最悪の場合死んでいたかもしれない。
カツミは少し離れた位置にいたため聞こえなかったのだろう。
ツッツ自身も咄嗟のことだったので覚えていないかもしれない。
もしくは無意識に出た言葉か…?
しかし、メノウははっきりと覚えている。
あの時の声の抑揚、発声までも正確に…
「メノウ?」
「お、おう。そうじゃな…」
ここでそれを言ってもかえって混乱と不安を与えるだけ。
このことはメノウ自身の胸の中にそっとしまっておくことにした。
「しかし、ワシはもう一つ気になることがある…」
メノウがが一つ気がかりなのは『東ザリィール四聖獣士』たちだ。
彼らはこの東ザリィールの軍閥長であるオオバに仕える戦士。
本来ならばメノウ達と交戦する理由なと無いはずだ。
だが、実際はそのうちの二人である『青龍』、『朱雀』と対峙した。
そのうちの『青龍』は敗れ、残る四聖獣士は『朱雀』と『白虎』、『玄武』の三人。
「東ザリィール四聖獣士か…」
「ツッツ、お前さんは何か知らんか?」
「すいません、僕は何も…」
ツッツが出会った四聖獣士は二人。
彼女を攫った『朱雀』のザクラと世話係だった『青龍』のシェン。
残る『白虎』と『玄武』とは会っていないらしい。
「四聖獣士が敵と言うことは…」
「この東ザリィールの軍閥長が異能の力を持つ者たちの攫っているということになるのぅ…」
「けど何のためにですか?」
「異能の力を持つ者たちは人知を超えた力を持つらしいからな、集めれば何だってできるだろうさ」
敵はこの東ザリィールそのもの。
東はこれまでメノウ達が旅をしてきた『南』、『西』とはまるで違う。
この地区はザリィール帝国で最も平和な地区だと言われている。
しかしそれは犯罪者を取り締まる強力な軍が存在しているからこそ。
そしてその上に立つ四聖獣士。
『最も平和な地区』とはつまり、『最強の地区』を意味する言葉でもある。
「それこそ異能の力を持つ者たちでも集めて国に対してクーデターでも起こそうとかしてるんじゃないか?」
「く、クーデター!?」
「あくまで予想だがな、あんな魔物なんてものも持ってるんだ。そんなことしても不思議では無いだろう」
カツミが言った。
もちろんこれはあくまで彼女の予想に過ぎない。
しかし、意外と身近な危機はすぐそこに迫っているものだ。
「クーデターかどうかは知らんが、客は居たみたいじゃな…」
メノウがそう言って道から少し離れた位置にある大岩を指さした。
荒野にはよくある、ただの大岩だ。
だがその傍には一人の男が立っていた。
この荒野には似合わぬ、白髪が鮮明に映える。
「少なくとも一般人ではなさそうだ…」
「そうじゃの」
その男はゆっくりとメノウ達の下へと歩いてきた。
何をする訳でもなく、たた歩くだけ。
そして三人の前に立つと軽く礼をした。
「…何者じゃ?」
「我が名は『ビャクオウ』、東ザリィール四聖獣士の『白虎』の属性を持つ者だ」
彼は三人目の四聖獣士『ビャクオウ』、白虎の属性を持つということは彼もまたの魔物を従えているのだろうか…?
四聖獣士の登場に動揺を隠せぬツッツ。
まさか自分を追ってここまで来たのか、そう思ったため、無意識のうちに後ずさりしてしまう。
「一体、何しに来た?」
「我が主君の命の元に、貴様らと戦いに来た」
「…メノウはそっきの戦いの傷が治ってない、戦うならこのあたしと戦うんだな」
カツミがメノウとツッツを守るように二人の前に立つ。
「もちろん最初からそのつもりだ。手負いの者と戦う趣味はない」
「へぇ、四聖獣士にもまともなヤツがいるのか」
「シェンやザクラか、あの二人が特に趣味が悪いだけだ」
「そうかい。で、どうする?いまからここで戦うのか?」
そう言うカツミに対し、ビャクオウは軽く首を振る。
そして懐に手を入れる。
一瞬警戒をするカツミ。
だが…
「決闘は明日、太陽が真上に来たその時だ」
「古風なやりかただな…」
その言葉をビャクオウへと送るカツミ。
その後ビャクオウは明日の戦いの決め事をいくつか提示した。
基本的には何でもアリの戦いだ。
そして…
「勝負は一対一。こちらは魔物を代わりに戦わせる。当然魔物の負けはこちらの敗北だ」
「ああ…」
「そちらは仲間からのアドバイスなどは許可しよう」
「わかった」
「では明日、この場所で待つ」
そうとだけ言うと彼は先ほどの大岩の元へと戻って行った。
カツミと四聖獣士ビャクオウの戦いが始まる…
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