第五十四話 東のザリィール
人斬りの剣客、汐之ミサキとの戦いから数日が過ぎた。
南ザリィールを後にしたメノウ達。
彼女たちを乗せた列車は特に事件も無く走り続け、目的地へとたどり着いた。
それはザリィール帝国の東地区に存在する。
メノウとカツミは攫われたツッツを救うためこの『東ザリィール』へとやってきた。
「長かったが、ついに到着したのぉ~」
「やっぱり地面に足がついてるっていいものだよなぁ」
列車から降り、駅から出たメノウとカツミが言った。
二人は途中で立ち寄った南ザリィールで所持品を整えていたようだ。
最初にこの列車に乗った時よりも荷物が増している。
「よく考えたらこっちで買いそろえた方が楽だったよなぁ…」
「でも服は買い替えたのじゃろう?」
「まぁ、あれは結構長く着てた服だったしな…」
彼女は南ザリィールで服も買い換えたため、以前のスタイルから東洋風の布主体の服装へと変わっていた。
元々カツミは軍の払下げ品を着ていたが、バックレーの一味やミサキとの戦いで破損。
南ザリィールに立ち寄った際にアズサの提案で買い換えることになったのだった。
「メノウは大体いつも通りだな」
「まぁ、特に変わることも無いしのぅ…」
メノウが、南ザリィールで揃えたのはストールと新しいバンテージのみ。
そして列車内で金持ちの婦人から貰った純金製と純銀製のバングルを左腕に付けている。
バックレーの一味とミサキの討伐の功績を称える意味もあるという。
「それにしても、東ザリィールって随分発展してるんだな…」
「確かこの街は…『ナンバークォーツ』とか言ったかのぅ…」
駅前から広がる景色を見回す二人。
この東ザリィール最大の街、『ナンバークォーツ』は非常に発展した街だ。
道は常に人であふれ、往来をしている。
南ザリィールのシークマントや、西ザリィールのリーキュアも比較的大きな街だった。
だが、それとはまた違った感じの印象を受ける。
恐らく、王都を除けばザリィール帝国で一番の大都市と言えるだろう。
「歩いてる人間もどこか違って見えるな…」
そう言って辺りを見まわすカツミ。
もちろんこれは彼女の錯覚でしかないのだが、そう思わせるほどこの地区は変わっている。
とりあえず今後のことを考えるため歩きながら作戦を練る。
以前、朱雀のザクラから渡された手紙には『ミツヤ採石場』へと来るよう指示が書かれていた。
そこに行けば攫われたツッツに会えるということだろうか…?
「どう思うメノウ?一応この地は奴らのホームグラウンド、警戒するに越したことは無いが…」
「ワシも本当ならば一刻でも早く助けに行きたいが…」
カツミの言うとおり、この地は四聖獣士たちに有利な地。
そしてメノウ達はこの土地を何も知らない。
どのような者がこの地を治めているのか、そのような基本的なことさえ知らないのだ。
「しかし、今はこの採石場とやらに行ってみるしかないじゃろう…」
「やはりそれしかない…か…」
少なくとも、あの手紙には「~までに来い」などと言う期限などは特に書かれてはいなかった。
わざわざメノウ達を誘ったりしている以上、少なくともツッツを殺したりはしないはずだ。
…これはあくまで常識の範囲内での考えだが。
「ま、道を聞きながらでもしていくしかないな。あたし達、道も知らないし」
「そうじゃな」
そういいつつ、ミツヤ採石場へ向かうため、道を教えてくれる者を探すことにした二人。
幸いなことに探し始めて十分ほどで見つかった。
とある商人がちょうどその辺りを通るらしく、同行させてもらうことにした。
「よろしく」
「ああ」
歳は四十後半、少し白髪交じりの髪の男が言った。
他にも教えてくれそうな者は何人かいた。
しかし他の者達はどうも不純な目的で彼女たちを乗せようとしているようだった。
年頃の少女の二人旅となれば、そう言うこともあるだろう。
「あまり散らかすなよ」
彼に頼んだのは、そう言った考えを持っていなかったからだった。
少し無愛想だが、悪人ではなさそうだ。
「お前らどこから来たんだ、北ザリィールか?それとも南か?」
「ワシは南ザリィールからじゃな」
「あたしは西だ、生まれはこの東だけどな」
「ほぅ、生まれはどこだ?」
商人の男がカツミに尋ねた。
彼にとっては何気ない一言だったのだろうが、カツミにとって故郷の話はあまり触れてほしくないことだった。
「それは…」
「…あまりきかないでやってくれぬか?」
「…何か訳ありみたいだな」
少々ギスギスした雰囲気が漂っている。
これはマズイと思ったメノウが慌てて何か話題を替えようと思考を張り巡らせる。
しかしこんな時に限って何も思い浮かばない。
いつもはどうでもいいことばかり思い浮かぶのだが…
「そ、そういえばこの地区の軍閥長はどんなヤツなんじゃ?
「ああ、オオバさんか。いい人だよ、彼は」
商人の男が言った。
彼が言うには、オオバと言う男は住民の暮らしを第一に考える軍閥長だという。
ライフラインを整備し環境を整えた。
東ザリィールの民からの人気も高いらしい。
メノウが今までの旅で知った軍閥長は碌でも無い者達ばかりだったが、この男は話を聞く限りでは違う。しかし…
「いい人ではあるんだけど…」
いい人ではあるが、それ故にいまいち受動的な面も目立つという。
仕事はできるが指導者には向かない。
そう評価する人も居るという。
東ザリィールの景気がいまいちよくないという点を指し、オオバを無能という者もいるという。
「悪い人では無いんだけどね」
もし別の優れた人物が軍閥長に名乗りを上げたら、オオバは続投できない。
そうも言われている。
他の地区の軍閥長と比べると、良くも悪くも『普通の人物』というところだろうか…?
「ふーん…」
「そんなものなんじゃな…」
メノウとカツミはそう言った。
話だけを聞くと、四聖獣士を使って悪事を働く者には思えない。
ミツヤ採石場につくにはしばらく時間がかかる。
それまで、いろいろと考えを膨らませることにした…
-------------------
一方、東ザリィール某所とある建造物の一室。
この部屋に攫われたツッツは囚われていた。
被っていたキャスケット帽はザクラに蹴り飛ばされたため無くなっている。
「メノウさん…」
ツッツがうわ言のように呟く。
攫われてから数週間が経っているが、あの日からツッツは一度も外に出ていない。
しかし、だからと言って漏刻のようなところに閉じ込められているわけでもない。
彼女が閉じ込められているのは、牢屋のような場所では無い。
その部屋も高級な家具や調度品が揃えられた、一見すると高級宿かとも思えるような部屋だ。
「ツッツちゃーん、食事持ってきたよー」
食事の時間らしく、その声と共に部屋に一人の少年が入ってきた。
それは以前、メノウと交戦した東ザリィール四聖獣士の一人である青龍のシェン。
似た年頃だからと言う理由だけで、ツッツの世話係を任されたらしい。
確かに二人は同じ十二歳、しかしだからと言って話が弾むわけでもない。
「…」
「なんか喋ってよ~」
「やだ」
「ねぇったら」
「死ね」
「ごはん毎日持ってきてるでしょ?何か話そうよ」
「まぁ、それは別だから…」
部屋の中央にある大きなテーブルの席に座り、シェンの持ってきた食事を食べるツッツ。
さりげなくシェンは自分の分の食事も持ってきたらしく、向かい合って食べることになった。
「おいしいでしょ?」
「うん…まぁ…」
こう答えるツッツだが、シェンの言うとおり確かにここで出される食事は美味しい。
上等な食材、腕利きの料理人が作った料理。
しかも、ツッツが西ザリィールの辺境の地の出身であることを考慮しメニューを立てている。
その地で使われている香草や料理法を使っている。
「(そう言えば、ここに来るまではお肉なんてずっと食べて無かったなぁ…)」
そう思いながら、皿に盛られた鳥の岩塩焼きを見るツッツ。
それと共に、ツッツは毎回思うある疑問をシェンにぶつける。
なぜ自分はこの東ザリィールに拉致されたのか?
それが疑問だった。
「なんで僕をつれさったのさ?」
「え?いつもいってるでしょ、君が『異能の力を持つ者たち』の素質があるからだって…」
「そんなの知らないよ!」
ツッツは今まで自分が特別だと思ったことなど一度も無い。
自分にそのような素質があるなど到底思えなかった。
「気付いて無いだけだって、もし能力に目覚めれば世界かガラリと変わるよ?」
「知らない!」
「いい加減心開いてよ、楽しくないよ?」
「無理矢理攫ってきておいて何言ってんだよ!」
そう叫びながらツッツがテーブルを飛び越えシェンに殴りかかる。
食事を続けているシェンだがそれを軽く見切り、ツッツの攻撃を避ける。
やはり特殊な戦闘訓練を受けたシェンと、一般人の少女であるツッツではやはり動きに差が出てしまう。
ツッツはそのまま床に体を打ちつけてしまった。
「痛つつっ」
「あんまり生意気なことされても困るんだよね…」
「い、一体何を…?」
「少し眠ってろよ!」
「ヴェッ…!」
ツッツの腹に強烈な蹴りの一撃を入れるシェン。
突然の出来事に対応も出来ず、あまりの激痛にその場に蹲るツッツ。
やがて意識を保つことが出来なくなった彼女は、気を失ってしまった。
「…ちょっと乱暴しちゃったけど、まぁいいよね」
感想、誤字指摘、ブクマなどいただけると嬉しいです。
また、この小説が気になった方は広告下にある☆☆☆☆☆で応援していただけると嬉しいです!
今後もこの作品をよろしくお願いします。




