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最高級の最下級少女  作者: 剣竜
第三章 東方の悪戯狐
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第五十三話 新たなる旅路への扉

「…うわッ!」


 その叫び声と共にカツミは目を覚ました。

 ミサキとの戦いで意識が朦朧としていた彼女は、その戦いのあとしばらくして傍に倒れこんでしまっていたのだった。

 、

「…ここは?」


 気付くと彼女は見知らぬ部屋で寝かされていた。

 六畳ほどの狭い部屋に敷かれた布団の上に、だ。

 ふと自分の身体を見てみる。

 服は脱がされほぼ全裸に近い状態だった。

 胸と頭、左腕に包帯を巻かれている。


「ん…?」


 しかし皮膚の違和感に気付き、包帯をめくり確認する。

 戦いの最中でもハッキリと感じた火傷の痛み。

 だが、今では不思議と戦いでできた火傷や傷は全て綺麗に消えていた。

 肌を触って確かめてみるも、傷の跡などは確認できなかった。


「みんなは…?どこだ」


 軽く近くを見回すカツミ。

 部屋の隅には机が置かれ、メノウとノザキが突っ伏して寝ていた。

 窓からは燦々と輝く日が差し込んでいる。

 この日の高さからすると時刻は昼前と言ったところだろうか。


「あ、起きた?カツミちゃん」


 そう言ってカツミの前に現れたのは、居酒屋の裏方として働いている忍びの少女アズサだった。

 友人であるメノウの頼みでこの部屋を貸していたというわけだ。

 メノウ、ノザキ、アズサの三人で交代でカツミの看病していたのだが二人は先に寝てしまったのだという。


「あぁ~…アズサ…か…」


 寝起きで意識が若干混濁している。

 ぬれたタオルで顔を拭き、やっと意識がはっきりとして来た。


「この部屋は私の部屋ってわけ!」


「布団も貸してくれたのか、ありがとうな」


「礼ならそこの二人に言ってあげて」


 メノウはあの戦いの後、付きっ切りでカツミに治癒魔法をかけ続けていたらしい。

 ノザキは気絶したカツミをここまで抱え、その後の買い出しなどもしていた。

 緊張の糸を張りつめていた戦いの後にさらにそのようなことをしていたのだ。


「そうか…感謝するよ、二人とも」


 その後、彼女から事情を聴くことにしたカツミ。

 ミサキはイトウに連行され逮捕となった。

 恐らくザリィールの刑務所へと送られるとのことだ。

 また、あの戦いの現場は憲兵隊が調査をしているらしい。


「ヤクモのヤツはどうなった?」


「ヤクモ…?あの元四重臣の?」


「ああ、ミサキの攻撃を受けて地面に埋まったんだか…」


「どういう状況よそれ…」


 アズサの話によると、あの場からヤクモは発見されなかったという。

 自力で逃げ出したか、死体もミサキの炎により完全に燃え尽きてしまったか…?

 証拠も全く残されておらず、消息不明の状態だという。


「そうか…」


「多分逃げ出したんじゃないの?」


「だといいが…」


「それよりお腹減ってない?一応食べ物を用意してあるけど…」


「ああ、貰おうかな。悪いな、いろいろ手間かけさせて…」


 アズサは調理場から鍋を一つ持ってきた。

 中に入っているのは、このシークマントの周囲でとれた贖罪の数々。

 アズサが住み込みで働いている酒場で賄いとして食べられている料理をそのまま持ってきたのだ。


「料理には使えない切れ端の魚とか、小さな細切れ野菜しか入って無いけどね。大したものじゃないよ」


「いや、うまいよ」


 アズサの料理の腕がいいのか、素材がいいのか。

 あるいはその両方か?

 とにかくこの鍋が美味かった。

 空腹は最高の調味料とも言うが、それを抜いても上手い。


「結局、ミサキが何のために人斬りをしてたのかもわからなかったなぁ…」


「え、そうなの?」


「ああ、何か人を探してたとか言ってたが…わからんな」


「ふーん、意味わかんない」


「おう。…あ、そう言えば、あそこに置いてきたあたしの荷物はあるか?」


 ミサキとの戦いの場所にカツミが置き忘れてきた旅の荷物。

 戦いの前に置いたままになっており結局回収できなかったのだ。

 もしかしたらミサキの炎で燃えてしまったのではないか、と頭の中に考えがよぎった。


「このずた袋かな?」


「そうそう、それだ!」


 ずた袋を手渡され喜ぶカツミ。

 これは彼女が今まで使用していた旅の道具などが納められている。

 思い入れも強いのだろう。


「袋はいいけど、貴女の服ボロボロでもう着れないよ」


「…え?」


 アズサがカツミの着ていた服を持ってきた。

 ミサキの斬撃と炎で所々引き裂きもやされ、とても着れる状態では無い。

 以前の西ザリィールでのヤーツァ・バックレーとの戦いの際も肩当てを一部破損するなどしてはいた。

 それでも破損した部分を別の布などで補強し着用していたのだ。

 しかし、これではさすがに着ることはできない。


「何か新しい服、買ってきた方がいいよ、服なら貸すからさ」


「…そうだな、金は袋の中にあるしな。ついでにいろいろ買ってくるか」


 そう言うと、カツミはアズサの服を借り部屋を後にした。

 一応そこそこの金額を持っているので買えないということは無いだろう。

 カツミを見送ったアズサは残った鍋を食べ、メノウ達の分の食材の準備を始めた。


 そして…


 カツミが新しい服を買うために出かけてから少し時間が経ち、メノウも目覚めた。

 ミサキとの戦いでギプスが壊れたため今は軽く包帯を巻いているのみだ。

 その料理の匂いを嗅ぎつけたのか、辺りを軽く見まわす。

 大きくあくびをしながらのけぞり、キューっと変な声を上げる。


「何かいい匂いがすると思ったら…」


「あ、メノウちゃんも起きたの?カツミちゃんなら買い物に行ったよ」


 そう言って先ほどまでの経緯を説明するアズサ。

 あの様子だと服以外にもいろいろと買ってくるだろう、そこそこ時間もかかりそうだともついでに言った。


「食べる?」


「鍋?」


「そうだよ」


「じゃあ、貰おうかの…うぅ^~」


 そう言って身体を伸ばしながらアズサからお椀を受け取る。

 昨日から何も食べていなかったため、食事が進む。


「あーうま、うまいうまい」


「ノザキさんは食べないのかな?」


「どれ、起こしてみるかのぅ」


 そう言ってメノウがノザキも起こそうとする。

 しかし揺すったり、軽くたたいたりしてみても彼は起きなかった。

 よほど疲れていたのだろう、声を立てて寝ていた。


「起きないものはしょうがないか。まだまだあるからね」


「あーい」


 そう言ってさらに箸を進めるメノウ。

 と、そこに買い物を終えたカツミが戻ってきた。


「ただいまー」


 そう言ってアズサから借りた服の入った袋を手渡すカツミ、どうやら買った服をそのまま着てきたようた。

 以前とは異なり上着は動きやすい形状の物に、腰布も付けた。

 バッタリー一味と戦いで壊れた肩当ても、軽量で丈夫なタイプの物を買い直した。

 そしてミサキとの戦いの反省を生かしレザーグローブやガントレット、レガースなどの防具も増やした。

 ミサキとの戦い、いや今までの戦いでは露出した肌の部分に傷を負うことが多かった。

 これでそれも防ぐことが出来るだろう。


「お、結構変わったのう」


「へへ、まぁな」


 今のカツミの印象ががらりと変わって見える。

 東方大陸の民族衣装を基調とした、落ち着いたデザインの服装だ。


「今後の旅のための買い出しとかもついでにしてきたぞ」


 そう言って大きめのカバンから保存食などを取り出すカツミ。

 これでしばらくは安心だ。


「…ワシもちょっと出かけてくるわ」


「メノウも買い出しか?」


「ああ、それにちょっと行きたい場所もあるしのぅ…」



 -------------------



 その翌日の午前十時、ついにこの南ザリィールを旅立つ時が来た。

 時間にすると僅か五日間だが、その間には非常に濃い時が流れていた。

 紅の一派との戦い、人斬り狐ミサキとの死闘…


「南ザリィール…久しぶりじゃったのぉ…」


 列車が出発する駅の前から景色を眺めながら、メノウが小声で言った。

 結局、彼女が昨日買ったのはストールと新しいバンテージのみだけだった。

 右腕にバンテージ、首にストールを巻いた以外は普段通りだ。


「また来てね、メノウちゃん!カツミちゃん!」


「おう」


 見送りにはアズサとマーク将軍が来ていた。

 マークはスケジュールを調整し何とかこの見送りの時間を割いたらしい。


「ありがとう、君達には何度感謝しても足りないくらいだ」


「こうほめられるってのも…悪くはないな」


「じゃろ?」


「それよりアゲートのことだが…」


 そういう二人を軽く制止し、マークが話を続ける。

 メノウの申し出により、アゲートはこの南ザリィールの地に残していくことになった。

 これからの戦いはより激しくなることが予測される。

 目的地である東ザリィールは敵の本拠地でもあるのだ。

 出来れば連れて行きたいが、やはりアゲートを巻き込むわけにはいかない。


「アゲートは元々、南ザリィールの馬じゃ。それにここならショーナとも会えるじゃろう…」


 そう言い終えるとほぼ同時に、出発を告げる汽笛の音が鳴った。

 もう時間は無いようだ。


「あ、やべ!時間だ!」


「それじゃ、まったのー!」


 その声と共に駅の中に消えていく二人。

 それを見守るアズサとマーク。


「行ってしまいましたね…将軍…」


「ああ」


「そう言えば一つ、気になることがあるんですけど…」


 ミサキは何故人斬りを繰り返していたのか?

 彼女の探していた『最強の男』とは一体誰をさしていたのか…?

 アズサはそれが気になっていたのだ。

 だが、彼女はその正体に薄々気付いていた。


「もしかして人斬りが探していた男って…!」


「恐らく、『あの男』だろうな…」


 かつて南ザリィール最強と言われた黒い騎士。

 ミサキが探していたのは『黒騎士ガイヤ』。

 既に死んでいる男の幻影をミサキは追っていたのだ…


感想、誤字指摘、ブクマなどいただけると嬉しいです。

また、この小説が気になった方は応援していただけると嬉しいです!

今後もこの作品をよろしくお願いします。

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