第五十一話 倒せ、汐之ミサキ!
メノウ達が達がこのシークマントに訪れてから既に三日。
あの張り紙と新聞記事のおかげか人斬りによる被害者は出なかった。
新聞の方には『人斬りを続けるならば最強の男は現れない』といった趣旨の文も掲載しておいた。
これがミサキに影響を与えたのだろう。
それに彼女としても、これ以上の人斬りは意味が無いと判断したのだろう…
そして三日目の深夜。
満月の輝きがシークマントの都を照らす。
ミサキを呼び寄せるため、約束の地にてカツミは一人その場に佇んでいた。
周囲は何もない更地、障害物も何もない戦うにはもってこいの場所だ。
さらに地下にはヤクモが待機している。
ミサキとカツミの戦いが始まった瞬間、彼がとびだしカツミの戦闘をサポートする。
「(がんばれ…がんばれカツミ…)」
さらに離れた位置にメノウとノザキ、サトウが待機している。
メノウは魔法による後方支援、そして万が一の時に備えての憲兵隊の二人。
他の憲兵隊の隊員などはこの場には呼んでいない。
もしヤクモとカツミが敗れ、メノウ、ノザキとサトウの三人の布陣を突破されてしまえば一般の隊員では捕まえるのは不可能。
「もし『最強の男』がこの場にいないとヤツが知り、この場から逃してしまえば…」
「ミサキは再び人斬りを繰り返すじゃろうな…」
「ああ。つまりこの場でヤツを倒し逮捕するしかない」
この機会を逃せば、まず間違いなくミサキは憲兵隊の前に姿を現さなくなる。
彼女の用心深い性格からすれば、それは容易に想像できる。
そうなれば人斬りを止める手段は無くなってしまう…
「…そういえばメノウさん、その右腕の包帯は?」
メノウの右腕に巻かれた包帯を見たノザキが不思議そうに言った。
以前はただ巻いてあっただけだったが、今は包帯で腕を巻き固定してあった。
一見すると普通の骨折のようにも見える。
「治りが早くなるように薬と塗り薬をして、金属板を添えてあるのじゃ」
「なるほど…」
「こうして動かさないよう固めておけば、少しは治るのが早くなるからのぅ…」
メノウたちの言葉をよそに、待機しているカツミとヤクモは妙に落ち着いた雰囲気をしている。
その場に座り込み、精神と感覚を研ぎ澄ましミサキが訪れるのをただひたすら待つカツミ。
「カツミさん、戦いの前にひとつ戦法のおさらいをしておきましょう」
「ああ、まずあたしかミサキを牽制し僅かな隙を作る。…だろ?」
「はい、そして…」
カツミによって作り出されたミサキの隙、その瞬間にヤクモが地上に飛び出しカツミと共に戦う。
この地は遮蔽物の一切無い更地、二人で戦えば確実に一人はミサキの死角に回り込める。
暗炎剣に純粋なパワーで勝つのは不可能だ。
ゆえに、カツミとヤクモの二人はそれぞれの攻撃力ではなく、とにかくスピードによる手数の多さで勝負に出る。
ヤクモには縮地の技もある、速さならば遅れは取らないはずだ。
「一応、私も元南ザリィール四重臣の一人。遅れは取りませんよ」
「ああ、期待してるぜ」
「貴女の極東の拳の力も、ね…」
そう会話を続ける間にも、時刻は刻一刻と過ぎていく。
辺りには段々緊張が走り、空気が少しずつ重くなっていくのを感じる。
「そろそろ時間だな…」
カツミの言葉と共に、夜の闇の中からこの地に一人の少女が現れた。
満月の光に照らされながら歩くその少女。
律儀にもカツミの視線の先から現れるというおまけつきだ。
この時間に全く関係のない人物がこの場に現れるはずもない。
そして、彼女の持つ殺気。
…間違いない、ヤツが『東方の悪戯狐』汐之ミサキだ。
ゆっくりと、しかし確実にこちらへと歩み寄ってくる。
一見隙だらけのようにも見えるが、実際はそうではない。
例え攻撃を受けたとしてもすぐに受け流し、戦闘態勢をとれるようにしている。
背中にある布の巻かれた暗炎剣、その布の一端が彼女の手には握られている。
攻撃を受けた瞬間、その布を引き抜き剣での攻撃に移れるのだ。
「来たか、人斬り狐」
目の前にまでやってきたミサキに対し、カツミが言った。
しかし当のミサキ本人は…
「あれ~おかしいねぇ~?最強の男がいるって聞いて来たんだけとねぇ…」
「そいつはあたしが流した嘘だ。人斬りのお前を倒して英雄になろうと思ってな…」
もちろん、カツミの言ったこの言葉は嘘だ。
もし、本当のことを言えば警戒心が高まってしまうだろう。
カツミ一人しかいないと最初から思わせておけば、ヤクモが戦闘に乱入した際にうまく不意をつける。
そう考えての作戦だ。
「決闘はこの松明を投げ、地面に落ちたその瞬間だ」
「古風なやり方だね」
「嫌なのか?」
「わかったわかった。好きにしていいよ」
「チッ…生意気なヤツ…!」
「まぁ、しょうがない。騙されたものは仕方が無いか」
ミサキは意外とポジティブな性格らしく嘘を付かれたことに対し、気にも留めてはいないようだった。
こればかりは意外だったため、内心驚くカツミ。
そんなことは気にも留めず、ミサキは辺りを軽く見まわす。
「へぇ~、つまりこの場にはお前一人しかいないってこと?」
「ああ。このあたし、カツミしかこの場には…」
「ふ~ん…そうなの…」
そう言うとミサキは布に包まれた暗炎剣を背中から手に持ち替えた。
剣を抜き攻撃を仕掛けてくるか…?
そう思い攻撃態勢に移ろうとするカツミ。
しかしどうやら違うようだった…
「何を…!?」
「嘘はいけないよ、嘘は」
「ッ…!」
「邪魔者は消しておかないとねぇ!」
そう言うと、ミサキは剣を引き抜き地面に向かって力を込め勢いよく振りかざした。
それと同時に大地は裂けた。
彼女は地下にヤクモが潜んでいたことを見抜いていたのだ。
人工のレプリカとはいえ、その力は並みの剣を遥かに超える。
この程度のことなど造作も無いことだ。
「地下に誰かいたみたいだったから、始末しておいたよ」
「…チィッ!」
その行動を宣戦布告と取ったカツミは、あらかじめ決めていた松明を無視しミサキに襲い掛かった。
戦いが始まるまで本来ならばまだ時間があった。
しかし、そんな約束を守っていては勝てない。
そう思っての不意打ちだった。
松明をミサキに投げつけるカツミ。
「時間までまだ時間あるだろうに…」
「知らん!このあたしの拳の前に沈め!ビャッ!」
ミサキの斬撃に注意を払いつつ、正面からの攻撃を繰り出すカツミ。
手刀から放たれる無数の真空斬撃波でミサキを攻めるが、暗炎剣の一振りですべてがかき消される。
刀身が紅く輝くと同時に生み出された炎によりカツミの衝撃波は全て無に帰した。
暗炎剣はその名の通り『炎』を操る力を持つ剣。
人斬りの際には使用されなかった能力だが、ここにきて初披露となった。
「なんだよ、悪趣味な手品か何かか…!?」
「暗炎剣にはこれくらいのことはできるのだ!」
「冗談じゃない!」
当初の作戦では手数の多さで勝負をしかけるとのことだったが、これを見てカツミは確信した。
「(この戦術じゃあ勝てねぇな…)」
ヤクモの援護が無くなった今、頼れるのは自分の力とメノウの援護魔法のみ。
彼の援護が無ければ手数の多さでの勝負はし辛い、となればカツミの持つ極東の拳による致命の一撃を与えるしかない。
しかし、当初のカツミの想定よりもこの少女は『強い』のだ。
「(戦法を切り替える…?だけど…?)」
カツミが致命の一撃を与えるためには彼女の攻撃射程内に入ることが前提となる。
だがミサキは違う。
カツミの攻撃射程外からの炎による遠距離攻撃が可能なのだ。
「次はこっちの番だな!」
そう言って剣を振り、刀身を再び紅く染める。
熱を帯びた剣はその場を不気味に照らし出す。
「ほらほらほらほら!」
「この魔法は…!」
「幻狐流剣術奥義『炎舞折朱』!!」
炎で形成された魔物。
その大きな口を開き、勢いよくカツミを包み込もうとしている。
それを見たミサキが叫ぶ。
「あの火力でアイツが燃え尽きれば私の勝ちだよ!」
それまでの技とは明らかに違う大技。
普段ならば周囲への影響を考え、使うことは無い。
しかしここは何もない更地。
周囲に燃え広がることは無い。
「この技は…!?まさか…!」
「受けろ!そのまま燃え尽きちゃえ!」
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