第五十話 剣客包囲網
メノウ達がこのシークマントに訪れてから既に二日が経った。
人斬りによる被害者は増え続ける一方だった。
しかし憲兵隊の資料、そしてサトウとヤクモからの情報により犯人は東方大陸からの流浪者『汐之ミサキ』ということが判明。
名声を求める彼女をおびき寄せるため、メノウ達は『ある策』を決行した…
シークマントの中心街から少し離れた場所にある大型市場。
この南ザリィールで一番の規模を誇る市場であり、シークマントの住人たちの憩いの場ともなっている場所だ。
多数の専門店、アミューズメントからなる市場。
その地に彼女はいた。
シークマントの平和を脅かす『東方の悪戯狐』の異名を持つ剣士、『汐之ミサキ』が。
背中には鞘に納め、布で巻いた暗炎剣も確認できる。
一目見ただけでは剣とは分からないようカモフラージュされている。
ここで再び人斬りを行うのだろうか…?
「う~ん、なに食べようかなー?」
…どうやら違ったようだ。
食事をとるため、この屋台街に来ていたのだろう。
数多くある店を見て回るミサキ。
と、そんな中、ミサキはある張り紙を見つけた。
そこには…
『人斬りに告ぐ。明後日の午前零時、南ザリィール最強の男が待つ。』
最強の男が待つ。
たったそれだけの文字が書かれた紙。
筆と墨で書かれた力強い文字。
そしてその下には簡素な地図。
しかし、その放送はミサキを動かすには十分すぎる内容であった。
「南ザリィール最強の男…!」
その男こそ、彼女が探し求めていた男かもしれない。
この一連の人斬り事件も、そいつを誘い出し、倒すことで名を上げるという計画の一部分にすぎないのだから…
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それとほぼ同時刻、憲兵隊の一番隊屯所。
メノウとカツミ、ヤクモ、ノザキ、そして隊長のサトウが屯所の集会場に集まっている。
今回の作戦の原案を出したのはメノウ、そして実行に移したのはサトウだった。
「明日の新聞にも載せるよう依頼してある。もし人斬りがシークマントにいるのなら確実に耳に入るはずだ」
「一応、検問には怪しい人物は引っかかっていませんから、まだこの街にいると思います」
サトウとノザキが言った。
さすがに新聞記事と言うメディアを利用した行為はメノウ達だけでは不可能。
マーク将軍に頼み込むという手もあったが、それでは彼が各方面に手を回すこととなり時間がかかりすぎる。
素早く行動に移すならば憲兵隊の権力を利用した方が早い、そう考えたのだ。
「ワシはこう、高台からビラをばら撒くというのを想像していたんじゃがのぅ…」
「ふふふそうですね。しかしそれはベストな選択とは言えないです」
メノウ自身が最初に考えたのはビラを撒くと言うものだった。
しかしそれではどうしても偏りが発生してしまい、ミサキの耳に入らないかもしれない。
また、シークマント中にばら撒くほど大量のビラを用意するのにはどうしても時間がかかってしまう。
憲兵隊や、ヤクモとしては出来る限りメノウがこのシークマントにいる間に人斬り事件を解決して欲しい。
もちろんそのために彼女たちに無理強いをするわけではない。
だが、それをかなえるためにはどうしても時間との戦いになってしまう。
時間がかかる、あるいは不確定要素が大きく絡む作戦はベストとは言えない。
「それで、おびき寄せた後はどうするんだ?」
サトウが言った。
彼は言われたまま放送と新聞の手配をしただけなので、呼び出した後の作戦の内容を知らない。
その作戦内容について書かれた紙を開き、それと共にノザキが語った。
「まずはカツミさんがミサキを待ちます」
「最強の『男』ではねーけどなー」
カツミが待つ場所は最近開発計画が立ち上がった地区。
そのため現在は一面に更地が広がるのみで障害物などは何もない。
正面から戦うのならばもってこいの場所だ。
「もちろん、実際は一人じゃありません。地下にヤクモさんが隠れます」
戦いが始まる瞬間に地下からヤクモが飛び出し、二体一に持ち込む。
実力者であるヤクモとカツミが二人で戦えばまず負けは無いだろう。
現在負傷中のメノウは魔法による後方支援兼回復担当だ。
「本当はメノウさんにも戦闘に参加して欲しかったのですが…」
さすがに負傷中のメノウを戦闘に出すわけにはいかない。
彼女を後方支援に回したのはカツミとヤクモの案だ。
ほぼ完治しかけているとはいえ、彼女の腕は未だ完全な状態とは言えない。
さらに言うなら、すでにヤクモとカツミだけでも戦力は十分と言える。
ここにあえてメノウを加えるというのは、いささか過剰戦力ともいえる。
それに、彼女の場合魔法だけでも十分戦闘を有利に進めることが出来るだろう。
「ワシは別に大丈ぶ…」
「神経がズタズタに引き裂かれているのを普通は大丈夫とは言わないぞ」
「じゃが…」
「あたし達に任せろって!」
以前とのシェンとの戦いでメノウの右腕はかなりの深手を負っている。
メノウの強力な自己回復能力により何とか動いてはいるが、普通ならば一生利き腕が使えなくなるほどの傷を受けているのだ。
本来ならば戦いは避けるべきなのだが、彼女は戦うと言い張った。
カツミ達だけを戦わせ自分だけ安全地帯から魔法で後方支援というのはどうも気が引けるらしい。
しかし、後の東ザリィールでの戦いを考慮するとここで無理に戦わせるにはいかない。
「…わかった。今回はカツミに任せる。頼りにしてるぞぃ」
「ああ、必ずヤツを倒してやる」
「がんばりましょうね」
「…なぁ、ヤクモ。一つ質問があるんだがいいか?」
「何の質問ですか?」
カツミの問い、それは『最強の男』というもの。
それはいったい誰なのかということだった。
カツミはこの言葉に何か意味があるのかと思ったのだが…
「…特に意味はありませんよ。ああ言えば名声欲しさに釣られるのではないかと思っただけです」
「なんだよそれ」
ヤクモは軽く流したが、メノウは彼の言った『最強の男』を知っている。
それは…
「(黒騎士ガイヤ…)」
そう、かつてこの南ザリィール四重臣として戦っていた男。
そして南ザリィール最強の男。
黒騎士ガイヤこと『ガイヤ・スパ―ヴル』、その彼だ。
東方大陸の鍛冶師が伝説のディオンハルコス合金を元に生み出した剣。
邪剣『六夜王権』を操る男。
「(忘れるわけが無い)」
その美しい見た目からは想像できないほどの凶器を秘めたその剣。
このような禍々しい剣は見たことが無い。
それの持つ業に圧倒され、無意識のうちに数歩後ずさりしてしまうほど。
「(だが、あの男は…)」
だが、彼はもうこの世にはいない。
かつての戦いでその身を自ら砕いた。
だが、その事実は殆どの者が知らない。
あの時、あの場所にいた者たちしか。
「そういうことか…」
メノウはそれ以上は何も言わなかった。
いや、それ以上何も言えなかった。
今の彼女はただ状況に身を任せる。
ただそれだけだった。
傷ついた自身の腕を見ながら…
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