第四話 呼ばれたからには行くしかない!
数日前の戦いでザリィールの兵隊たちを倒したショーナとメノウの二人。
二人は、虐げられていた農民の老人から礼を聞き、別れを告げると足早にその場を後にした。
この地にいては、先ほどの兵隊の援軍がやってきて闘いになるかもしれない。
そうなれば農民たちにも迷惑がかかるからだ。
「あやつら、また襲ってくると思ったが来なかったのぉ…」
「ああ。あれから数日経ったけど何の音沙汰も無いな…」
「すこし不気味じゃのう…」
この数日間、兵隊共も結局襲っては来なかった。
南の地区内を旅しながら進む二人。
特に代わり映えのしない日々だったがそんな中で一つだけ変わったことがあった。
それは…
「お前さんもそう思うか?アゲート?」
メノウが言った。
以前馬賊から奪った馬に、彼女が『アゲート』と名づけたのだ。
いつまでも『馬』とだけ呼んでいては可哀想だ、とメノウとショーナの二人の間で意見が一致したらしい。
体を震わせ、アゲートが頷く。
「おお、そうかそうか」
「アゲートのやつ、お前にばっか懐くなぁ…」
「ワシは動物の扱いは得意じゃからのぅ」
「へぇ…」
「いつかお主にも懐くようになる。こういうのは『時間』が大事じゃ」
「そうかなぁ」
初めてであった時、既にメノウは森の中での生活が長いように感じた
どれだけの期間かはわからないが、その間に動物と心を通わせるすべを身に着けたのだろう。
「それにしてもお主、ずいぶんと長い髪じゃなぁ」
「切るの面倒なんだよ」
ショーナの腰まで届きそうなほどの髪を見ながらメノウが言った。
髪がボサボサにならぬよう、布の紐で纏めてあるもののそれでも長く見える。
まだ幼い年齢ということもあり、一見すると髪の長い少女のように見えなくもない。
「ワシが斬ってやろうか?」
「い、いいよ…」
「ははは、ん…?」
メノウがアゲートの足を止めた。
何かを見つけたようだ。
「どうした、メノウ?」
「アヤツら、わし達を追ってこないと思ったらこんなことを…」
「…これは!?」
メノウたちが見つけたもの、それは木に吊るされた二枚の紙。
メノウがそれを剥がし、軽く読むとショーナに手渡す。
そのうちの一枚にはこう書かれていた。
『深き緑眼の少女に告ぐ、南の地区マスリの基地にて待つ』
この紙に書かれた『深き緑眼の少女』とは間違いなくメノウのことだろう。
「ど、どうする!?」
「決まっておる」
その紙を真っ二つに破り去ると、アゲートの脚を加速させた。
行く先はもちろん、南の地区マスリの町の基地だ。
もう一枚の紙に書かれた地図を頼りに南の地区マスリの町の基地を目指す。
「せっかくのお誘いじゃ。断るのも失礼じゃろう?」
----------------
一方その頃、南の地区マスリの町の基地。
人々の間では『D基地』とも呼ばれている。
この基地内の広場では、普段は兵士たちの訓練などが日々行われている。
しかし、今この広場では、とある『試合』が行われていた。
「どうした?ただ構えるだけでは俺は倒せんぞ?」
戦っているのは、D基地長の男『ブルーシム』。
格闘技の達人だ。
学は無いが、その腕を南の地区の支配者に見込まれ、この基地を任されているのだ。
そしてそのブルーシムの対戦相手。
それは、年貢を納められなかった、あるいは納めることを拒否し逮捕された三人の男たちだ。
ブルーシムを取り囲むように、三人の男が武器を構える。
「う、うぅ…」
三人の男たちが持つ武器はあらかじめ、ブルーシムが持たせたものだ。
素手のブルーシムと、武器を持った三人の男。
一見、ブルーシムの方が戦力的には不利にも見える。
しかし…
「うぅ…うわぁー!」
叫び声をあげ、一人の男が構えていた剣を振るう。
だが剣を持った男の攻撃は当たらず、その攻撃は空を切る。
剣を撃った男は動揺し辺りを見回す。
ブルーシムは剣を避けた後、どこへ消えたのか?
いや、そもそもこの近距離で放たれた剣の攻撃を避けることなどできるのか。
だが次の瞬間、剣を放った男の意識はそこで絶えた。
「ひ、ひぃ!?」
他の二人の男が後ずさりする。
「おいおい、今更逃げるなんて言うなよ?」
「俺を倒せばお前たちの罪は取り消して自由にしてやる。そういう約束だろう」
「で、でも…」
「ひ、ひいぃぃ…」
ブルーシムがゆっくりと残りの男たちに詰め寄る。
彼らも剣を構えるも、ブルーシムに奪い取られ彼方へ放り投げられてしまった。
「これで終わ…」
「やめろぉ!」
そのブルーシムの行為を遮るかのように、基地内にショーナの声が響いた。
監視塔の監視兵を蹴散らし、そこからブルーシムに襲われていた男に叫ぶ。
「オッサン、早く逃げろ!」
「あ、ああ!」
「あ、おい待てぃ!」
「お前が待つのじゃ!」
その声と共に、メノウがアゲートを駆り基地内に現れた。
基地の外側を守っていた衛兵をメノウが倒し、二人は基地内に侵入したのだ。
「ほう、俺の部下を倒したガキじゃねぇか。よく来たな」
「ここの首領はお前か?」
「そうだ、それにしても思っていた以上にガキだな」
いくら見た目が子供とはいえ、メノウはかなりの実力者。
それくらいはブルーシムにもわかる。
隊長とその部下数人を一度に相手にし勝利したのだ、弱いわけがない。
「それにしても俺の部下共はお前たち二人に全滅させられたというわけか…」
「そうじゃよ」
「クソ共が…後で全員極刑にしてやる…」
悪態を吐くブルーシム。
それを挑発するように、メノウは話を続ける。
アゲートから降り、少しずつブルーシムに近づいていく。
「まぁいい。さっさと始末してやるよ」
「それは無理じゃのう」
「ほう、どうしてだ?」
「お前は今ここで、わしに負けるからじゃ」
「ハハハ、面白い冗談だなー!」
そういうと、ブルーシムは部下に指令を出した。
この勝負に対し、あらゆる干渉をするな。
静観せよ。
という命令だ。
「じゃあさっさと始めようぜ」
まずは小手調べとばかりに、ブルーシムはメノウに殴り掛る。
しかしその拳は受け流され、メノウの後ろの石の柱にめり込む。
大きな石の柱はその部分からヒビが入り、音を立てて崩れ落ちる。
「ま、マジがよ…」
絶句するショーナ。
あんな力、とても人間業ではない。
しかし、それとは対照的にメノウはとても冷静だった。
「どうした?わしに攻撃を当てないのか?」
「へへ…結構やるじゃねぇか…」
そういうと再び攻撃を続けるブルーシム。
しかしそれもことごとく避けられる。
拳を繰り出し続けるブルーシム。
しかしそれもすべて見切られメノウに当たることは一切無い。
「何の面白味も無い戦法じゃ、もうワシは飽きた…」
「なに!?」
「もう終わりじゃよ」
そう言うと、メノウはブルーシムの左腕に飛び掛かる。
それと同時に、間接を砕き筋を切り裂く。
ブルーシムの左腕が通常とは全く違う方向に曲がる。
「お、俺の腕が…な、なにを…」
「これ以上続けても無駄じゃ、さっさと降参しろ」
「誰が降参など…するかぁ…!」
ブルーシムが叫ぶ。
半ばヤケクソでメノウへ特攻するブルーシム。
しかし、そのような攻撃は当然通用するはずもなかった。
「はッ!」
「ぬっ…」
ブルーシムの腹へメノウの強烈な拳が叩き込まれる。
一発だけではない。
十、いやもっとあるだろう。
その攻撃を受け、ブルーシムは完全に沈黙した。
「そ、そんな!」
「ブルーシム様が負けた!」
「逃げろ、とても勝ち目など無い!」
そう言うと、ブルーシムの部下たちは蜘蛛の子を散らしたように退散していった。
もともと、この辺りの兵隊は元ならず者がほとんどだ。
ブルーシムという首領を失った今、彼らはただの烏合の衆。
いまここに、南の地区マスリの町のD基地が陥落した。
感想、誤字指摘、ブクマなどいただけると嬉しいです。
また、この小説が気になった方は広告下にある☆☆☆☆☆で応援していただけると嬉しいです!
今後もこの作品をよろしくお願いします。