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最高級の最下級少女  作者: 剣竜
第三章 東方の悪戯狐
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第四十七話 人斬りの少女



メノウ達がクレナイの一派に乗り込んだのとほぼ同時刻、シークマントの街では再び『人斬り』事件が発生していた。

白昼堂々の犯行ながら、その犯人の姿を目撃した者はいない。

ノザキに連れられ、メノウ達は現場へと向かった。

現場は人目に付きにくい裏通り、特にこの時間帯は殆ど人も通らないという。

憲兵隊に警察が現場周辺を調査しており一般人は近づけそうにはない、物々しい雰囲気が辺りには立ち込めていた。


「結局、犯人の手掛かりも掴めんのぅ…」


「ああ。クレナイの一派も関係なさそうだったな…」


限られた時間を無駄にしてしまい途方に暮れる二人。

事件現場には、飛び散った被害者の血が壁と地面一面に広がっていた。

この光景を見せられては、これ以上人斬りを許すわけにはいかないという思いに駆られる。

しかし、証拠が無くては動くこともできない…


「メノウさん、事件現場をみて何か気付いたことはありますか?」


「俺達では気付かないことでも、あなたなら!」


ノザキや他の憲兵隊の構成員たちが一斉にメノウに詰め寄る。

一方でカツミはその輪から無理矢理外されてしまった。

彼らにとってカツミは『メノウの腰巾着』程度にしか思われていないのだろう。

カツミもそのことを薄々感じとったのか、明らかな嫌悪感を彼らに向ける。


「あたしのことも考えろよ、これだから国家権力ってのは…」


そう言い捨てるカツミ。

ふてくされながら壁に寄りかかり地面に座り込む。

と、そこに…


「…あんたは」


数人の軍人を連れ、その場にある『男』が現れた。

カツミですら、その男の威厳の前にただ息を飲むのみ。


「あ、あなたは!」


「なぜ貴方がこのようなところへ!?」


ノザキ達憲兵隊はその男の前に跪く。

唯一その場にいる者で平静を保っているのはただ一人。

メノウのみ。


「久しぶりだな、緑眼の少女メノウ」


メノウは彼を知っていた。

一年前、南ザリィールの将軍として軍を指揮し戦ったあの男。

老齢ながらも熱く燃える闘志と民に対する慈悲の心を持つ情熱の男…


「そうじゃ、久しぶりじゃのぅ。マーク将軍!」


そう、彼の名は『マーク・レナード』。

前軍閥長の補佐として活動しながらも、部下や民のことを第一に考え動いてきた男だ。

一年前の南ザリィールにおける良心といっても過言ではない。

当時の南ザリィール軍の殆どは彼の人望について来た者たちが殆どなのだから。

それは今でも変わりは無い。


「メノウ、君がこの南ザリィールに来ているとテリー中佐から聞いてな」


「わざわざどーも」


陸軍のテリー中佐は憲兵隊一番隊のイトウと知り合いだ。

恐らくマークは彼を経由してメノウがこのシークマントへやってきたのを聞いたのだろう。


「約一年ぶりと言ったところか、ショーナ達と会わせてやれなくて残念だ」


「まぁ、いつか会えるじゃろう」


そんな会話を続ける二人。

一年前の『あの事件』でメノウは礼もろくに受け取らずにシークマントを後にしていた。

ショーナ達ともロクな別れの言葉も交わしていないほどだ。

マークとしては何が何でもメノウに礼がしたいのだろう。

この南ザリィールを救った『英雄』である彼女に。


「とりあえずこの現場は憲兵隊に任せて、一緒に夕食でもいかがかな?」


時刻は既に夕暮れ時。

アズサの店により、憲兵隊ノザキ達と出会い、クレナイの一派を追うという思い返すとハードな一日だった。

メノウ達としても長旅の疲れもあるのでできればゆっくり休みたい。

ここはマークの提案に甘えることにした。


「できれば君たちの旅の話をきかせてくれないか?」


「もちろん、いいぞぃ」


メノウとカツミ、そして彼女たちが滞在している間の世話役であるノザキ。

三人はマークの住む屋敷へと向かうことにした。

その道中、シークマントを出てからの旅であった者達や事件との出来事をメノウとカツミは語り始めた。

そしてこの南ザリィールへの滞在が、東ザリィールで囚われているツッツを救うための物であるということも…






----------







ちょうどその頃、先ほどメノウ達の襲撃を受けたクレナイの一派の構成員達はその場でほぼ全員が逮捕されていた。

もちろんこれはあくまで、あの古い建物を根城にしていたメンバーたけ。

南ザリィールにいるクレナイの一派全員ではない。

しかしこの逮捕は大きな見せしめという意味も兼ねている。

上手くいけば残りのメンバーたちの動きを抑制できるかもしれない。


「かぁ~ッ!やってられんわ!」


そのことをただ一人嘆く者がいた。

クレナイの一派の首領、ロクリュウだ。

ノザキが乱入してきたことにより、カツミとメノウに一瞬の隙が出来た。

その隙にロクリュウはその場から一目散に逃げ出したのだ。

その場にいた部下は逮捕、根城にしていた建物は憲兵隊の管理下に置かれた。

街から出て別の仲間と合流しようにも、連日の人斬り事件のせいで街の周囲には検問が常に敷かれている。


「これじゃあしばらく女も抱けへん!まったく面倒なことになったわ」


街の酒屋で安酒を買いそれを飲みながら、彼はあても無く道を練り歩いていた。

周囲から見れば単なる酔っ払いかチンピラか、そのように見えていたのだろう。

ふと気が付くと彼は街の外れにある自然公園に足を運んでいた。

ここはあまり人も来ない静かな場所だ、これからのことを考えるのにも都合がいい。


「暫くはとび職の方に精を出すしかねぇなぁ…」


そう思って酒を口に運ぼうとしたその時、誰かと肩がぶつかった。

こんな街の外れで人と出会うのは珍しい。


「おい、どこみとんねん! 謝らんかい!」


苛立った訛りのある声で怒鳴るロクリュウ。

思わず腰の刀に手を伸ばしかけるも、ぶつかった相手を見て彼はすぐその手を止めた。

ロクリュウがぶつかった相手はまだ十五にも満たないような少女だった。

女は斬らない、それが彼の主義だった。


「チッ、ガキか。今日はよく小娘と会うな」


自身の言葉で、再び先ほどのメノウとカツミのことを思い出すロクリュウ。

それを忘れようと手に持っていた安酒を再び一気に口に運ぶ。

一方でその少女の長い髪が静かに風になびく。


「小娘…?ガキ…」


「あ、何わけわからんこと言っとるんや!どっか行けや!消えろ!」


そう言い放つロクリュウ。

しかし少女はその場から動こうとはしない。

彼女の深いオレンジ色の瞳が何かを感じさせる。


「ッ…!」


安酒がもたらした悪酔いが一気にロクリュウの身体から消えていく。

目の前にいる少女から何か妙な気配を感じ、彼女と距離をとる。

背中を向けてはいけない、そう彼の本能か告げていた。


「小娘、お前…何者や!」


ロクリュウが刀に手を伸ばしながら叫ぶ。

普通ならたかが少女相手にこのようなことなどしない。

先ほどのメノウとカツミにさえ、彼は刀を向けようとはしなかった。

しかし今は違う。

今目の前にいる者は『少女』であって『少女』では無い。


「(ワイが…動けんやと…!)」


今まで感じたことの無い恐怖にその場を動くことすらできないロクリュウ。

彼は剣の腕ならばイトウとも互角と言われるほどだ。

度胸も人一倍持っているつもりだ。

しかし…


「(こいつ…本当に…小娘か…?)」


「ちょうどいい、『アイツ』をおびき出すエサになってもらうか…」


その少女の姿とは似合わない言葉と共に、彼女は背中に背負っていた鞘から一本の剣を取り出した。

彼女の長い髪に隠れていたため、ロクリュウも彼女が帯刀していることを見落としていたのだ。


「な、なんや!その剣は!?」


彼女の持つ剣はその刃が透き通るような紫色をしていた。

それはかつて、あの『黒騎士ガイヤ』が所持していた『邪剣-夜-』にどこか似ていた。


「『人工邪剣 暗炎剣』、世界四大宝剣の一つである魔将の剣を模して造られた人工邪剣だよ」


「…ッ!」


この瞬間、ロクリュウは理解した。

今目の前にいるこの少女、コイツこそがあの『人斬り』の正体なのだと。

このままでは確実に『斬られる』、何としてでもこの場から逃げなくては。

そう考えるが身体かまるで金縛りにあったかのように動かない。


「姿を見られた以上、お前を亡き者するしかない」


そう言って彼女がロクリュウの下にゆっくりと歩み寄ってくる。

このままでは…


「クッ…オラァ!」


少女が喋ったその一瞬の隙を突き、ロクリュウは最後の賭けに出た。

一瞬の隙を突き行動を起こすことが彼の最も得意とすることの一つ。

自身がいつも持ち歩いている火薬を自分と少女の立っているちょうど中央部分に投げ炸裂させたのだ。

元々は破壊活動などに使用する爆弾であり、破壊力は非常に高い。

しかし仮に少女に投げつけたとしても恐らく通用しない。

そうロクリュウの勘が告げていた。


「これは…!」


少女は暗炎剣の刀身で爆風を全て防いだ。

しかしその視界は少しの間奪われてしまう。

爆風が全て晴れたとき、その場からロクリュウの姿が消えていた。

少女の前には爆発によって大きくえぐられた地面が残るのみ。


「逃げ方だけは一流かぁ…」


ロクリュウはその僅かな時間を使いその場から逃れたのだ。

自身の爆弾により多量の傷を負いながらの手痛い代償と共に、だが…


感想、誤字指摘、ブクマなどいただけると嬉しいです。

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