第四十六話 反体制の剣客 ロクリュウ
しかしそのメノウでもたったこれだけの資料から犯人を特定するのは不可能。
「お前さんたちの考えはどうなのじゃ?」
「僕たち一番隊支部は過激派組織である『クレナイの一派』が怪しいと睨んでいます」
「クレナイの一派?」
「なんじゃ、それは?」
「『ロクリュウ』という男が率いる、南ザリィールを根城に国家転覆を狙う輩です」
ノザキはそう言って資料がまとめられた本を取り出し二人に見せた。
どうやら『クレナイの一派』というのは正式名称が不明のため、憲兵隊の間で呼ばれている仮の名であるようだ。
表向きは大工や博打の元締めなどの仕事を請け負う団体だが、裏の顔は犯罪組織である。
クレナイの一派とは、この南ザリィールを根城にザリィール帝国の国家転覆を狙う者達の集まりだ。
しかしその構成員はほぼすべてが単なるならず者。
単に国に対する不平不満を述べながら好き勝手に暴れまわるだけの集団らしい。
「なぁメノウ、このクレナイの一派って西ザリィールのディオンハルコス教団にすこし似ていないか?」
「ディオンハルコス教団のリーキュア支部か…」
ディオンハルコス教団のリーキュア支部は、宗教団体というのを隠れ蓑にしていた犯罪集団だ。
以前メノウとスート、ツッツにより壊滅させられている。
確かに表の顔と裏の顔を持つ犯罪組織という点では二つの組織は似ているかもしれない。
しかしクレナイの一派はあちらとは違い、大々的な活動はあまりしていない。
所詮、単なるチンピラの集まりに過ぎないクレナイの一派と犯罪組織であるリーキュア支部とではスケールそのものが違う。
「ディオンハルコス教団のリーキュア支部の事件は僕も知っています。しかし今回の事件のケースとは少し違うと思います」
「そうだよなぁ…」
カツミが資料を乱雑にめくりながら言った。
そこでふとあることに気が付いた。
ノザキの用意した資料にはクレナイの一派についての記述が殆ど無いのだ。
あるのは違法賭博の取り締まりをした際に数名を捕まえた、無銭飲食の者を捕えたなどの比較的どうでもいい資料のみ。
これについてノザキに尋ねると…
「クレナイの一派が怪しいというのは現段階では憶測でしかありません。証拠も何もない以上調査もできませんし…」
「強制捜査とかもできないのか?」
「はい。そのような権限は現在の憲兵隊には…」
それならば別件の事件で構成員を逮捕し、その際に取り調べればないのか?
そうカツミが言うも、それもノザキに否定されてしまう。
クレナイの一派は構成員が非常に多く、街のチンピラの半数が所属していると言っても過言ではない。
さらに、ここシークマント以外の地域にいる者達も含めるとその数はかなりの規模となる。
「その膨大な数の中から数人を捕まえ、無理矢理取調べを行ったところで証拠など得られるとは思えません」
「そうか」
なんとかクレナイの一派についての情報を得たいが、どうやらそう簡単にはいかないようだ。
憲兵隊というのも意外と動きづらい組織なのだろう。
「つまりは『クレナイの一派についての情報を手に入れればいい』のじゃな…?」
「…メノウ、やるか?」
メノウとカツミが言った。
その言葉の意図を掴めないノザキはただ困惑するばかり。
「ノザキ、この資料によるとクレナイの一派は再開発地区にある潰れた酒場を根城にしているらしいが…」
そう言ってメノウはクレナイの一派の構成員が再開発地区で起こした事件について書かれた新聞の記事をノザキに見せた。
事件内容は単なる窃盗事件、特筆すべきことは何もない。
しかし、その記事には手書きの注釈でクレナイの一派の根城がその付近にあると書かれていた。
恐らくサトウが書いた物だろう。
「ええ、いつもはそこにリーダーと取り巻きの男たちがいるようです」
「それならば話が早い!」
「いくか、メノウ!」
「え、ちょッ…!?」
戸惑いを隠せぬノザキを尻目に二人は屯所を飛び出し、アゲートを駆りある場所へと向かった。
向かった先は再開発地区にあるクレナイの一派の根城と思われている酒場。
薄汚れた建物にある古い飲み屋をそのまま使用しているらしい。
遅れてノザキも屯所の馬を使いメノウ達に追いついた。
少し離れた縫製工場跡にて、建物を監視するメノウとカツミ。
「いったい何をする気ですか…?」
ノザキが訪ねる。
もっとも何をするかは彼も薄々気付いてはいるが…
「決まっておるじゃろう、アヤツらの根城に殴り込み…」
「証拠を探してくる。簡単だろう?」
この行動は『メノウ』と『カツミ』がするからこそ意味がある。
国家権力である憲兵隊は理由が無ければ大々的な行動をすることが出来ない。
それが今までクレナイの一派を調査できなかった理由だ。
しかしメノウとカツミはあくまで『一般人』に過ぎない。
チンピラ相手に問題を起こしても特にお咎めなど無い。
「ワシらが騒ぎを起こし証拠を集める。その後憲兵隊が問題を起こしたクレナイの一派の構成員を捕まえる」
「これでどうだ?」
「し、しかし…」
「お前さんは他の憲兵隊たちを連れてこい!乗り込むぞぃ、カツミ!」
「ああ!」
そう言ってノザキの制止を振り切りメノウとカツミがクレナイの一派の構成員がいると思われる建物へとなぐりこんだ。
古い扉を蹴破り中へと侵入する二人、部屋の中にかび臭い埃の臭いが充満している。
どうやら一階部分は通路以外使われていないようだ。
二階へと駆け上がり、人の気配がする部屋に勢いよく飛び込む二人。
厚手のカーテンで閉め切られた部屋には十人ほどの男がいた。
「な、何だぁ!お前らは!」
「殴り込みか!?」
部屋の中にいたのはいかにもチンピラといった風貌の男達。
こんな昼間から酒と博打に溺れる者、何かしらの不当な商売で得た利益を数える者、部屋の隅で寝ている者…
それらが一斉にこちらに向かって襲い掛かってきた。
一応は国家転覆を狙う過激派集団というだけはあり、部屋の中には刀などの武器が隠されていたようだ。
「やはり武闘派だけのことはあるのぅ」
「あたしが片付けるからメノウ、お前が何か証拠になるような物を探せ!」
しかし武装したところで所詮はただのチンピラに過ぎない。
カツミが片手を軽く振るだけで数人が吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
「うおぉ!?なんだこいつ!」
「怯むな相手はガキだぞ!」
他の者達が襲い掛かるも、今度はカツミに一人ずつあしらわれていく。
建物の窓を突き破り外へ放り出される者、床に強くたたきつけられそのまま一階へ落ちていく者…
その場に残った一人にカツミが詰め寄る。
「おい、お前!さっさと証拠になるような物をよこせ!」
「な、何の証拠だよ!?と、賭博か?て、テルーブ王国との武器の密輸か!?」
「とぼけるな!顔面切り裂くぞ!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!」
これではどちらが悪人かわからない。
一方のメノウも別室を回って何か証拠になるような物を探していた。
しかし、裏賭博などの証拠以外は何も見つからなかった。
「あの人斬り事件はお前らの仕業だろ!答えろ!」
「知らない!そんなこと知らない!」
そう言い続ける構成員の男。
メノウが見る限りではどうやら嘘はついてはいないようだ。
と、とこにある男が現れた。
「お、お頭!」
「小娘らが、ワイの部下たちにエライことしとるけど、度胸あんなぁ。普通なら斬られとるでぇ」
男は金髪の逆毛で、額に長いクレナイいはちまきを巻き、頬に古い刀傷がある。
首に数珠を掛け、鞘に納めた刀を両肩に載せて、両手を鞘の上に載せている。
クレナイい桜柄の半被はっぴを羽織り、腹に白い腹巻を巻いている。
下は大工が穿くような黒いズボンで、黒い足袋に草履。
「…お前さんは?」
「ワイはこいつらの頭、『ロクリュウ』っちゅうもんや!覚えときや」
男は半被を半脱ぎし、メノウ達に背中を見せた。
そこには勇ましい昇り竜の入れ墨が彫ってあった。
その際、僅かに彼の身体が着物の間から見えた。
無数の斬り傷が刻まれた歴戦の『サムライ』の身体がそこにはあった。
今でこそならず者ではあるが、恐らく一昔前は有名な剣客だったのだろう。
剣の実力も相当なものに違いない。
「(ロクリュウ…ノザキが言っていたクレナイの一派の頭か…)」
部下がやられているというのにロクリュウには全く焦りも怒りも感じられない。
やられたことへの恨み等よりも不甲斐ない部下への失望の方が大きいのだろう。
「単刀直入にきくぞ、ロクリュウ」
「なんや?緑色の嬢ちゃん?」
意外にもロクリュウは素直にメノウの言葉に応じた。
戦っても無駄だと思ったか、それとも…?
「お前さんは『無差別人斬り』事件について何か知っているか?」
メノウが尋ねる。
しかし、ロクリュウはその問いに対し首を横に振る。
彼の目を見るメノウ。
…嘘は付いていないようだ。
「あれほどの剣の腕を持っとんのは、この南ザリィールでワイだけ。そう考えたやろ?」
「いや、別に…」
「まぁええわ、それより今回の事件は本当にワイらは関係ないんや」
「…」
と、そこまでメノウとロクリュウが話をした丁度その時、部屋の中に息を切らせたノザキが入ってきた。
何やらひどく慌てているようだが…?
「め、メノウさん!中心街で再び人斬りが!」
感想、誤字指摘、ブクマなどいただけると嬉しいです。
また、この小説が気になった方は応援していただけると嬉しいです!
今後もこの作品をよろしくお願いします。




