第四十四話 再訪!南ザリィール
四聖獣士の一人、『青龍のシェン』との戦いから数日が過ぎた。
その後、列車は特に事件も無く走り続け、『南ザリィール』の『シークマント』へとたどり着いた。
東ザリィールへと向かう道中、列車はこの南ザリィールに五日間止まることとなる。
一刻も早くツッツを救い出したいがこればかりは仕方が無い。
メノウ達は五日間、南ザリィールで足止めを喰らうわけだが…
馬のアゲートを列車から降ろし、駅から出るメノウ達。
「南ザリィール、久しぶりじゃのぉ~」
列車から降り、駅から出たメノウが言った。
彼女とアゲートにとってこの南ザリィールは約一年ぶりに訪れる地だ。
南ザリィールの『シークマント』、かつてメノウが『黒騎士ガイヤ』と死闘を繰り広げた地だ。
以前イーガリスが治めていたこの地は現在、かつて将軍の地位にいたマーク・レナードが治めているらしい。
以前よりも街には活気があるようにも見えた。
「大きな街だな…」
シークマントの街並みを見てはしゃぐメノウ。
それとは反対に、思わず圧倒されるカツミ。
多くの人が行きかう大通りや、レンガ造りの大きな建物など今まで見たことも無い物ばかり。
西ザリィールの港町リーキュアよりも、その街の規模は大きい。
「そういやメノウ、包帯はまだ取れないのか?」
「いや、これはバンテージじゃよ。傷跡が少し残ってしまってな…」
メノウの左腕は以前のシェンとの戦いで負傷していた。
その傷は既に治っているのだが、少し傷跡が残ってしまったらしくそれを隠すためにバンテージをしているらしい。
左腕を全てバンテージで覆っており、指のみが露出している状態になっている。
もっとも、ある程度時間が経てば傷跡も無くなるようだが。
「まぁ、少ししたら傷跡も治るじゃろう。それよりどうじゃ、この街は?」
「南ザリィールのシークマント、結構賑やかだな」
カツミが街を軽く見まわす。
駅は小高い位置にあるため、ここからある程度街を一望できる。
恐らく以前までいた港町リーキュアよりも住みやすそうだ。
そう思いながら視線を人混みに移すカツミ。
と、その時…
「おーい!そこの二人ー!」
人混みの中からメノウにとって聞き慣れた『ある人物』の声が聞こえた。
それはかつてこのシークマントでメノウが出会った隠密の少女、『アズサ』だった。
かつてこの地を支配していたイーガリスとの戦いの際にも協力してくれた、メノウの大切な仲間。
以前連絡をした相手というのがこのアズサだったのだ。
今日は仕事も休みらしく、二人を案内してくれるらしい。
「おお、久しぶりじゃのぉ~アズサ!」
「久しぶりだね、メノウちゃん!」
久々の再会を喜び合う二人。
あれから約一年、メノウは特に変わってはいないがアズサはほんの少し成長しているようにも感じた。
以前よりも少し女性らしくなった気がする。
それでも身長があまり高くない、というのは一切変わっていないが…
「それよりどうしたの!その左腕!?」
「ちょっとな。まぁもう治りかけている怪我じゃから大丈夫じゃ」
「そうなの…」
「アズサ、ワシの仲間のカツミじゃ」
「手紙で知ったわ、よろしくねカツミちゃん」
「オッス、あたしカツミ」
軽く挨拶と自己紹介を済ませると、アズサは自身が住み込みで働いている東洋料理屋へと二人を案内した。
カツミはもちろんシークマントを訪れたことは無い。
アゲートも以前は別の場所に預けていたため、このシークマントに来たことは無いのだ。
以前アズサが働いていた店はイーガリス死亡と共に遊郭の事業を廃止。
東方大陸の料理を提供する料理店へと変わったらしい。
店長が元々は料理人だったということもあり、現在店は大盛況のようだ。
「そういえばアズサ、ショーナ達はどうしておるのじゃ?」
「ショーナくんとミーナちゃん?あの二人はね…」
どうやらアズサの話によると、ショーナは現在は中央ザリィールにある学園に通っているらしい。
マーク将軍の計らいにより、特別に入学できたそうだ。
元々数学関係は非常に優れた能力を持っていたショーナ。
語学などは苦戦しているようだが、それ以外では学園内でもかなり良い成績を残しているという。
「ミーナちゃんは別の地区で仕事してるらしいよ」
「どうせなら会いたかったが、残念じゃ。会わせればアゲートも喜ぶかと思ったが…」
「う~ん、結構忙しそうだし…あ、着いたわよ。奢るから」
そう言ってアズサは一軒の店を指さした。
かつて遊郭だったとは思えないほどの改装が施されたその料理店は、昼近くだからか多くの人で賑わっていた。
店内だけでは無く、店外にも数名が席が空くのを待っている様だ。
「なんだ、席が埋まってるのか?」
カツミが店の窓から店内を覗く。
ほぼすべての席が埋まり、店員もあわただしく店内を駆け回っている。
てんてこ舞いの状況だ。
「大丈夫よ、特別に奥で食べさせてもらえるから」
「わざわざ悪いな、そこまでさせて」
「私はここで働いてるのよ、それくらい大丈夫」
アゲートを馬止めに繋ぐと
どうやらアズサが事前に話をつけておいたらしく、店の奥の予約客用の席に案内してもらうことが出来た。
元々は遊郭の乗客用の部屋だったらしいが、現在は改装され部屋の作りにその面影を残すのみ。
落ち着いた雰囲気の部屋になっていた。
席に着き、適当に料理を頼む三人。
「いい店だな」
「まぁね、以前の事件の後からここまで直すのに苦労したんだから」
あの事件以降、この街にあった大量の遊郭などはほぼ全て改装され別の店になったという。
以前は別の地区の者が遊郭街として利用していたシークマントだが、今はそれも無い。
街が活気づいているのもその影響なのかもしれない。
「以前の事件ってなんだ?」
カツミがアズサに尋ねる。
以前のシークマントでの、いやメノウの南ザリィールでの戦いの殆どをカツミは知らない。
メノウの話も交え、かつての戦いについてアズサはカツミに語った。
シークマントでの戦いはもちろん、メノウとショーナ、アゲートの出会い。
ミーナやガイヤとの戦いなど…
「そんなことが…」
カツミはメノウから断片的には南ザリィールについての話を聞いていたが、通して聞いたのはこれが初めてだ。
その内容に思わず息をのむ。
話の途中、店員が持ってきた饅頭を口に運びながらさらに話を聞く。
「そういえば『ヤクモ』、あの男はどうなったのじゃ?」
メノウがはふと『ある男』の名を上げた
元南ザリィール四重臣の男、ヤクモ。
札術や縮地法といった変わった技を使う風変わりな男だった。
アズサによると、現在は行方知らずらしいが…
「あの人、どっちかというと元軍閥長寄りの男だったから…」
「まぁ、そうだったかのぅ…?」
「どこか別の地区にでも逃げ出したんじゃないの?よく分かんないけどね」
今更居なくなった男の話をしても仕方が無い。
料理をたべながら別の話で盛り上がろうと、カツミが話を始めようとした。
その時だった…
「クソッ!」
「フハッ」
メノウ達の座っている席の背後で、ある男の怒鳴り声が聞こえた。
別の客だが、先ほどからずっと数名の人物が話をしているようだった。
そのうちの一人が急に怒鳴り声を上げたのだ。
思わず妙な声を上げるメノウ。
アズサとカツミがその客の席に反対に怒鳴りこみにいった。
「ちょっと止めてよそれ」
「聞いてんのか!」
席に座っていたのは二人の男。
長い髪を後ろで束ね、長い前髪が目許に垂れている男。
口に煙草を銜え、黒い制服を着ていた。
そしてもう一人はと彼の部下らしき男。
「あ、あなた憲兵団の…」
「ん、お前は…」
「知り合いか、アズサ?」
アズサはどうやらその長髪の男と知り合いのようだった。
「憲兵団、一番隊隊長の『サトウ』だ。先ほどは失礼した」
「すいませんでした」
サトウと名乗る男は先ほどの侘びとばかりに謝罪の言葉を述べた。
横にいた部下の男も同じく謝罪の言葉を述べ頭を下げた。
「どうなった?二人とも?」
「あ、メノウ。こいつらも謝ってくれたからもういいよ」
メノウが席の後ろからひょいっと頭を出し彼らを覗き込む。
その時…
「メノウ…?もしかして以前、あの事件を解決したという『緑眼の少女』か!?」
サトウはどうやらメノウのことを知っていたようだ。
とはいっても、以前のこの南ザリィールでのあの事件の詳細を知っているのは極一部の者のみ。
それ以外の者は噂程度にしか知らないだろうが。
「隊長、それって…」
「ああ…」
「?」
意味深な会話を続ける二人とその意味が解らず首をかしげるメノウ。
暫くして部下の男がメノウに言った。
「お願いします、メノウさん達の力を貸してください!」
「い、いきなりなんじゃ!?」
突然の申し出に驚くメノウ。
無理も無い。
しかしこの必死の形相で頼まれると断ることもできない。
とりあえずメノウとカツミは、その理由を聞くことにした。
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