第四十一話 メノウの記憶
「ここは…?」
気付くとメノウは暗闇の中にいた。
どこにいるのかは分からないが、背中の感触から冷たい石畳の上にいるのは分かった。
布の感触が無く、いつものローブは何故か着ていない。
一糸纏わぬ状態で、石畳のような場所に仰向けで寝ているような状態になっている。
先ほどまで東ザリィール四聖獣士の一人、シェンと戦っていたはずだがその後の記憶が曖昧になっているのだ。
しかもなぜか身体の自由もきかない。
「誰か…いないのか…?」
身体中に力が入らず、言葉も満足に出ない。
かすれたような声がなんとか出た程度だ。
しかし、まるでその声に呼ばれたかのように、メノウの周囲に人が数人集まってきた。
ここで気付いたが、どうやらメノウは石の台のような場所に寝かせられていたようだ。
『--竜--殺--』
『水---骨--』
暗闇の中にも関わらず、その者達は何らかの作業を的確にこなしていく。
会話をしているのも聞こえるが、断片的過ぎて彼女には理解できなかった。
何も見えない暗闇の中、たった一つだけメノウの眼に写った物があった。
「なッ…!」
『--裂--取り--』
それは小型のナイフのような刃物だった。
暗闇の中、それを持つ者の腕だけかはっきりと見えた。
メノウには不思議と、その者か刃物で何をするのかが理解できた。
「や…め…」
メノウのかすれた声など気にも留めず、その者は刃物をメノウの左腕に深く突き立てた。
腕の骨に当たり、刃は貫通せずに止まる。
しかし、そのまま刃物を縦に引きメノウの腕を切り裂いた。
その一連の行動を作業的に淡々とこなす、その者。
「ぎぃやぁあぁぁぁあぁぁぁッッッ!」
今まで声が殆ど出なかったメノウだったが、あまりの激痛に出せる限りの叫び声を上げる。
石の台にメノウの鮮血が広がっていくのが見える。
傷口を無理やり広げる、その者。
血はその間にも流れていき、台下の石畳に滴り落ちていく。
「ぐぁああぁぁぁあッッぎぃぃぃ!」
左腕だけに留まらず、刃物を持つ者の手は下半身にものびていく。
別の人物がさらに突き立てる。
カリカリカリ…
カリカリ…
「ひぎぃぃぃぁああああ!やめろおぉぉぉ!」
カリカリカリ…
カリカリカリカリカリカリ…
メノウの暗闇を切り裂くような叫び声が辺りに響き渡る。
それに呼応するかのように周囲の景色が歪んでいく。
そして…
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「おい!メノウ!大丈夫か!起きろ!」
聞き慣れた少女の声と共に、目の前の景色が霧のように消えていく。
次の瞬間メノウの眼に写ったのは先ほどまでの地獄のような光景では無かった。
「よかった、凄いうなされているみたいだったから心配したんだぞ」
その声の主はカツミだった。
メノウは蒸気機関車の一室にあるベッドで寝かされていた。
シェンとの戦いで受けた傷には包帯が巻かれており、治療の跡が確認できた。
先ほどの光景は夢だったのか、そう思い刃物で切り裂かれた部分を触ってみるも傷は無かった。
「悪夢でもみてたか?」
「カツミ…ここは…どこじゃ?」
「寝ぼけてるのかよ、列車の中だぞ」
カツミの話によると、あの後メノウはヤーツァから奪った灰色の馬に乗り列車に戻ってきた。
しかし、戦いの傷のせいで意識が朦朧としており危険な状態だったという。
「乗客の中に医者がいてな、治療してくれたんだよ」
「そうじゃったか…後で礼を言わないとな…」
「まぁ、意識が混濁するのも無理はないか。ここ数日間、ずっと寝続けてたんだからな」
「数日間もか!」
今まで気づかなかったが、窓から見える外の景色は既に荒野では無く山岳地帯になっていた。
時刻も夜になっている。
数日間ずっと寝ていたことに信じられず、メノウは動揺を隠せない。
「まぁ、あの一日の間にあれだけの出来事があればそうなっても仕方ないさ」
思い返せば、あの日…
いや、港町リーキュアに来てからだろうか。
メノウは多数の事件に巻き込まれてきた。
スートとの出会い…
ディオンハルコス教団リーキュア支部…
大型肉食恐竜型の魔物との交戦…
東ザリィール四聖獣士『朱雀』ザクラとの邂逅…
ツッツ誘拐…
ヤーツァ・バックレー一味との戦い…
そして、東ザリィール四聖獣士『青龍』シェン…
「そうじゃったな…ここ最近いろいろな出来事があったわ…」
「最近…?」
「そうか、カツミには話して無かったな…」
カツミはメノウが大型肉食恐竜型の魔物と交戦した日に仲間になった。
それ以前のことはよくは知らないのだ。
「ほれ、港町リーキュアに趣味の悪い建物があったじゃろ?」
「…ああ!あの時のか!」
「あれはディオンハルコス教団リーキュア支部といってな…」
二人が大型肉食恐竜型の魔物と交戦し、ザクラにツッツが攫われた直後に見たあの建物。
それがメノウの言うディオンハルコス教団リーキュア支部だ。
メノウはカツミにディオンハルコス教団リーキュア支部での事件を話し始めた。
スート、アロウズ、コムギ、トロム、様々な者との出会い。
それらを話すだけで口が止まらぬほど…
「魔法を使う者が多かったのう」
「魔法か、あたしは苦手だな…」
「そう言えば、カツミと初めて会ったときもやけに警戒しておったのぅ」
「魔法なんて噂でしか聞いたことが無かったからな、どんな攻撃かも想像がつかなかったんだよ」
魔法は隙が生じるため戦闘に使用するのは不向きなのだ。
事実、スートは移動中に使用していた。
メノウも戦闘中の魔法は、よほどのことが無い限り使用していない。
魔法と戦闘の相性を知っていれば、カツミは掌底波など使用しなかっただろう。
「魔法はそこまで万能でもないんじゃよ」
「そうなのか、しかし警戒することに越したことは無い」
「じゃったら、魔法が効かなくなる方法教えてやろうか?」
「そんなことできるのか?」
「そう言う魔法があるのじゃ、今度教えてやろう」
「本当か!?」
「ああ、ワシのケガが治ったらな」
そこまで話した二人だったが、ふとメノウの腹の音が鳴った。
数日間寝続けていたため何も食べていないのだ、それも仕方が無いだろう。
「…とりあえず何かたべようかの」
「…どうせ料金は切符代に含まれているからな」
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