第三十九話 列車強盗団ヤーツァ・バックレー
「…なるほど、魔物については大体分かった。礼を言う」
そう言って器に入っていたパンを齧るカツミ。
食事を終え、空いた食器を全て部屋の隅に寄せる。
あとで係の人間が来たときに下げてもらおうというわけだ。
「お、いつの間にか窓の外が…」
ふと窓から外を除くメノウ。
そこに広がっていたのは荒野地帯。
どうやら既にリーキュアの周囲を抜けており、現在はメララートの砂漠の近くを通っているようだ。
メララートの砂漠と言えば、以前ツッツと訪れた砂漠の交易都市イオンシティのある地。
そしてさらに進めばカツミと最初に戦った荒野、そしてツッツの村センナータウンがある。
「数日間、列車はこのまま荒野を走るみたいだな」
「数日…か…」
「そして荒野を抜け山岳地帯へ入り、森林地帯へと入る」
メノウにとっては今までの旅路を逆に戻っていくような道順。
その道をたどり、まだ見ぬ地『東ザリィール』へと彼女たちは向かっている。
すこし懐かしさを感じつつ、新たな地への期待を隠せない。
ツッツが攫われていることを考えると少々不謹慎なのだが、それでもこれは元来のメノウの性格からくるもの。
「(東ザリィール…一体どんな場所なんじゃ…?)」
以前聞いた話では、東ザリィールには東方大陸からの移民が多いらしい。
南ザリィールの中央都市、シークマントにあった東洋街は東ザリィールの移民が多く住む町だった。
おそらく、東ザリィールの街もあの東洋街と同じような感じなのだろう。
「まぁ、東ザリィールに着くまで結構な日数がかかるんだ。焦らずゆっくりしようじゃないか」
「そうじゃな…」
腹が膨れて少し気が楽になったのか、部屋に備え付けのベッドに寝転がるメノウ。
こうして寝ていても、やはりここが列車の客室とはとても思えない。
さきほども感じたことだが、改めてそれを思い知らされる。
しかし、それもほんの束の間のことだった。
メノウとカツミの安息を遮るように、それは突然訪れた。
「なんだ!」
そう言って客室を飛出すカツミ。
感覚を研ぎ澄ましてみると、列車の周囲を多数の殺気が囲っているのがわかる。
さきほどまで食事をしていて気付かなかったのだ、これは大きなミスだ。
列車の車両連結部から顔を出し辺りを見回す。
「どうしたカツミ!?」
「あれを見ろ」
カツミの眼前に広がる光景、それは馬に乗った盗賊団の群れだった。
しかもそいつらはこの列車を取り囲むように群れを作っている。
その数およそ二十はくだらないだろう。
「なんじゃヤツらは!?」
「列車強盗団か!?」
カツミが叫ぶ。
それと同時に、彼女たちに避難を促しに来た客室乗務員と鉢合わせしてしまった。
「お客様、早く安全な場所へ!奴らは、あの『バックレーの一味』です!」
「バックレー…?なんじゃそれは…」
「ヤーツァ・バックレー率いる凶悪な列車強盗団です!」
西ザリィール一帯の鉄道を襲う列車強盗団のリーダー、それが『ヤーツァ・バックレー』だ。
もう一度盗賊たちの群れを見ると、一人だけ茶色の馬では無く、赤いスカーフを巻いた馬を駆る男がいた。
特殊な馬なのだろうか、一際スピードが速い。
客室乗務員に確認を取ったところ、どうやらあの男がヤーツァのようだ。
「あたしは聞いたことあるぞ、西ザリィール一帯を根城にする盗賊だな…」
「そうです」
彼は元西ザリィール軍所属の優秀な兵士だったが、軍の兵器を別の地区に大量に横流し。
自身も大量の兵器と金と共に脱走。
現在の『バックレー一味』を築いたという話は西ザリィールでは有名な話だ。
「列車後部の貴重品保管車の連結を外せ!そうすれば命だけは助けてやる!」
ヤーツァが自分たちの要求を言った。
武器を構えた盗賊たちが列車とほぼ同じスピードで走っているのだ。
列車内の他の一般人から見たらそれは恐怖の光景でしか無いだろう。
「あのヤロ~好き勝手言いやがって…」
「カツミ…!」
「ああ、ヤーツァどもを叩き潰す必要があるな…」
「あ、お客様!?」
客室乗務員の制止も聞かず、メノウが小手調べとばかりに最も近くにいた馬に飛び移る。
列車のスピードと馬の走行速度はほぼ同じ、彼女ならば造作もないことだ。
疾風にその長い髪とローブを靡かせ、飛び移った先の馬から別の馬に飛び移る。
「な、なんだ!?」
「いきなりガキが!」
近くにいた馬に乗る盗賊の男達が叫ぶ。
あまりにも突然の出来事に驚きを隠せないようだ。
それを無視し、その二人を蹴飛ばすメノウ。
二人は叫び声を上げなから地面に転げ落ちていった。
カツミも同じく馬を足場に盗賊へと襲い掛かる。
盗賊たちの頭上から数人を纏めて蹴り飛ばす。
「落ちろ!」
「ヒェッ…!」
馬上の不利。
このような超接近戦ともいえる状況ともなると盗賊たちに反撃の機会など無い。
どうやら馬を駆る盗賊自体はそこまで強くは無いようだ。
これならばすぐに殲滅できるだろう。
「チッ、なんだ?あんな小娘どもが用心棒としているなんて聞いてないぞ?」
そう言いながら、その光景を見ていたヤーツァは腰のホルスターから銃を取り出す
同じ轍を踏まぬよう二人からある程度距離を取るよう馬を少し後退させる。
ただの銃では無い、在軍時代に特殊な改造を施したものだ。
ヤーツァがこの銃を撃てば、馬上や車上からの射撃でも地上での射撃とそう変わらない精度になる。
「(小娘だからと言って手は抜かん、その頭打ち抜いてやる…)」
そう言ってメノウの頭に銃の銃口を向けるヤーツァ。
いくらメノウとはいえ、銃による不意の一撃を受けてはたまったものではない。
ヤーツァがゆっくりと銃の引き金に指をかける。
しかし…
「させんぞ!」
カツミが斬撃波でヤーツァの持つ銃をバラバラに切断した。
「何ィ!?だがまだ…」
カツミの攻撃にも動じずヤーツァは自身の持つもう一つの銃を取り出そうと手を伸ばす。
だが、それも無駄に終わった。
次の瞬間、彼の腹にメノウの拳の一撃が入ったのだった。
「うげぇ…!」
情けない声を上げ、馬の背中で気絶するヤーツァ。
ヤーツァには懸賞金が掛っているため、カツミはあえて突き落さなかった。
しかしその時、彼の率いていた馬たちは皆徐々に自身の走る速度を落とし始めた。
そして散り散りになって逃げて行った。
今メノウとカツミが足場にしている、ヤーツァの馬も同じだ。
「なんだ!?」
「見捨てて逃げていきやがった。それより、このままだと列車に置いてかれるぞ!」
列車はその速度を維持し二人との距離をさらに離していく。
このままではカツミの言うとおり、この西ザリィールの荒野に置き去りになってしまう。
それを防ぐべく、メノウは更なる手を打つ。
「分かっておる!走れ、列車を追うんじゃ!」
他の馬と盗賊が逃げる中、メノウ達の乗る馬は速度を上げ続けた。
その全力の走りは先ほどまでとは比べ物にならないほど早い。
盗賊団首領のバックレーが乗っていただけあって、特に早い個体だったのだろう。
かなりの距離を離されていたが、なんとか先ほどの列車に戻ることができた。
カツミが列車に飛び移り、ヤーツァを引き渡す。
そして前方の車両に避難していた客達に向かって言った。
「ヤーツァ・バックレーの率いるバックレー一味はあたし達か討伐した!」
それを聞き客たちは歓喜と驚嘆に包まれた。
まさかこの少女たちがあのバックレー一味を倒したというのか、という驚嘆。
それと同時にもうあの盗賊たちに襲われることの無いという歓喜。
客たちから感謝の言葉を投げられるメノウとカツミ。
「メノウ、お前も早くこっちにこいよ!」
カツミが馬に乗りつづける彼女に対し言った。
列車に並列して馬を駆るメノウ。
しかし、メノウはカツミの言葉を拒否した。
「カツミ、少し時間をくれ。後で必ず追い付く…」
「何故だ?」
「頼む…」
メノウの言葉を聞き、カツミは『何か』を察し黙ってうなずいた。
「…必ず戻って来いよ」
馬の走るスピードを緩め、列車から離れていくメノウ。
やがて列車が見えなくなる頃、その場に馬を止めた。
そのメノウを上空から『何者か』が見つめていた…
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