第三話 帝国への反逆!?
メノウが馬を走らせ、検問所を突破した。
検問所の兵士たちは追ってこず、南の本隊に彼らの始末を任せたのだ。
だが、やはりこの短時間ではまだその情報も伝わってはいないようだ。
特に問題も無く南の地区を馬で走ることができていた。
辺り一帯は田園風景が広がる農村地帯。
以前までいた禁断の森付近と比べると驚くほど平和だ。
「メノウ、いくらなんでも無茶だぜ!これじゃあお尋ね者に…」
「どっちにしろザリィール帝国の軍馬を拝借していたのには変わりは無い、あのままでもつかまっていたじゃろう」
確かにメノウの言うことも一理ある。
あのまま別の場所に逃げても捕まる危険はある。
「あ、そういえば…」
「なんじゃ?」
「さっき俺のこと『ショーナ』って名前で呼んでくれたよな?」
「…緊急事態だったからじゃ!」
メノウが声を荒げて言った。
ここまでメノウがショーナを名前で呼ばなかった理由。
それはもしかしたら、ただ単に名前を呼ぶのが恥ずかしかっただけなのだろうか。
変なところで妙に人間味のある性格だとショーナは思った。
「(結構かわいいところあるじゃん)」
と、その時メノウが突然馬を止めた。
突然のことに転げ落ちそうになるショーナ。
何とか体勢を保ち転落だけは免れた。
「あ、危ないなメノウ!」
「あの広場を見ろ」
「ん…?」
メノウが指差した先の広場、そこにはザリィール帝国の南の軍人達がいた。
しかし、それはショーナ達に対する追手などでは無い。
恐らく、この農村地帯に住む農民たちから税となる農作物を徴収する部隊だろう。
一人の農民を取り囲む数人の兵士。
見つからないよう、近くの廃小屋の陰に隠れ様子を伺う。
「税の徴収のはじまりだ」
「そんな…十日ほど前払ったばかりでは…」
「あぁ!?俺たちが払えって言ってるんだ文句あるのか?」
「ひ、酷い…」
ザリィール帝国の権力を笠に暴徒と化した兵士たち。
おびえる農民たちを脅し、無理矢理農作物を巻き上げようとしていた。
これが南の実態というわけだ。
兵士といってもそこらの盗賊と変わりない。
いや、むしろ権力という笠を持たない分、盗賊の方がマシかもしれない。
「チッ…ムカつく野郎どもだぜ…」
「ちょっと行ってくる…」
「お、おいメノウ!」
その光景を見たメノウが、彼らの前にとび出した。
突然のことに驚く兵士たち。
この辺りに住んでいる子どもでは無い、ということは一目でわかった。
「それが国を守る兵士のやることか!」
「あ、何だこのメスガキ!?」
「お前たちのやっていることは間違いっているだろ、いい加減にしろ!」
「うるせぇ!」
そういうと部隊の隊長がメノウに飛び掛かった。
持っていた槍で殴り掛かるが、その攻撃はメノウに軽く避けられる。
「そんなものかのう?」
軽く挑発するメノウ。
頭に血の上った隊長は、他の兵士達にアイコンタクトで指示を送る。
それ合図に、数人の兵士が一斉に飛び掛かる。
「(やべぇ、今のメノウは丸腰!いくらなんでもあの人数相手は…!)」
だが、そんなショーナの心配は不要だった。
一人の兵士を空高く蹴り上げ、さらに別の兵士の顔面に拳を叩きこむ。
さらに、先ほど蹴り飛ばした兵士の持っていた槍で他の兵士三人を纏めてなぎ倒す。
あの華奢な体からは想像できないパワーと動きに圧倒される隊長。
「く、ぐうぅ…」
「安心せい、どいつも殺してはおらん」
「く、くく…」
そういうと隊長は剣を構えた。
この国の軍隊で採用されている兵士が持つ、平均的な剣だ。
だが、それを見てもメノウの顔に曇りは無い。
「そんなものがわしに当たるとでも?」
「へへ、貴様には当たらなくとも…」
そう言うと隊長は先ほどの農民に剣を向けた。
完全に頭に血が上っている隊長。
もはや正常な判断もできなくなってしまっている。
だが、このままでは…
「コイツを殺すくらいはでき…」
「させるか!」
その時、ショーナが隊長に飛び掛かった。
一瞬体勢を崩したその瞬間、メノウの手刀の一撃が隊長を下した。
その場に崩れ落ちる隊長。
残る数人の兵士たちはもはや戦意を喪失していた。
「おい、こやつらを連れていけ」
メノウの声を聞き、残った兵士は他の兵士たちを荷車に乗せて帰って行った。
いくらザリィール帝国の兵士といえどメノウの前には、烏合の衆にすぎない。
しかし、検問所破りとザリィール帝国兵士への反逆。
メノウとショーナはこの国に来て僅か一日でこれだけの罪を犯してしまった。
ザリィール帝国南の本隊は確実にこの二人の討伐に動き出すだろう…
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数時間後、メノウに敗れた隊長は南の本隊の基地に召喚されていた。
彼の前には筋骨隆々の大柄な男が椅子に座っている。
ここはこの南ザリィールの四つある基地のうちの一つ、『D基地』の隊長だ。
彼はこの基地のリーダーの男であり、その前に隊長は立たせられていた。
リーダーの男は一枚の紙を隊長の前に差し出した。
「お前がやられたというのはこのガキ二人か?」
「…そ、そうです!」
メノウとショーナの外見の特徴が書かれた紙。
検問所から届いたものだ。
それを見ながらリーダーの男が部下に問う。
「成程…」
そう言うと、リーダーの男は近くにいた自身の部下に耳打ちをした。
それを聞いた部下の男は隊長を別の部下と共に捕獲した。
「な、なにを!?」
「俺の部下にガキに負けるような弱小者はいらねーんだよ!」
リーダーの男が石壁を叩きながら叫んだ。
その際の衝撃で壁一面ににひびが入る。
「そ、そんな!それを言うなら検問所の…ゆ、許し…」
そう言いながら、隊長は別室に連れて行かれた。
リーダーと使用人の二人だけが部屋に残された。
妙なほど部屋は静かになった。
ため息をつくリーダーの男。
「酒をとれ」
「はい」
使用人に命じ、酒を運ばせるリーダーの男。
瓶に入った酒を軽く飲み干す。
そして飲み干した酒の瓶を渡し、替えを受け取る。
軽く笑みを浮かべながら、呟いた。
「反逆者か…」
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