第三十八話 目指せ!東のザリィール
アゲートを駆るメノウは僅か数分でリーキュア中央駅に到着した。
ディオンハルコス教団リーキュア支部の事件から、列車の運行に何らかの影響が出るかとも心配した。
だがそんなことは無いらしい。
搭乗者に対する簡単な荷物検査などがあるだけで列車の運行の遅れなどは無いようだ。
おそらく別の列車で来たであろう旅人が数人、閑散とした駅内にいた。
「人も少ないな…」
「あっちの階段を上がって…右じゃな」
中央入口から入ってすぐの広場から駅内を見回す二人。
駅自体が非常に広く、豪華な作りである。
どうやらメノウ達が乗る列車は一番線から出るようだ。
壁にかかれた駅の地図を見ながら一番線を探す。
そうして一番選を見つけた。
そこにはメノウとカツミが生まれて初めて見る物。
そう、『蒸気機関車』があった。
「おお!すごいのう!こんな鉄が動くのか!」
「みたいだな。あたしも実物ははじめてみた…!」
初めて見る機関車に驚きを隠せぬ二人。
外国から技術者を読んで作らせたというこの蒸気機関車。
この大陸でも数少ない、豪華な客室が付いた蒸気機関車とのことだ。
もうすぐ列車の発車する時間。
買い物と手続きを済ませ、ホームへと急ぐ。
アゲートを駅員に預け、馬専用の貨車に乗せると二人も列車に乗り込む。
駅とは違い、列車内には大勢の乗客がいた。
それも見るからに金持ちそうな人物ばかりだ。
「カツミ、手癖の悪いことはするんじゃないぞぃ?」
「流石に場をわきまえるさ。わかってるよ」
そう言うメノウとカツミの前に、係員がやってきた。
どうやら、二人を客室に案内するらしい。
ザクラの用意した切符はご丁寧にも最高クラスの席の切符だった。
この列車自体もザリィーム帝国の中でも一、二を争うほどの高級列車。
個室の用意された客車も当然ある。
「客室?列車に客室があるのか?」
「はい、こちらになります」
客車の個室に案内される二人。
案内されたのはなかなか豪華な部屋だった。
この列車というもの自体が珍しい。
荒廃した世界にこのような列車が運行しているというのも驚きだ。
「列車にこんなモノがはいってるのか…」
部屋の内装に驚く二人をよそに係員は事務的に説明を続けていく。
食事などの代金もあらかじめ切符代に含まれている。
その他諸々…
「では、良い旅を」
そう言い残し、係員は一礼をしその場を後にした。
それと同時にカツミは部屋内を軽く見まわし、不審物がないかを確認する。
だが特に怪しいものは無いようだった。
一方メノウはそんなことを気にせず、部屋に置かれていた食事メニューをみている。
「お~いカツミ、何か食うか?いろいろあるぞ」
列車内ということで対して期待はしていなかったが、その考えはいい意味て裏切られた。
この列車には一流の料理人が乗っているらしくメニューの量、質ともに高水準の物なのだという。
基本的には保存の効く食べ物しかないが、それを使って料理を作っているらしい。
また、出発から数日は生鮮食品も出るという。
「お、本当だ。鮮魚に野菜まであるのか…」
「さて、何を食べるか…」
メニュー表を見ていたメノウにふとあるものが眼に入った。
それは『魚料理』、以前ツッツがトロムの宿屋で注文していたものだ。
意識したわけではないが、ふとその時のことを思い出してしまった。
ツッツを救うという意味も込め、あの時と同じ料理を選択する。
「よし、ワシはこれを貰うぞ」
「あたしも適当に注文しておいてくれ」
係員を呼び、それらを注文するメノウ。
ふと窓の外に目をやると、そこには一面の大海原が広がっていた。
「景色は最高じゃな~」
「この地図によるとしばらくは海が見えるみたいだぞ」
そう言ってカツミは手に持っていた地図を手渡す。
部屋内に置かれていた地図だが、路線図などが詳しく書かれていた。
渡された地図を斜め読みするメノウだが、ふとある記述が眼に入った。
「ん、この列車は一気に東ザリィールまで行くのではないのか?」
「ああ、各ザリィールの中央都市の駅に停車するようになっているらしい」
カツミの言うとおり、この列車はザリィーム帝国内の東西南北のザリィールの中央都市の各駅に停車する。
中央ザリィール以外の全ての地区へと移動できるのだ。
西ザリィールの港町リーキュア、東ザリィールの都市、そして…
「南ザリィールも…じゃな?」
「そうだ、確かお前が住んでいたっていう…」
この列車の路線は西、南、東、北のザリィールの順番で一巡する大きなリング状になっている。
つまり次に停車するのは『南ザリィール』ということになる。
かつてメノウが旅をし、ミーナや黒騎士ガイヤといった強敵と死闘を繰り広げた地だ。
「南ザリィール…か…」
「どうした?」
「南ザリィールは、知り合いも多いのじゃ」
その言葉を聞き、ふとカツミはメノウに対して持っていたある疑問を彼女に対してぶつけた。
前々から持っていた疑問だが、聞くタイミングが無かった。
いや、彼女と出会ってからの怒涛の出来事。
その連続に尋ねるタイミングを失っていたと言った方が正しいだろう。
「メノウ、お前は一体何者なんだ?」
「ん?どういうことじゃ?」
「とぼけるなよ、お前の身体能力に魔力そして知識。それらは明らかに普通の人間のものではない。違うか?」
メノウの特異な能力の数々は通常の人間よりも数段優れた特殊なもの。
それをカツミは、彼女が『異能の力を持つ者たち』だからではないかと考えていた。
しかしそれは謎の女ザクラの行動によって否定された。
メノウは彼女の探し求めている『異能の力を持つ者たち』とは違うのだ。
「お前はいったい何者なんだ?」
「それは…」
カツミの問いに言葉を濁すメノウ。
普段はおどけているメノウの顔が段々と追い詰められたような顔になっていく。
まるで罪人が尋問を受けるような、そんな表情に…
それを見て何かを察したのか、カツミはそれ以上の詮索を止めた。
「まぁ、いいさ。誰にでも話したくないことの一つや二つはある」
「すまんの…」
「あたしこそ悪かったよ。無理に聞き出そうとして…」
「…代わりに、ワシの知っている魔物についての知識を全てカツミに話そう」
「魔物について…?」
「ああ、ワシは以前は魔物の住む森に住んでおったんじゃ」
もし、また魔物との戦いになった時のために予備知識を得ておくことは決して損では無い。
メノウの申し出を断るカツミでは無かった。
ちょうどそれと同時に、先ほど頼んだ料理が彼女たちの元に届いた。
メノウの魚料理とカツミのパンと干し肉だ。
とりあえず食事をしつつ、メノウの知る魔物の知識をカツミは聞くことにした。
「まず魔物についての基礎知識じゃ」
注文した魚料理メノウが言った。
料理にかかっていたソースがさらに滴り落ちる。
そのソースをナイフの先端で広げて、皿の上に簡単な犬の絵を描いて行く。
メノウが先ほどで描いた犬の背に、魚料理に添えられていた細切りの野菜を数本のせる。
先ほどの魔竜が身に纏っていた外骨格の意味だろうか。
「魔物は基本的には、この世界の生き物とは違う見た目をしておるんじゃ」
「ああ、さっきのやつだな」
メノウの住んでいた森に生息する魔物は基本的には動物の姿をしている。
しかし全く同じという訳では無い。
その力は通常の生物のソレを遥かに超える。
種類は千差万別、羅列するだけでも大型肉食恐竜型魔物、小型獣型魔物、棲獣型魔物。
もちろんこれら以外にも多数のバリエーションが存在する。
しかしカツミはそちらよりもさらに気になることがあった。
「…成程、だいたいわかった」
「質問は無いかの?カツミ?」
「そうだな、弱点とかは無いのか?」
「特に無い…」
「何か無いのか?何でもいい」
「強いて言うなら普通の生物と同じく頭や腹に重要な器官があるくらい…じゃな…」
そう言うとメノウはさらに残っていた魚料理を全て口に入れた。
しばらく口をもぐもぐ動かしそれを飲み込む。
メノウが話せることは全て話したのだった。
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