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最高級の最下級少女  作者: 剣竜
第二章 西のザリィール
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第三十三話 偽りの魔術師は魔術師を欺けるか?

 ツッツはここに来てからずっと緊張の糸が張りつめた状態だったためそれが急激に緩んだのだろう。

 壁にもたれかけ、その場に座り込んでしまった。

 時刻も遅く、一気に疲れが来たのかツッツを強烈な睡魔が襲った。

 気付いた時にはツッツはその場で眠りに入ってしまっていた。

 その一方で、既に兵士たちによるリーキュア支部の幹部たちの捕縛はほぼ完了していたようだった。

 幹部たち全員、そして支部長であるアロウズもだ。


「(こんなところで…)」


 王都からの追放後、逃げに逃げに逃げ回り、やっとたどり着いた安住の地。

 それがこの西ザリィールだった。

 彼のような犯罪者にとって、軍などがあまり機能していないこの地はまさに楽園ともいえた。

 自身の力により強固な集団を従えてしまえば、もう敵などいない。

 そう思っていた。

 だからこそ、彼はこのディオンハルコス教団リーキュア支部の支部長となった。


「(それをあんな若造とガキに…!)」


 そんなアロウズに、あるものが目に入った。

 壁にもたれかけ、居眠りをしているツッツだった。

 恐らく疲れて寝てしまったのだろう。

 それを見逃す彼では無かった。

 手に隠し持っていた小さな刃物。

 それを使い、自身を拘束していた紐を切断した。


「え…紐が切れッ…?」


「ジャマだ!」


 驚く兵士を殴り飛ばし、その場から逃走するアロウズ。

 突然の出来事に困惑する兵士たち。

 そのゴタゴタを狙い、アロウズは寝ていたツッツを捕えた。


「え、うわー!」


 ツッツが叫ぶ。

 恐らく逃亡の際の人質として使うのだろう。

 先ほど自分が付けていた高速用の紐をツッツに付けて拘束。

 兵士たちが乗ってきた馬を一匹奪い取った。


「おい、『速く走れ』!『ずっと遠く』までだ!」


 魔法を使い、馬に強力な暗示をかけるアロウズ。

 アロウズ脱走はすぐさまその場にいた全員に衝撃を与えた。

 他の兵士たちが馬を駆り、その後を追いかけた。

 西ザリィーム四人衆のコムギがそれを急いでメノウたちに知らせに言った。


「スートさん、メノウさん!ツッツくんがアロウズに攫われてしまいました!」


「なに!?」


「今、数人のグループが追跡中です!リーキュア市街にも検問を張るよう連絡を入れました!」


 一見正しいとも思えるコムギの行動。

 しかし、今逃走しているのはただの犯人ではない。

 かつて王都にて魔術を学んでいた天才魔術師『アロウズ・トルシード』なのだ。

 並の兵士官など相手になるわけが無い。


「ま、待て!今すぐ全員を戻らせるんじゃ!」


 メノウが知らせに来た兵士官に言った。

 しかし時すでに遅し。

 とっくの昔に追跡していた兵士たちはアロウズの手によってやられていた。

 彼らは全員、アロウズの変身魔法によって犬に変えられていたのだった。

 被害は今のところ数人の兵士にとどまっている。

 しかし、この先アロウズが逃げ続ければ被害はさらに広がり続けるだろう。


「クッ…アゲートォ!」


 メノウがアゲートに跨りアロウズを追う。

 幸い逃げた方向はリーキュア市街では無く山の方面。

 山ならば被害が大きく拡大することもない。

 また、軍馬であるアゲートならばすぐに追いつくことができるはずだ。


「すいません、馬と警棒を一つずつ私に貸してください!私も追いかけます!」


 スートも兵士から馬と警棒を借りその後を追う。

 アロウズの残していった馬の蹄の跡と魔力の残り香、それらを頼りに暗い森の中を追跡していく二人。

 その道中に彼の魔法にやられた兵士隊が確認できた。

 犬に変えられた兵士隊達は全員回収されている。

 今この瞬間だけでも、死者が出なかったのを感謝すべきかもしれない。

 だからと言って逃亡しているアロウズを許すわけにはいかない。

 借りた警棒を構え、魔法を使用する構えを取るスート。


「『青の四』、『春の六十三』、『燕の十八』の三種の魔法の重ね魔法!」


「重ね魔法じゃと!」


 スートは三種の魔法を同時発動するという驚愕の手に出た。

 それぞれが全く種類の異なる魔法を同時に発動するのは至難の業。

 高度瞑想中ならば不可能ではないかもしれない。

 しかしそれを馬での移動中にやってのけるのは、現代の並の魔術師ではまず不可能といっていい。


「『青の四』でアロウズを探し『春の六十三』で遠隔攻撃!それと同時に『燕の十八』でツッツさんの安全も確保する!」


『青の四』は生物がどこにいるかを遠隔透視することができる。

 その後に使用した『春の六十三』は暗示を解く攻撃技。

『燕の十八』は結界のような魔法。

 相性は抜群だ。


「手ごたえあり…!」


 スートが叫ぶ。

 どうやら遠隔魔法攻撃は見事当たったようだ。

 しかし、移動中に高度な魔法を使用したことにより彼の体力は大きく減ってしまった。

 馬から転げ落ちそうになるスートを、アゲートから降りたメノウが受け止める。


「すいません、少し力を使いすぎてしまいました…」


「お、おう」


「後は頼みます、あっちの方向にツッツさんは…」


 そう言い残し、その場で気を失ってしまったスート。

 メノウはスートの指した方向へと歩いて行く。

 そこには『燕の十八』で生み出した結界で包まれ気絶したツッツ。

 そして暗示が解け、呆然とする馬がいた。

 逃亡者アロウズの姿は不思議と見えなかった。


「ツッツ、無事か?」


 メノウがツッツに駆け寄る。

 スートの張ってくれたジャンボシャボン玉のおかげでツッツには怪我一つ無いようだ。

 しかし肝心のアロウズはどこへ姿を隠したのか。

 彼はスートの遠隔攻撃により負傷しているはずだ。


「そう遠くへは逃げられないはずじゃ…」


 よく見ると地面には彼の物と思われる血痕が残されていた。

 それをたどっていくメノウ。

 しばらくすると、左の頬に大きな傷を付けたアロウズが木に手を着いて立っていた。

 馬が暗示から解け振り落された。

 そのせいで負傷したのだろう。


「さっきの魔法はあの若造の…術か…」


「そうじゃ」


「…ヤツはどうした?」


「魔力を使い果たしてダウンしておるわ。しばらくはあのままじゃろう」


 それを聞き、再び体勢を立て直すアロウズ。

 彼はこう考えた。

 今目の前にいるのは、単なる少女に過ぎない。

 負傷しているとはいえ、天才魔術師と言われた自分の魔法を使えばこの少女を人質にまだ逃亡を続けられる、と。


「(この少女の乗ってきた馬は使えないだろうから、適当な乗り物を後で調達する必要はあるな…)」


「どうした?さすがにもう諦めたか」


 そう言ってメノウはアロウズのもとに近づいてくる。

 そして次の瞬間、アロウズはメノウに動きを封じる魔法を使用した。


「『バインド・プレイン』!」


「なッ…拘束魔法…」


 その言葉と共に、その場に固まるメノウ。

 アロウズの魔法『バインド・プレイン』は単なる拘束魔法に過ぎない。

 しかし、この状況では最高の効果を発揮する。

 このままこの少女を人質として逃亡を続けよう。

 そう考え、メノウを抱え上げようとする。

 しかし…


「…甘いわ!」


 拘束魔法を受けたはずのメノウが突如動きだしアロウズを殴り飛ばした。

 突然の出来事に対応できず、アロウズはそれをもろに喰らってその場に伸びてしまった。


「ワシには一切の魔法が効かないんじゃ…『例外』を除いてな…」


 今度こそアロウズは倒れた。

 少ししてこの場に来た西ザリィーム四人衆のコムギの率いる兵士隊。

 彼らによって気絶した彼は回収されていった。

 このリーキュア支部での事件に決着がついた瞬間だった。


感想、誤字指摘、ブクマなどいただけると嬉しいです。

また、この小説が気になった方は応援していただけると嬉しいです!

今後もこの作品をよろしくお願いします。

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