第二話 検問所突破はまずいぜ!?
賊の大男を退けた二人。
ショーナが放浪の旅の途中に『偶然』手に入れた古代遺跡の情報。
そしてその遺跡で『偶然』出会った少女、メノウ。
一体彼女は何者なのか。
賊の大男を倒したあの一撃、そして…
「メノウ、まさかお前が馬を扱えるなんて思ってなかったぜ」
「そうじゃろ、もっと褒めろ」
「有能!有能!」
「ははははははは!」
以前の馬賊が使用していた馬に乗りながら旅を続ける二人。
どうやらあの賊の大男は騎馬隊崩れの元軍人だったらしい。
どこからか馬を奪い、自身の脚として使用していたのだ。
そして、これまた不思議なことだが馬の方もメノウにすぐ懐いた。
出会ったばかりにもかかわらず、まるで昔からの友人のようだ。
「それにしてもお主…」
「さっきから『お主』、『お主』って…」
「何か問題でもあるか?」
「一応俺にはショーナって名前があるんだよ」
「う~ん…面倒じゃな」
「そうかよ」
「好きに呼んでいいじゃろう、別に」
「まあな。呼びやすいように呼んでくれ」
話している間も馬の脚は進む。
最初は少し不安だったが、馬賊との戦いや馬の扱いを見る限りメノウは只者ではない。
もしかしたら、一人で放浪の旅するよりもずっといいかもしれない。
それになにより、『話し相手がいる』というのはいい。
退屈もしないし、何より孤独も感じない。
「そういえばお主、何で追われていたのじゃ?」
「ああ、それは…」
そう言ってショーナは、懐からあるものを取り出した。
それは瓶詰の砂金だった。
先ほどの賊が狙っていたものだ。
「アイツ、これを狙ってたんだ」
街の小さな商店で取引をしていた際だった。
うっかり賊の男にこの砂金を見せてしまった。
それで襲われた、という訳だ。
「砂金か」
「ああ。昔、友人がくれたんだ…」
ショーナは少し昔の話を始めた。
砂金を集めるのが趣味の友人がいたこと。
友人と自分の二人だけが、砂金が取れる川があることを知っていたこと。
その友人がくれた宝物がこの砂金だったこと…
「そうか、大切なものだったんじゃな」
「ああ。アイツはいざというときはこれを売れって言ってたけど…」
大切な友人との思い出の品だ。
売ることは出来ない。
そうショーナは言った。
「その友人は今どうしている?」
「遠いところに行っちまったよ」
「あ…」
その友人が最後にくれた宝物。
それがこの砂金だった。
悪いことをきいてしまった。
そう感じるメノウ。
しばしの間、沈黙が続く。
メノウは、慌てて話題を変える。
「ところで、これからどこか行くアテはあるのか?」
「無い。まぁ、こんな世の中だ、安住の地が見つかるまで旅をつづけるよ」
「行き当たりばったりじゃのう…」
「まぁ、確かに行き当たりばったりだよなぁ…」
今考えてみると確かに行き当たりばったりな旅だった。
まともな武器等もたず、少しの道具を持っただけ。
自身も全く闘いの経験も無い。
以前のように賊に襲われたらただ逃げるしかない。
「(はぁ…)」
心の中でため息をつくショーナ。
と、その時メノウの馬か足を止めた。
「どうしたんだ、メノウ?」
「人がいっぱい並んでおる」
「面倒だな…検問所じゃねぇか…」
「けんもんじょ…?」
「この先はザリィーム帝国の『南の地区』、他のエリアから来た人間を検問してるのさ」
ザリィーム帝国は『中央』を中心に東西南北の地区に分けられた、広大な地域を支配している帝国である。
古代遺跡のある森は、ザリィーム帝国の支配エリアの範囲外の地区。
そのエリアから来たショーナ達はこの検問所を通らないといけないのだ。
仕方なく、検問所の順番待ちの列に並ぶ。
「ザリィーム帝国は強大な力を持つ国だ。国の防御を固めるために検問所をたくさん置いているんだ」
『中央の地区』には王の統治の下に政府が置かれ、比較的豊かな生活を送る者が生活している。
一方、その周囲の『東』『西』『南』『北』に分けられた四つの地区は中央地区に住めない者が暮らしている。
そして、東西南北の地区に住む人々から徴収した税金などは中央地区へ送られる。
「それにしてもたくさん人がおるのぉ…時間がかかりそうじゃわい」
「そうだな…」
メノウが言った。
その時、ザリィーム帝国の兵が数人ショーナ達の下へやってきた。
検問の順番はまたまだ先のはずだが…
「少しいいかね?」
「なんじゃい?」
「その馬を少し見せてもらえないか?」
兵士がメノウの馬を調べ始める。
ショーナは無性に嫌な予感がした。
「やはりこの鞍や轡…」
「…?」
「これは我がザリィーム帝国の軍馬の物、貴様ら一体どこでこれを!?」
メノウの馬は元々は賊の大男の馬。
恐らくその賊はザリィーム帝国の軍馬を何らかの方法で手に入れたのだろう。
もちろん、ショーナ達はそんなことは知らない。
しかし、この状況では何を言っても無駄だろう。
「少し話を聞かせてもらおうか…」
ショーナ達を連行しようと取り囲む兵士たち。
その時、メノウが小声でショーナに呟いた。
「ショーナ…」
「…どうした?」
「つかまれ!」
メノウが叫ぶと同時に馬を瞬間加速させる。
取り囲んでいた兵士たちを退け、検問所を飛び越えるメノウの馬。
そしてそのまま南の地区の敷地内へと侵入していった。
残された兵士たちはあまりの出来事に呆気にとられ、他の検問所に並んでいた人々は一時パニック状態になっていた。
ここはあくまで検問所であり、メノウたちの追跡にまわせる人員は無い。
「検問所破りをすぐ南ザリィームの本隊に伝えろ!」
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