第二十六話 賞金稼ぎ
あくまで今日は二つの組織のアジトを確認し、構成メンバーや構造などを把握するだけにとどまった。
思っていたよりも二つの組織を相手にするのは難しいものだ。
そう思いながら、アゲートに乗り一旦帰路に着く二人。
だがその道中、メノウはある物を見つけた。
「ん、あいつらは…」
「どうした?」
「ツーシー一派の連中が商人を襲っておる…!」
恐らくイオンシティに向かう途中だったのだろう。
商人の馬車をツーシーの一派の者達に襲われていた。
棍棒や古びた剣を振り回し、商人を威嚇している。
この隊の隊長と思われる眼帯の男が大鉈を振り回す。
「お、おい!やばいぞ!」
「ウェーダー助けに行くぞぃ!」
「ああ!」
少し距離があるが、アゲートの脚力なら数分でたどり着く。
それまで持ちこたえてくれればいいが…
砂煙を上げ、荒野を疾走するアゲート。
馬車の中に乗っていた商人の男とその家族が外に引きずり出されている。
全員を縄で縛りあげる盗賊たち。
抵抗を封じるため、そして後々奴隷として外国へ売りさばくのだろうか…?
「クソッ!」
ウェーダーが腰につけていた銃を構える。
彼の自作の銃であり、弾が拡散し非常に高い殺傷能力を持つ。
もっともこの距離、しかも馬上からの狙撃であるため当たりはしない。
威嚇目的だろうか。
しかし、彼の発砲をメノウが制止する。
「よせ!」
「大丈夫、この距離じゃあたら…」
「奴らはワシらに気付いていない、もし気づいたらあの人達を人質に取るかもしれん!」
見たところ、商人の男の他には妻と思われる女性が一人。
そして息子が一人と娘が二人いた。
その奥には老婆も見える、祖母だろうか。
確かにあの人数を人質にとられては満足に戦うこともできない。
ウェーダーは銃を下げた。
「見たところ奴らは銃の類は持っていないようじゃ、うまく奇襲をかけることができれば一瞬で制圧できるはず」
「よし、なら…」
そう言ってウェーダーがアゲートから飛び降りる。
近くの岩陰に隠れ、物音を立てぬように少しずつ近づいて行く。
一方、メノウは敢えてアゲートに大きな足音を出させるようにした。
ウェーダーの考えを一瞬で把握し、自分たちを囮にしようと考えたのだ。
その足音に気付いたのか、ツーシーの一派の盗賊たちが慌てふためく。
「お、おい!馬が来たぞ!」
「なんだ、乗ってるのはガキじゃねぇか!ぶっ潰せ!」
盗賊たちの注意が商人一家と積荷からメノウとアゲートに移る。
先ほどの行為だけでは物足りなかったのか、各々が武器を構えメノウ達を威嚇する。
一方、ウェーダーは岩陰から岩陰へと移動し商人一家の下に近づく。
そして最も話しかけやすく、盗賊たちから目立たない位置にいた商人の男に話しかけた。
「…おい」
「ひッ!?」
「騒ぐな、助けに来た」
そう言ってウェーダーは懐から取り出した小型のナイフを彼に手渡す。
拘束に使われている古縄程度ならすぐに切断できるだろう。
それを使い縄を切っている間に遠くへ逃げるように促す。
全員が縄を切ったのを確認すると、ウェーダーは物陰から勢いよく飛び出した。
そして、銃を構え盗賊たちに向かって叫ぶ。
「さっさと消えろ!盗賊ども!」
「あれは銃…!」
「…ッ!」
「そうだ、一発でお前たちを殺せる武器だ」
銃を見た盗賊たちは大人しく武器を捨てていく。
鉈、棍棒など様々ながその場に転がる。
自分たちには、ウェーダーの持つ銃に勝てる武器が無いと悟ったのだろうか。
それにしては妙に物わかりが良すぎる。
奇妙に思いながらも、盗賊たちがその場に捨てた武器をメノウが回収していく。
だがその時、一人の盗賊がメノウを捕えた。
この部隊を率いる眼帯の男だ。
「お前も武器を捨てろ!」
「な…!」
メノウを脇に抱え、服の袖に隠していた仕込み刀を彼女の首筋にあてる。
ウェーダーの銃は近距離では非常に銃弾が拡散する性質を持つ。
それが殺傷能力の高さに繋がるのだが今のような状況ではとても使いづらい。
仮に撃ったとしても、隊長だけを撃ち殺すことはできないだろう。
そればかりか、高確率でメノウにも銃弾が当たってしまう。
「…」
銃をその場に捨てるウェーダー。
隊長はそれを拾い上げようとかがみこもうとする。
この時代、銃などの武器は軍や騎士団、都市の警備隊など極々一部の者にしか手にできない代物。
量産もあまり効かず市場に出回ることも少ない。
自作品とはいえ、彼の眼にはとても魅力的なものに写ったのだろう。
だが…
「ほら!」
「うぎぇッ!?」
抱えられていたメノウが力を一気に込め、彼の腕の関節を外し脱出した。
突然の出来事に一瞬であるが、その場の全員が戸惑いを隠せぬ。
隊長も、ウェーダーも、そして盗賊全員も。
さらに、挑発するようにメノウが言う。
「子どもだからといって油断したらいかんぞ」
「うくく…うがぁ!」
それを聞きやけくそで先ほどの仕込み刀でメノウに突撃を仕掛ける隊長。
もっとも、メノウにとっては避けられぬ攻撃でも無い。
カウンターを仕掛けるべく構えを取る。
だがそのメノウの攻撃は不発に終わる。
「おいおい、誰か忘れてないか?」
ウェーダーが先ほど捨てられた棍棒を拾い上げメノウの前に立つ。
それを使い隊長の仕込み刀を叩き折り、腹に拳を叩きこんだ。
思わぬ一撃を受け、その場に倒れこむ隊長。
「コイツを連れてとっとと帰れ!」
「ひ、ひぃぃ!」
できれば捕えて軍に渡したかったが、今は商人一家のこともある。
とりあえず彼らを一旦安全なイオンシティまで送り届ける方が先だ。
盗賊たちは意識を失った隊長を連れ、そそくさとその場を去って行った。
「危なかったな」
「ありがとうございます!助かりました」
「本当にありがとうございます!ほら、みんなも!」
商人の男と老婆に言われ、散らばった荷物を馬車に戻していた子供たち三人と妻がウェーダーとメノウに礼を言う。
彼らは元々イオンシティを目指していたため、このまま行くらしい。
「歩いて行ける距離でしょうか…?」
「アゲート…軍馬でも数時間はかかる距離じゃ。結構きついと思うぞ」
「そうですか。大切な商品をこのままにしておくわけにもいかないし…」
「さっきの盗賊らに元に戻させればよかったわ…」
食品等もあるため、できればイオンシティに早く届けたかったようだ。
だが馬車は完全に横転してしまっている。
イオンシティから人員を連れてこようにも時間がかかる。
だがその時…
「手を貸そうか?」
そう言ってその場に現れたのは、スキンヘッドに筋骨隆々の男。
ティラー団の頭であるティラーだ。
たまたま馬で走っていたところ、メノウたちとツーシーの一派の部隊の戦いを目撃。
その一部始終を見ていたのだ。
力を入れ、横転した馬車を押し戻すティラー。
「ツーシー一派には俺達も困っていてな…」
そう言って彼は、自分と自分の組織であるティラー団の紹介を始めた。
「俺はガキには手を出さないが、あいつらは平気で手を出す!それが許せん!」
そういうティラー。
しかしウェーダーはそれが嘘であることを知っている。
以前、別の町でそう聞いたことがあった。
「なぁ、アンタらもしよければ俺達と一緒にツーシー一派と戦ってくれねぇか?」
当然そんな誘い受けるわけが無い。
そう言おうとするウェーダー。
だが…
「いいぞぃ!」
メノウはあっさり了承した。
イオンシティの用心棒の件はどうなったんだ、とでも言いたげなウェーダー。
しかし、メノウがウェーダーに小声で語りかけた。
彼女は何か思いついたようだった。
「ワシに一つの案があるんじゃが…」
「…本当か?」
「ああ、まずな…こうして…それで…ほならね…」
メノウの作戦を聞き、目を丸くするウェーダー。
ただの子どもだと思っていたが、意外と頭も回るようだと再確認する。
「成程…」
「ここからは二人別行動じゃ、お前さんも頼むぞ」
「ああ、わかった…」
そう言ってウェーダーは商人たちを送り届けると言ってその場を去って行った。
ティラー団に協力するのはメノウ一人、ということになった。
一方のメノウは、ティラーと共に彼らのアジトへと向かった。
商人の男の馬車に乗りながらウェーダーは流れゆく景色を見つめる。
そんな中、彼は小声で呟いた。
「よし、アイツの作戦に乗ってやるか…」
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