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最高級の最下級少女  作者: 剣竜
第二章 西のザリィール
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第二十三話 疾風の少女

 アゲートとメノウの活躍により、村を襲った二人組の盗賊ラーヴとサチを退けることに成功したメノウ。

 センナ―の町の人々から礼も貰い、一時中断した旅を続けることに。

 だが、その旅に何故か新たな仲間が加わったのだ。


「何故にお前さんがついて来る?」


「いやぁ、見聞を広めたくて…」


 砂漠のオアシスにできた小さな村に住んでいても決して楽しいものではない。

 もっと広い世界が見たい。

 そう考えたツッツはメノウの旅に同行することとなった。


「(あやつと似たようなことを言いおるわ…)」


 メノウの脳裏にかつて共に旅をした『あの少年』の姿が映る。

 ツッツのそれは偶然にも、彼と同じ動機だったのだ。

 勇気ある少年の成長をかつてメノウは目撃した。

 今回の旅でもそれを見られるのか、そう思うメノウ。

 しかし村から旅立ち数日後…


「うわぁぁぁぁぁぁ!」


 ツッツがメノウの駆るアゲートの背中に乗りながら叫ぶ。

 二人は今、荒野にて巨大ワームと遭遇したのだ。

 全長10mはあるであろうこの魔物の名は『ザリィール・ヘルワーム』。

 西ザリィールの砂漠地帯にしか生息しない狂暴な魔物

 今、ツッツとメノウのいるような地域…

 砂漠とも荒野ともつかない場所にはよくあらわれるという。


「まさかこんなところで魔物と遭遇するとは!」


「魔物!?この時代にそんなのがいるなんて!」


 情けない声で叫ぶツッツ。

 元軍馬のアゲートですら、気を抜けば追いつかれるかもしれないほどのスピードでザリィール・ヘルワームが追いかけてくる。


「も、もっとスピード上げてください!追いつかれちゃう!」


 その巨大な体を、獲物を確実に仕留めるために器用に動かしているのだ。

 巨大な砂埃を上げながら徐々に近づいてくる。

 このままではいずれ追いつかれてしまうだろう。


「どれ、ワシが降りてアイツと…」


 ツッツがメノウを止める。

 彼はメノウと出会ってまだ日が浅い。

 かつての『南ザリィールでの戦い』も知らず、唯一の戦いも盗賊のラーヴに放った一撃のみ。

 ツッツはメノウがどれほどの強さを持っているのか知らなかったのだ。


「やめてー!」


 ツッツがそう叫んだその時だった。

 逃げるアゲートと追跡してくるザリィール・ヘルワームの間に何者かが割って入った。

 砂除けのボロ布を纏った『ソイツ』。

 あわただしい状況であるとはいえ、メノウも割って入った『ソイツ』の気配はつかめなかった。

 その目で見て初めて、『ソイツ』を認識できたのだ。


「(あの者、なかなかやりおるのぉ…)」


「これから命助けてやるってんだ、当然礼はしてもらうぜ」


 そう言うと、『ソイツ』は纏っていたボロ布を脱ぎ捨てた。

 ボロ布の中から現れたのは一人の少女。

 猛禽類のような鋭い眼、荒野を流れる風と燃え盛る炎のように美しい朱色の髪を持っていた。

 逃げるそぶりなど一切見せず、そのままヘルワームを見つめる。

 ザリィール・ヘルワームの注意はメノウ達から『ソイツ』へと移っていた。

 そして次の瞬間、大地を思い切り蹴りその体を宙に舞わせた。


「はッ!」


 少女が叫ぶ。

 それと同時に、一陣の風が荒野を吹き抜ける。

 そして…


「あ、あれは!」


 ツッツが叫ぶ。

 それも無理は無い。

 全長10mはあるであろうヘルワームは、少女の放った『何らかの技』によって無数の肉片に姿を変えていた。

 その場に崩れ落ちるザリィール・ヘルワームだった肉片。


「いくらヘルワームといえどタダの虫。アタシの敵では無いさ…」


 そう言うと少女はメノウたちの方へと歩み寄ってくる。

 ツッツはその少女に駆け寄り礼を言う。


「あ、ありがとうございます!」


 だがその時、ツッツは妙な違和感を感じた。

 この少女の顔…

 それはとても人を助けるような善良なる人間の面構えなどでは無い。

 腐肉を貪る鷹のような濁りきった眼をしていた。

 並みの盗賊など裸足で逃げ出すほどの悪人の面だ。


「修道女と付き人のガキか…」


「へ?」


「おい、そこの修道女!」


 少女がメノウを指差し叫ぶ。

 もっとも、メノウは修道女ではないのだが。


「…ワシか?」


「そうだよ」


「ワシがどうかしたか?」


「せっかく助けてやったんだ、何か礼くらいしてもいいだろう?」


 少女が指を二本立てながら言った。

 租に対しメノウが冷たく言い放つ。


「なんじゃお前さん、それは」


「…てっとり早く言う。金を置いていけ」


 少女の狙い、それは助けた礼として金を頂くことだった。

 裕福そうな旅人ならば金を要求し、そうでなければ食料と水を頂く。

 言われた側は、一応『助けられた』という恩もあるため無下に断ることもできない。

 もし何も渡さなかったとしても、『正当な報酬』として旅人から物資を奪い取る。

 それが荒野を旅するこの少女のやり方だ。


「もってないわ、そんな金」


「…修道女だから金目の物くらいあるかと思ったがな」


「残念じゃが、修道女では無いんでな」


「ならお前ら二人の有り金と食料、水。全部纏めていただくまで!」


 そう言うと、少女はツッツを飛び越え、馬上のメノウに向かって飛び掛かった。

 右腕で手刀の構えを取り襲い掛かる。


「はッ!」


 奇声を上げ、彼女の手刀が空を切り裂く。

 同じくメノウも跳び上がり、空中で彼女の手刀を受け流す。

 地上に着地し、対峙する二人。

 だが、かわしたにもかかわらずメノウの頬に一筋の傷がついた。

 魔法の類を手刀と同時に使ったわけではない、この技は…


「その技、東方大陸に伝わる古武術の奥義の一つ…じゃな?」


「見破られたか…」


「珍しい技じゃからの、すぐにわかった」


「疾風を操り、幻空と現空の差圧によって万物を切り裂くのさ!」」


 少女が再び手刀の構えを取りその手を振りかざす。

 その衝撃が斬撃となりメノウを襲った。

 もっとも、今の技はただの牽制、本気でメノウ当てる気はなかったようだ。

 しかしその攻撃によりメノウの後ろにあった岩に大きな傷跡が残った。

 もしこの一撃を喰らえば、単なる怪我では済まないだろう。


「お前さん、名は?」


 メノウが訪ねる。

 これほど腕の立つ者は久しく見ていない。

 南ザリィールでの『あの戦い』以降…


「あたしの名は『カツミ』、東洋の文字で『美しい勝利』という意味だ」


「いい名じゃな」


「そんなことはどうでもいい。しかし、牽制の一撃とはいえかわすとは…」


「ふふ」


「お前たちも『あの話』に乗ったクチか?」


 カツミが言った。

 メノウ達は目的地の無い流浪の旅をしているだけ。

 特に何処かを目指しているわけでもないのだが…


「あの話?」


「まぁいい、とりあえずお前らを始末して荷物を頂く!はッ!」


 そう言ってカツミが再び斬撃波を繰り出す。

 今度は両手から放たれた二つの斬撃波がメノウを襲った。

 何とか避けるメノウ。

 だがその隙を突き、カツミが一瞬で間合いを詰める。

 そしてメノウの腹に強烈な一撃を叩きこんだ。

 腹を押さえ、その場に手をつくメノウ。


「なかなかやる…のぉ!」


 カツミの放つ斬撃波は確かに厄介だ。

 近接戦闘に持ち込んだとしてもその斬撃波を警戒しながら戦わなければならない。

 ならば…


「久しぶりに魔法を使ってみるか…!」


 そう言うと、メノウが小声で何かの呪文を詠唱する。


「(魔法の類!?やばい!)」


 カツミはそれを見て速攻で勝負を仕掛ける。

 魔法の種類によってはこのまま持久戦に持ち込まれる恐れがある。

 仮に回復魔法や風を打ち消す魔法などならばカツミ側に不利になる。

 斬撃波ではなく、掌底からの衝撃波によりメノウを気絶させようと目論むカツミ。

 一瞬でメノウの間合いに入り衝撃波を放とうとするが…


「魔法…やっぱりキャンセル!」


「なッ…!?」


 呪文の詠唱を突如止め、メノウはカツミに強烈な一撃を放った。

 元々高速戦闘が得意な彼女に魔法を当てられるとは思っていなかった。

 そして真の目的であるこの一撃への囮として使った。

 もっともここまで魔法を警戒してくるとは想定外だったが。

 何とかその拳を受け止めるが、更なる連撃がカツミを襲う。


「(対抗手段が追いつか…ない!)」


 初弾を止めても後続の攻撃をまともに喰らってしまう。

 メノウの放つ全ての攻撃を避ける手段は無い。

 全身に複数の拳を叩きこまれ、数メートルの距離を吹き飛ばされてしまう。

 さらに追撃とばかりに距離を詰めるメノウ。

 この攻撃を避ける手段は無い…


「ならば避けない!」


 メノウの拳が直撃する瞬間、カツミは掌底からの衝撃波を放った。

 それにより二人が吹き飛ばされ、改めて間合いを取る。

 お互いのポジションは最初の位置に戻った。

 しかし、その体のコンディションまではそうはいかない。


「(今の衝撃波で…体がガタガタになっておる…)」


 先ほどの衝撃波はガードができずほぼまともにうけてしまった。

 メノウの全身の骨が軋む。

 だがそれは彼女だけではない。

 全身に拳を叩きこまれただけではなく、自身の放った衝撃波の反動もダメージとしてカツミの体に蓄積されている。

 二人とも受けたダメージはほぼ互角。

 若干カツミの方が重い…だろうか?


「(このまま戦いを続けるのはマズイな…)」


 戦いを続ければやがて消耗戦となる。

 たとえ勝ったとしても大きな傷を受けることは確実。

 しかし今いるのは荒野のど真ん中。

 戦いの傷が癒えぬ状態では野たれ死ぬのみ。

 そう考えたカツミは構えを解き、メノウに対し降伏の姿勢を見せた。


「このあたしと互角に戦うとは。こんな人間はとても久しぶりだ…」


「何のマネじゃ?」


「このまま戦っても互いに消耗するだけ、違うか?」


 少なくとも今のカツミに戦意は無い。

 彼女から殺気が消えるのを感じたメノウは同じく構えを解いた。


「一旦ここは退いてやるよ、ヘルワームの件は貸しにしておいてやる」


 そう言ってカツミは後ろを向き歩いて行く。

 彼女も同じく、メノウから闘志が消えるのを感じ取ったのだろう。

 そうでなければ背など見せない。

 だが、去り際に一つの言葉を彼女は残していった。


「貸しは必ず返してもらう。必ずな」


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今後もこの作品をよろしくお願いします。

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