第二十一話 風の旅人メノウ
永遠に続くかとも思われた長い一夜が明ける。
海から昇る朝日を、メノウ、ショーナ、ミーナの三人は城の残骸から眺めていた。
一睡もしていないせいか妙に太陽の光が目に染みる。
「終わったか…」
「そーだなぁ~」
イーガリスの圧政は終わりを告げた。
マーク将軍はテリーを病院に運んだ後、そのことを直ちに南ザリィール中へと連絡。
混乱を生まぬよう対応を急いでいる。
現在の圧政から、かつてのYK・ニック公の行っていた方式の政策にもどすと発表した。
もちろん、そう簡単にいくことでもないため徐々に戻していくといった形になるだろう。
アズサは一足先に帰った。
ある意味この戦いの一番の功労者だけに何か礼の一つでもしたかったが、彼女はそれを拒否した。
『隠密ってそういうものじゃないのよ』
そう言い残して。
これからこの南ザリィールがどうなっていくかはわからない。
だが、一つ言えるのは以前よりも平和になるということだろう。
「思えばメノウと会ってからいろんなことがあったよなぁ…」
旅の途中で古代遺跡の噂を知り、そこでメノウと出会った。
南ザリィール中に指名手配され、様々な者達と戦う。
そして軍の総攻撃を退け、シークマントへ到着。
圧政を敷く軍閥長を倒した…
帰還にしてはおよそ数か月程度だが、その時間は非常に長くとも、ほんの一瞬のようにも感じた。
「なぁ二人とも、これからどうする?」
ショーナが訪ねた。
三人の旅の目的、それは指名手配の追っ手から逃れ、イーガリスによる圧政を終わらせること。
だが今となってはその両方が果たされた。
「俺は旅を止めてこの街に住むことにした!」
ショーナはこのシークマントの地に住むと決めた。
一応、イーガリスによる圧政を終わらせこの地に平和を取り戻した英雄の一人。
マーク将軍が多額の礼金と住居などを提供してくれるという。
元々、彼は理想の住処とあわよくば一攫千金を求めて旅をしていた。
この申し出を断ることは無かった。
「アタシはザリィール帝国側に戻るよ。将軍が用意してくれた、前までと違うまともな仕事させてもうんだ」
ミーナは元々はザリィール帝国側の人間。
以前はC基地の司令官という、年齢の割に重い仕事をしていた。
だが今度からは適材適所の仕事が与えられるらしい。
「ワシは…」
メノウの旅の目的、それは世界を見て回ること。
あの古代遺跡から出て広い世界を見る。
その思いは今でも変わらない。
以前、旅の道中の酒場の店長に預けてきたアゲートも引き取りにいかねばならない。
「ワシは旅を続ける、まだまだいろいろと見たいからのぉ」
「マジか…?」
「ああ、やり残したこともあるしな」
それを聞き、ショーナが引き留めようとする。
旅などしなくても、この街で暮らしていけばいい。
アゲートも後で引き取ってみんなで暮らそう。
そう言うショーナ。
だが、メノウの思いは変わらない。
「このまま、だらだらと別れを引き延ばすのも辛気臭いなぁ~」
そう言うと突然、城の残骸から地面に飛び降りるメノウ。
「じゃあな~」
そう言ってメノウは去って行った。
とても…
とてもあっさりとした別れだった。
わずか数秒の別れ…
「メノ…」
「もう止めなくていいよ」
呼びとめようとするショーナをミーナが止めた。
彼女には彼女の道がある。
それを止める権利など誰にも無い。
「…また会おうな!メノウーッ!」
「またのぉ~!みんな~」
「絶対会いに来いよー!」
「ああ!」
メノウの姿が上る朝日に溶けて消えていくように見えた。
その時まで三人のやり取りは続いた。
「じゃあな、メノウ」
この後メノウはどこへ行くのだろうか?
アゲートを引き取りに行ったその後は?
ザリィール帝国内を旅してまわるのだろうか?1
「大丈夫かな?メノウのヤツ…」
「わからないよ、ただ…」
ミーナは一つ気がかりなことがあった。
メノウの身体能力や回復能力は明らかに常人のそれではない。
以前ミーナと共に爆弾を喰らった際はメノウのみ回復が異常に早かった。
かと言って魔法の類を自身に使用しているわけでもない。
「『異能の力を持つ者たち』はザリィールの民に忌み嫌われる…」
そっと呟くミーナ。
ザリィールの民は『異能の力を持つ者たち』と呼ばれる存在を忌み嫌う。
それは通常の人間よりも数段優れた特殊な力を持つ存在。
ミーナや黒騎士ガイヤのように修行を重ね強くなった人間とはわけが違う。
「お前がそうであろうとなかろうとアタシ達の思いは変わらない。けど…」
もしメノウが『異能の力を持つ者たち』であるなら、その旅はより険しい道程となるだろう。
その力を悪用しようとする者。
迫害する者…
「気をつけろよメノウ…」
ミーナの言葉が風の中に消えていった…
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数日後、メノウは以前立ち寄った酒場のある村へ訪れた。
アゲートを引き取りに来たのだ。
「ありがとな」
預ってくれていた酒場の店長に礼を言うメノウ。
アゲートに跨り手綱を引き、店長から買った食料と水を載せる。
この村から、とりあえず別の地区のザリィールを目指すという。
「次はどこへ行くんだい?」
「さぁの。西か、東か…」
目的地など無い。
ただ気ままに旅を続ける。
当分の目標はそれだ。
気の向くままに行くのだ。
と、その時…
「久しぶりだな、相棒…」
そう言って、メノウの前に現れたのはならず者集団のリーダー、アシッド。
以前もメノウを自身の仲間に加えようとした男だ。
もっともその時はミーナに撃退された。
二度目もメノウにやられていた。
よほど懲りぬ男なのだろうか、ただ学習しないだけなのか…
「お前さんも懲りぬやつじゃのぅ…」
メノウが呆れたように言う。
前回あれだけ酷くやられて置きながらまだ来るとは流石に思いもしなかった。
だが、今回のアシッドは何かが違う。
「へへ、今回は助っ人を呼んであるのさ。リベアーブ先生!お願いします!」
そう言うと、物陰からリベアーブと呼ばれた男が現れた。
手入れの行き届いた剣を持った薄汚い男だ。
恐らく騎士団崩れの傭兵と言ったところだろう。
この時代にはこう言った者が多いのだ。
騎士団時代を忘れられず剣は手入れしているものの、鎧などは生活苦で売ってしまい野盗や傭兵に落ちぶれる者が。
「おいおい、こんな子供のために俺を雇ったのか?」
「は、はい。よろしくお願いします」
「まぁいい。かつてザリィール帝国騎士団時代はあのガイヤと同格と言われた俺の剣技を…」
リベアーブの言葉はそこで途絶えた。
彼の身体は吹き飛ばされ、遥か先の建物の看板に叩きつけられていた。
そして先ほどまで彼がいた場所には、拳を構えたメノウの姿があった。
「何がガイヤじゃ、あいつの足元にも及ばんわ」
「ひ、ひぃ…メ、メノウ、お前は一体…?」
この少女は普通ではない。
今まで何度か戦ってきたが、改めてそれを実感するアシッド。
思わずその言葉が口からこぼれる。
「ワシはメノウ、それ以外の何物でもないわ」
それだけ言い残すと、彼女はアゲートを駆りその場から去って行った。
既にアシッドは戦意を喪失。
リベアーブも戦闘不能。
この場に長居しても無駄なだけだ。
アゲートのスピードを上げ、山の向こうのまだ見ぬ地へと期待を膨らませる。
「さぁて、次はどこへ行こうかのぉ!」
メノウの長く、険しい旅か始まった。
強者達の戦いの悲劇に巻き込まれていくことも知らずに…
第一章はこれで完結です。
次回からは二章が始まります。
そこまで長い話ではありませんが、よろしくお願いします。
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