第十六話 漆黒の騎士ガイヤ
アズサの案内の下、シークマントの観光をすることとなったメノウ。
変わった店も多く、興味を引くものばかりだった。
夕方という時間帯であるためどの店も客足が多いようだ。
「ここら一帯は食い物屋ばかりか」
「別にこの街は遊郭だけの街じゃないからね」
そう言いながら外食店の多い街並みを抜け、二人は都市開発地区へと出る。
ここを抜けていかなければ中心街へは出られないのだ。
この辺りは一部が市街地として開発されておらず古い街並みが残っている。
だが人が住んでいるわけではない。
いずれ取り壊され、更地になる予定の場所だ。
「少し気味が悪いのぅ…」
「少ししたら大通りに出るよ」
そう言いながら都市開発地区を歩く二人。
今にも崩れそうな建物が立ち並びんでいる。
まだ夕方だからいいが、日が落ちた後のこの道はあまり歩きたいものではない。
だがそんな中、メノウは一つだけ不思議な建物を見つけた。
廃墟と化した建物の中に、大きな古びた洋館があるのだ。
明かりが僅かに灯っていることから、誰かが住んでいるのだろう。
「あれかい?あれは今の前軍閥長、『YK・ニック公』の住む屋敷だよ」
「前軍閥長…」
「そ!今の軍閥長の父親でもあるけどね」
その割には貧相で不気味な建物だ。
廃墟の中に建てられているというのも変な話である。
もっとも、アズサによると前軍閥長であるニック公は今度別の地区に引っ越すらしい。
「西だったか東のザリィールだったか…あたし最近の話に疎いからわからないなぁ…」
「…お!明るい場所に出たぞ!」
都市開発地区を抜け、ようやく街の大通りへと出る。
大通りでは軍閥長の戦勝を祝う式典パレードが行われていた。
豪華な出し物や屋台が立ち並び、まるでお祭り騒ぎのよう。
「あれ?今日ってお祭りだったっけ?」
アズサが言った。
この式典自体が軍閥長により急きょ開かれたもの。
殆どの街の人々も本日このような祭典が行われることは知らなかった。
「…これみたいじゃな」
メノウが足元に落ちていた一枚のチラシを拾い上げた。
それは、誰かが捨てていった戦勝式典のチラシ。
この戦勝式典が何故行われたか、などが事細かに書かれていた。
極東の国の文字で書かれていたものだったため、アズサがそれを読み上げた。
そこには、メノウ達のことが掲載されていた。
「あれ?このチラシだとあなた死んだことに…!?」
「ワシらは死んでない、相手側が勘違いしただけじゃよ」
結局、あの作戦の犠牲になったのは南ザリィール軍の兵士たちだけ。
無駄な同士討ちだったというわけだ。
そのことについて何か掲載されていないかメノウが訪ねた。
しかし、どうやらそのようなことには一切触れられていないらしい。
「ま、都合の悪いことをわざわざ書く訳ないのぅ…」
「そんなことがあったなんて…」
そう話しながら歩いているうちに、二人は軍閥長の城の近くまで来ていた。
式典があるとはいえ、さすがに城には入れない。
さっさと街へ窓ろうとするアズサ。
だが、メノウはその場から動こうとはしなかった。
彼女は、この場である決心をしていたのだ。
「(恐らく、今なら城の警備は手薄…)」
軍閥長は今、戦勝式典で浮かれている。
街中に警備兵などを置かなければならないため、城の警備は薄くなっているはず。
さらに、一部の兵士は士気も下がっている。
軍閥長の首を取るなら今しかない。
「アズサ、少し頼みたいことがあるんじゃが…」
「ん?なに?」
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アズサと街で別れ、一人で城に侵入したメノウ。
警備兵を倒し軍閥長の部屋を目指す。
ショーナとミーナはいない。
今ならあの二人は自由な状態。
このまま自分だけで軍閥長の首を取れればよし。
取れなくとも、メノウが生存をバラさなければあの二人に危害が及ぶことは無い。
「(この城にそこまで強い者はいないはず。ワシ一人で十分取れる!)」
変装を説き、元々来ていたローブとベールに着替える。
城の通路を駆け上がり、一気に最上階めがけて突っ走る。
先ほどアズサから聞き出した話によると、最上階の一室が軍閥長の部屋だという。
警備兵が突然の侵入者に対応できず、戸惑いを隠せないでいる。
この勢いのまま、速攻で事を決めなければ物量差で負けてしまうかもしれない。
「アイツはあの緑眼の少女メノウ!」
「バカな!死んだはず!?」
「死んで…無いわ!」
兵士数人を、壁にかけてあった軍旗の支柱でなぎ倒す。
その後も敵の兵士の武器を奪いながら、自身の拳で切り抜けながら先へと進んでいく。
「クソ!我々だけでは抑えきれん!」
「これ以上は…うわ!」
「ジャマ!」
最上階への扉を守る兵士たちを吹き飛ばし、軍閥長の部屋の前へ立つメノウ。
大きな鉄製の戸を開けると、そこにはまるで王の間のように豪華な部屋があった。
パーティなどを開くためのホール、そしてそれを見下ろすことができるほどの高台にある軍閥長の座。
そして、その軍閥長の座に続く階段。
「ここが南ザリィールで最も偉い男のいる部屋か…」
部屋に一歩足を踏み入れると、鉄製の戸が音を立ててゆっくりと閉まって行った。
もうここからは出られない、ということか。
辺りを見回しながら足を進めるメノウ。
そこに、一人の男が現れた。
「そうだ、歓迎しよう。緑眼の少女メノウ!」
高台からメノウを見下ろす一人の男。
軍服に赤いマントと金色の羽飾りを付けた、威厳に満ち溢れたその男。
その姿はまさに、幾多の戦場を潜り抜けてきた歴戦の戦士そのもの。
「…お前さんが軍閥長か?」
「まさか、私は将軍のマーク・レナード。軍閥長では無い」
「わざわざどーも…」
その男は将軍のマーク・レナード。
軍閥長に代わり、政治などの細かい部分を取り仕切る男だ。
もっとも、税率や刑の執行などは軍閥長自身が決めるが…
「何をやってる!さっさと殺せ!」
椅子に座る男がマークに対して叫ぶ。
この男が軍閥長のイーガリス。
マーク将軍と比べると威厳の欠片も無い、いかにも人望の無さそうな人物だ。
「お前が軍閥長か」
「ふふふ、そうだ!まさか生きていたとはな。反逆者め」
「残念じゃったな…ッ」
その声と同時に、軍閥長の間の鉄製のドアが爆炎に包まれた。
そ爆風で部屋の壁に叩きつけられるメノウ。
先ほどまでこの部屋を閉じていたドアは、轟音と共に一瞬で鉄屑へと変貌した。
「いたた…な、なんじゃあ?」
「下がってろ、ガキが」
人の背丈ほどもある大型迫撃砲を担ぎ、爆炎の中から一人の男が姿を現す。
マーク将軍はその声に聞き覚えがあった。
その声の主、それはあの攻撃をメノウ達と共に受けた男。
死亡したと思われていた陸軍のテリーだった。
奇跡的に生還を果たしたテリーは、復讐のため城に殴り込みをかけたのだ。
そのタイミングがメノウの襲撃と重なってしまったのは、彼にとって好都合と言えた。
上手くメノウを陽動作戦に使用できたからだ。
「テ、テリー!生きていたか!」
「マーク将軍、俺は別にあんたを責めるつもりは無い。俺が憎いのは…」
そう言うと、メノウの横を駆け抜け一直線にイーガリスの下へと飛び掛かる。
弾薬を使い果たした迫撃砲を思い切り振りかざす。
自らの背丈ほどもある迫撃砲、それを軽々と振り回し武器とするその姿はただの軍人では無い。
武人そのもの。
「どうした?偉そうなのは態度だけか?」
「マ、マーク!こいつを殺せ!」
「し、しかし…」
「おっと、動くなよ将軍。あんたを殺す気はないが…邪魔するなら撃つぜ」
迫撃砲に弾を入れながら、テリーが言う。
「ひぃぃ…誰か助けてぇ…」
「もう貴様を助けるものなど誰もいない!」
このままいけば、テリーがイーガリスを始末し全てが終わる。
軍人によるクーデターなど、歴史上珍しいことではない。
テリーやマークに興味も無いメノウがこれ以上この場にいても意味は無い。
彼女は静かにその場を立ち去ろうとする。
だが…
「この感じ…」
一瞬、妙な気配を感じた。
憎悪や悲しみ、それらを纏う怨念の類が部屋を包み込む。
…空気の流れが変わる。
だが、テリーはこの変化に気づいていない。
迫撃砲を、腰を抜かしているイーガリスに向けて放つ。
これですべてが終わる。
そう確信するテリー。
だが…
「な…!?」
迫撃砲の弾頭がイーガリスを逸れ、壁に激突し爆発。
そのまま部屋の壁には大きな空洞が開いた。
この距離で外すことなどありえない。
ならば何故…?
爆発によって発生した煙が止み、視界が段々と晴れてくる。
そこには、イーガリスを守るように立つ一人の黒い騎士がいた。
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