第十二話 決戦!南ザリィール軍
メノウ達が村に来てから一週間が過ぎた。
薬の影響も身体から消え、すっかり元通りとなったメノウ。
何度か、酒場にアシッドがリベンジにと来ることがあった。
もっとも、そのたびに追い返してはいたが。
今日も朝早くから部下を数人連れてやってきた。
まだ日も昇りきっていないのに無駄に元気なヤツだ。
「今日こそウチのチームに入ってもらうぜ!」
「ま~た来たぜあいつら」
「しつこいのぉ…」
そう言うと。メノウは一人で酒場の窓から外へ飛び出した。
全快した身体の調子を試すための準備運動がてらにアシッドたちを相手にしようというのだろう。
リーダーであるアシッドは銃剣、連れてきた部下二人は棍棒を持っている。
もっとも、メノウなら軽く倒せるだろうが。
「おい、ワシは今日でこの村を出る。相手をするのはこれで最後じゃ」
そう言い終わると同時に地を蹴り、棍棒を持つアシッドの部下の一人の懐へと間合いを詰める。
一瞬の出来事に戸惑いを隠せない部下の男。
とっさに棍棒で殴ろうとするも、メノウの動きの方が早かった。
低身長を生かした低地からの頭突きで部下の男を倒す。
「てめぇ!」
もう一人の部下が棍棒で殴り掛かる。
全体重をかけた一撃だったが、それをメノウは片手で受け流し反撃の拳を腹に打ち込む。
それを受け、その場にうずくまる部下の男。
僅か一分足らずで残るはアシッド一人となった。
さすがに勝てないと思ったか、武器を引込めて逃走した。
「いつか絶対仲間に引き入れてやるからなぁ!」
彼らを退け、店内に戻るメノウ。
先ほどの騒ぎで起きてきたミーナと、店の準備をしていた店長が中で話をしていた。
この先の旅の食糧を譲ってもらおうとしているようだ。
金はあるので、とりあえず一週間分の食料を分けてもらえることとなった。
荷物もまとめ、再び旅立つ準備もできた。
だが…
「どうした、メノウ?」
「いや…ちょっとな…」
そう言うと、メノウは店長に金を渡しあることを頼んだ。
それは…
「馬のアゲートを預れって!?」
「金は渡すから、頼む!」
「…う~ん」
この先、アゲートでの移動はさすがに目立つ。
元々がザリィーム帝国の軍馬だけに、軍の関係者が見れば怪しまれることもあるだろう。
これから向かう都市、『シークマント』は特にザリィームの軍人が多くいる地域。
目立たずにアゲートで移動するのはかなり難しい。
「もちろん後で必ず引き取りに来る!アゲートはワシの仲間じゃ!」
「まぁ、金をもらった以上引き受けないわけにはいかないからな…」
そう言うと、店長は瓶詰の水を一本メノウに渡した。
「契約書替わりだ」
「…頼む!」
そう言い、メノウたちは酒場を後にした。
ここから先は徒歩で、『シークマント』を目指すこととなる。
だがそちらの方が普通の旅人を装えていいかもしれない。
「よかったのかメノウ?アゲートを預けてきて」
「ああ、全部が終わったら引き取りに行く」
「ここから先は徒歩だ、ゆっくりいこう」
この村からシークマントまでは何個かの山を越えなければならない。
その道中には、大昔に作られた建造物の遺跡がいまだに残る地でもある。
居住区や土煉瓦で作られた道の跡、貯水湖に鉱山跡など…
ある意味では退屈しない、素敵な場所だ。
そして、村を出てから数時間、三人は土煉瓦で作られた道を歩いていた。
道がある程度舗装されている分、野山を往くよりはずっと楽だ。
だが、さすがに朝から歩き通しだと疲労がたまる。
大木の木陰で三人は休むことにした。
「この辺りは昔、何があったんだろうな」
「確か鉱山とかがあるって聞いたことがあるよ」
ショーナの問いにミーナが答えた。
木陰の下に少し心地よい風が吹き抜ける。
それは、休憩している三人に少しの安らぎを与えた。
だがそれもつかの間だった。
「…何か聞こえる」
突然、メノウが呟いた。
ショーナの耳には何も聞こえなかった。
聞こえるとすれば木の葉がすれる音だけ。
少し経ってミーナが言った。
「この音…馬の蹄の音か…?」
幻聴ではない。
しかし、その音は確かに近づいてくる。
それも一匹ではない。
五、十、いやそれ以上か…?
「来るぞ!」
目の前にその音の主達が現れた。
馬を駆る兵士たちだ。
全員それぞれが手に剣や棍棒などの武器を所持している。
少なくとも味方ではないということが一発でわかる。
「何者だ!」
ミーナが叫ぶ。
それを聞いたリーダーと思われる男。
その彼が駆る馬。
その馬が身に纏う鎧に描かれた紋章を指さした。
「『ザリィーム帝国南陸戦騎馬部隊』!」
「陸戦部隊だと!?」
陸戦部隊は南ザリィーム陸軍の部隊。
ミーナが四重臣として活動していた際、陸戦部隊の一つに騎馬隊があるとは聞いたことがある。
ということは、今目の前にいるのは南ザリィームの正規軍ということになる。
それを理解したミーナは驚きを隠せない。
「恨みは無いが、貴様らの命貰い受ける!」
そう言うと、リーダーの男は自身の持っていた剣を空に向け構える。
それが合図となり他の者達が地響きを立てながら一斉に襲い掛かった!
いくらメノウ達でも、この地でこれだけの数を相手にするのは無理だ。
「ショーナ!メノウ!一旦逃げるぞ!」
ミーナが叫ぶ。
道の横には森が広がっている。
馬では通れぬような、木々が生い茂る森だ。
しかし騎馬隊の兵士たちはそれを追おうとはしなかった。
「奴らは森の方に逃げた、ゲリラ部隊に任せるぞ」
リーダーの男は仲間にそう言った。
森の中で待つのは『陸戦ゲリラ部隊』。
森などの遮蔽物の多い地での戦いを得意とする部隊だ。
陸戦ゲリラ部隊は森に入ってくる三人を狙う。
森には三十人ほどのゲリラ部隊隊員を配置している。
腕に自信のある三十人だ、たとえ相手がメノウ達であろうとこの森の中でなら優位に立てる。
「森の中にも敵がいるのかよ!」
先ほどの騎馬部隊に続き、森の中のゲリラ部隊。
突然の襲撃に戸惑うショーナ。
一方、メノウとミーナは冷静に状況を分析し敵の位置を把握。
おおよその戦力などを見積もっていた。
「(三十人チョイか…ちと厄介じゃのぅ…)」
メノウは元々は遺跡の森で暮らしていただけあり、森の中での活動には長けている。
当然、森林戦も得意中の得意分野。
ミーナも森のような場所での戦いは熟知している。
だが『ショーナとミーナを守りながら』、『三十人以上を相手にする』というのは非常に難しい。
それに、まともに戦ったとしても先ほどの騎馬部隊がまた襲ってこないとも限らない。
となれば、選択肢は一つ…
「また一旦逃げるぞッ!」
メノウが再び叫んだ。
それを聞き、ゲリラの一人が彼女たちに木陰から襲い掛かる。
だが、それを見つけたミーナが彼を多節混で殴り飛ばした。
「逃げるからと言って全くたたかわないわけじゃないんだよ!」
逃げる三人に襲い掛かるも、森の木をうまく利用した逃走により思ったように当たらない。
森の中での戦いでは、ゲリラ部隊隊長よりもメノウの方に分があったようだ。
騎馬部隊とゲリラ部隊の追跡から逃れた三人。
やがて、森が開けて大きな広場に出た。
どうやら木材調達のための伐採が行われている場所のようだ。
だが、それをさらに追いかける別の部隊が現れた。
「チッ、誘導されたってわけか…」
あちこちに切り株が並ぶその地には、金で雇われた『傭兵部隊』が待ち構えていた。
「へへ、ここから先は通さないぜ」
数十人の傭兵たちが大きな壁のように並列している。
後ろからは回り道をしてきた騎馬部隊。
そしてゲリラ部隊。
前には傭兵部隊、これでは逃げることもできない。
「挟み撃ちだ!」
「いけぇ!ぶっ壊せ!」
傭兵部隊たちが剣を構え、騎馬部隊とゲリラ部隊が一斉に突撃する。
地響きを立てながら進む彼ら全員を今の状況で相手にするのは不可能。
となれば…
「お前さんらの馬、借りるぞ!」
そう言うとメノウは近くに置いてあった伐採された丸太を持ち、勢いよく跳び上がる。
騎馬部隊たちに丸太をぶつけて地面に叩き落とした。
そしてそのうちの一匹の馬を奪い取った。
「乗れ!」
メノウがショーナ達に言った。
彼女の後ろに飛び乗るショーナ。
ミーナも別の者が乗っていた馬を奪い、その場から退避。
来た道をいったん戻る三人。
先ほどのゲリラ部隊に合わないよう、森の中の別の道をたどって行った。
「ご自慢の馬を奪われるとは情けねぇな…!」
「まあいいさ。どうせまだ部隊はいる。俺たちがわざわざ頑張る必要もないさ」
「違いねェな」
自分たちが追わなくても、次の部隊が追いかける。
そう言う騎馬部隊の隊長とゲリラ部隊の隊長。
「軍閥長の気まぐれに付き合ってやったんだ。『この程度』で十分だろう」
騎馬隊が全滅してしまった今、追跡は不可能。
この場は潔く引き下がるしかなかった。
騎馬部隊にゲリラ部隊、傭兵部隊。
三つの部隊が三人を逃してしまったという連絡は、すぐさま前線基地へと送られた。
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